『お前、誰?』――朝の光と、強面イケメンと、戻らない記憶。

「時津。悪いが、彼にはまだ聞いておきたい事も、確認せねばならない事もある。部屋の案内が終わったら、また俺の部屋に来てくれないか。……突然、このまま仕事に行くのも大変だろう」

俺が振り返って、心の中で(すが)るように思ったことが伝わったのだろうか。
イケメンは、誠人さんにそう声を掛けてくれた。

あ~、なんか。……今の、めちゃくちゃキュンときた。

誠人さんは何か不満そうに反論していたが、ひとまず話はまとまったらしい。
誠人さんはそのまま、俺を部屋に案内してくれた。

移動中、「圭人(けいと)と何があった?」と聞かれたことで、俺はあのイケメンの名前が『圭人』なのだと知った。

誠人さんは、本当にいい人だった。

記憶のない俺を心配しながらも、気を使いすぎず、圭人の悪口を言いながらも「助けてもらってよかったね」と笑ってくれた。
「あいつは見た目ほど怖い奴じゃない」とも教えてくれた。

同期でライバルっぽくはあっても、決して嫌い合っているわけじゃないようだ。

俺の部屋の間取りや使い方の説明が一通り終わったあと、誠人さんはぽつりと言った。
――実は、志津は前から圭人のことを好きだったんだ、と。

「おそらく、志津はもうあいつを好きになっちゃったんだろうけどね」

誠人さんは苦笑しながら、俺と圭人の様子を見て、二人の間に何があったのかもすぐに分かったと言った。

でも、「憧れと好きは紙一重だから、無理に好きだと思わなくていいし、早まる必要はないよ」とも強調してた。
本当のお兄さんって感じで、俺は自分がすごく幸せ者だと思った。

誠人さんは、俺に「早まるなよ」と改めて釘を刺しながら、再び圭人の部屋の前まで連れてきてくれた。

扉をノックすると、即座に圭人が出てくる。
「何度も言うが、志津を傷付けるなよ」と、圭人に念を押し、誠人さんは仕事にいった。

部屋に迎え入れられると、圭人は苦笑しながら、自分の我が儘で仕事をサボらせたことを謝ってきた。
俺の目線に応えて部屋に呼んでくれただけなのに、圭人は俺に対して、異常なほどに申し訳なさそうに何度も謝る。

『昨日の志津は薬に浮かされて、心にもなく俺の想いに応えてしまっただけだ』とか思ってそう。なんとなく、そんな気がした。

さっきの誠人さんの反応や、自分の過去から言っても、信じたくはないが、今までの俺は少し貞操観念が緩かったのだろう。……信じたくないが。

だから圭人は、俺が薬の勢いで適当に「付き合う」って返事をしただけなんだ、と距離を置こうとしているのだ。

でも。
今朝から今までの時間で、俺は自分がちゃんと、圭人に惚れていたんだと確信した。

まだちょっと、自分が男同士の恋愛をしているというのは信じられない気持ちもあるけれど。

さっき行った自分の部屋にだって、隠された場所に、圭人の姿絵が大切そうに置いてあった。それが何よりの証拠だ。

だから、俺は意を決して、目の前の圭人の身体に触れてみた。

自分の手で直接触れてみれば、きっと感じる何かがあると思ったから。