『お前、誰?』――朝の光と、強面イケメンと、戻らない記憶。

お知り合いから始めろとか言っておきながら、俺はイケメンが関係を誤魔化すのを、モヤモヤした気分のまま見守っていた。

綺麗な人は、俺の記憶がないという話にものすごくビックリして、激しく狼狽(うろた)え始めた。

検査はしたのか、薬の成分はわかるのか、犯人は分かっているのか。
さっきまでとはまた違った必死さで、気迫が凄い。

綺麗な人がイケメンに詰め寄り、迫りまくるのを、俺はなんとなく他人事のように外から見ていた。

そういえば……俺はまだ、この二人の名前すら知らないままだ。
イケメンとは、もう二時間近くも一緒にいるのに。名前を呼ぶなんて、考えもしなかった。

相手の名前すら聞きもしなかったくせに、俺のことが好きだと言ったイケメンが、義務的に俺を匿ったかのような言い方をしたことに、ひどくムカついている。

そんな事より大事なことがいっぱいあるとは思うけど、もやもやした気持ちだけがどんどん膨らんでいく。

上司として、ただの仕事だったみたいな言い方。
個人的に匿ったわけじゃない、みたいな冷たい言い方。

それが、凄い嫌だった。

結局、イケメンはその綺麗な人に俺を任せるつもりのようだ。
綺麗な人が、こちらを振り返って優しく話しかけてくれる。

「私は、血は繋がっていないけれど、志津の兄の誠人(まこと)です。こんな図体のデカい、人相の悪い不愛想な男と二人きりで怖かったでしょう。記憶が無くても、少しずつ思い出していけばいい。思い出さなくても、志津は志津です。ゆっくり慣れていきましょう。私は志津のお手伝いなら何でもします。まずは、志津のお部屋から案内しますよ」

凄く優しい声で、優しい言葉をかけてくれる。俺に対する真っ直ぐな愛情も感じられる。

きっと、朝起きて最初に会ったのがこの誠人という兄貴だったら、俺は何の疑問も無くこの人を頼っていたと思う。

でも。

俺はどうしても、名前も聞いてないあのイケメンを見てしまう。

確かに図体はデカいし、美形とはいえ柔和な顔つきじゃない。言われてみれば、強面で不愛想かもしれないし、必要最小限のことしか話さない感じではある。

でも、それだって俺にとっては可愛い個性だと思える範囲内だ。

――なぁ。忘れたのは悪いけど。

お前は俺の、じゃねぇのか?