『お前、誰?』――朝の光と、強面イケメンと、戻らない記憶。

もう、ね。……いっぱいいっぱいよ。

愛しさと、可愛らしさと、幸福感と。
胸の奥から、もう、良い感情ばっかりが次から次へと湧き上がってきた。

好きだわ、愛してるわ、幸せだわ。
俺は圭人に何も言葉を返すことができずに、ただただ必死に抱き締め返した。

言葉で表せないって、こういう事なんだと生まれて初めて実感する。

でも、ちゃんと言葉も返さなきゃいけない。
そうは思うものの、感情が溢れすぎて言葉なんて何も出てくれなくて、何か言わなくちゃって焦りながらも、喉が震えて言葉が形にならない。

しゃくり上げながら、ただ圭人にしがみついて泣く俺を、圭人はしっかりとその腕で抱き締め続けてくれた。

頭を優しく撫でてくれたり、背中をぽんぽんと撫でてくれたり、たまに愛おしそうに髪の匂いを嗅いだり、頭のてっぺんにちゅっちゅとキスをくれたり。

もうそれだけで、幸せすぎて涙がどんどん溢れてくる。

――後から聞いた話、俺はその状態で二時間以上も泣いていたらしい。流石に申し訳ない。

自分では気付いていなかったけれど、「記憶がない状態」というのは、思った以上に心に負担がかかっていたらしい。

彼の告白が嬉しかったし幸せだったのもあるけれど、それ以上に「あぁ、もう大丈夫なんだ」という、心の底からホッとする安心感が強かったんだと思う。

――◇――

俺がようやく泣き止んだ時には、部屋の中が美しい夕焼けに染まっていた。
早めに終わった仕事直後にこの部屋に来たから、かなりの時間が経ったことはすぐに分かった。

気付いたらベッドの上に移動していて、俺は圭人が組んだあぐらの上にすっぽりと座っていた。
まるで、コアラみたいに彼に抱きついたままで。

道理で、さっきからちゅっちゅされる位置が、頭のてっぺんから頬っぺたに変わっていたはずだ。

圭人は、初めてのあの朝と同じように、俺をじっと見つめて優しく微笑んでいた。
でも、あの時とは比べ物にならないくらい、今の彼は恋人感満載だ。

「お前、誰?」と聞くタイミングを必死に計りながら、目の前の男を見つめていたあの朝が、なんだか遠い昔のことのように感じる。

そう思ったら、なんだか急に可笑しくなって、自然と笑みが(こぼ)れてきた。

「圭人。――愛してる」

スルッと、素直な言葉が口から出てきた。
それが今の俺にとって、当然のことだと思えるほどに。

今度は圭人のほうが泣きそうな顔になっていたけれど、彼はグッと堪えて泣き出しはしなかった。

俺を愛おしそうに強く抱き締め、熱い口付けを交わしながら、ゆっくりとのしかかるように俺を押し倒してきた。

正直、あの朝目撃した『あのバズーカ』も思い出して、一瞬だけビビったりもしたけれど……一度は受け入れられたものだ。きっと今度も大丈夫だと思う。
あの朝も、違和感だけで痛くはなかったんだから。

圭人のすべてを、受け入れよう。
そう心に決めて、俺は彼にそっと身を委ねた。

赤く照らされた部屋は、ゆっくりと暗さを増していき、やがて圭人の可愛い顔しか見えなくなった。

その部屋には、ただただ、幸せだけが満ち満ちていた。