『お前、誰?』――朝の光と、強面イケメンと、戻らない記憶。

次の日から、俺は何の不自由もなく仕事をしている。

記憶は戻らないままだが、仕事場にはファンの子らも別の友人もいて、日常生活には全く問題ない。

記憶喪失だからと腫れ物に触るように扱われるかと思いきや、元の俺の性格をみんなが知っているせいか、そんな気まずい空気も一切なかった。
むしろ、「俺たちのことまで忘れてんじゃねぇよ!」って感じで、ガンガン遠慮なく絡んできてくれる。本当に有り難いことだ。

圭人も上司として一緒に行動することが多い。

以前の俺たちは『犬猿の仲』のような関係だったらしいが、友人たちもファンも、俺が圭人に惚れていることを最初から知っていたらしく、今は生温(なまあたた)かく微笑ましく見守られている。

なんでも、圭人が取り締まる対象は、基本的にはいつも風紀を乱している俺だったらしい。

圭人曰く、「始末書を書かせるために連行するついでに、志津の腕に触れられて嬉しかった」とのことだ。
友人談によると、俺のほうもそれが目的で、わざと圭人の目の前で仕事中にファンの子たちとイチャイチャして挑発していたらしい。

……うん。過去の俺のヤバい行動を振り返るのは、もうよそう。

ファンの子らは、今でも「志津様との夜が忘れられない」とか言って絡んできたりもするが、「恋人ができたから、今度は4Pしたい」と誘われることも増えた。彼らに恋人ができたことを喜ぶべきなのだろう。

「ちゅーくらいは許されてしかるべきでしょ!」と彼らは主張しているが、彼らが俺に抱き付くたびに、どこからともなく圭人がものすごい勢いで阻止しに飛んでくる。

『好きならちゅーしたくなるものでしょ?』と言ったファンの子の言葉に煽られて、圭人が俺の口元をチラチラと未練がましそうに見ていたのが、可愛くて仕方なかった。

だから、次の昼休憩に彼をこっそり建物の影に連れ出して、俺からちゅーしてやったら、今度は圭人から熱いディープキスを返された。あの時の圭人は、マジで愛おしくて仕方がなかった。

――◇――

結局、俺は何も思い出していないけれど、圭人とはいつの間にか『恋人っぽい感じ』になっている。
いつも一緒にいるし、ちゅーもするし、こないだなんか部屋で抜き合いっこまでした。

でも。
「恋人になりましょう」という、決定的な言葉は、今のところお互い口にしていない。

圭人が俺のことを好いてくれているのは、分かっている。
今度は俺のほうから圭人に好きだと伝えるべきだとは思うのだ。

だけど、「記憶のない、今の俺」のことも同じように好きでいてくれているのだろうか……なんて不安がよぎってしまい、あと一歩を踏み出す勇気が出ないのが現状だった。

いや、まぁ、普段の圭人の甘々な反応を見るに、絶対に好いてくれているとは思うんだけど。
でもさ、そういう頭の理解だけじゃ割り切れないじゃん。何かほら、ね。分かるでしょ?

これが、恋ってやつよ。

――だが、そんな俺のウジウジとした不安は、圭人にはとっくに丸分かりだったらしい。

明日から遠征前の長期休暇という日の仕事終わり。
俺は、圭人の部屋に招かれた。

部屋に入った途端、がっつりと抱き締められて。

はい、頂きました。

「――愛してる、志津」