『お前、誰?』――朝の光と、強面イケメンと、戻らない記憶。

突然、何の前触れもなく抱き付いた俺に、圭人は驚いて固まった。

でも、そのままじっと抱き付き続けていたら、彼は俺の背中をギュッと抱き締めてくれた。

本当に、大切なものを壊さないように扱うみたいに。
大事に、噛み締めるように。
苦しすぎない絶妙な強さで、けれど力強く。

それは、圭人の想いそのものだと感じられた。

あぁ……俺はこの人を好きになる。信じても良いんだと、心から確信できた。

「お前の名前、俺まだ聞いてない」

抱きしめられた状態のまま、俺は彼の名前を尋ねた。

「あ、あぁ……すまない。俺は火村(ひむら)圭人(けいと)だ」

圭人も、俺を抱き締めたまま答えてくれた。

俺よりもだいぶ背が高い彼の声が、頭の上から降ってくる。
声に合わせて動く目の前の男らしい胸板が、今朝の目覚めを思い出させて、なんだか急に照れ臭くなった。

「圭人、俺、多分、お前のこと、好きになるよ」

まだ少し曖昧な言葉だったけれど、今の俺の精一杯の気持ちを伝えた。

何も覚えていない俺にとって、一番頼れる相手だということもあるとは思う。
それでも、俺は圭人の存在に明らかに安心している。好きという感情を育てるのに、時間は必要ない。

圭人は何も答えず、ただ、より一層強く俺を抱き締めた。

――◇――

ひとまず、俺は圭人に気持ちを伝えられてスッキリしたので、彼に連れられて一緒に仕事場へとやってきた。

仕事に出るのは明日からにしようということになったが、昨日の早退についての報告をしなければいけないらしい。

まだ午前の訓練中だったため、廊下には誰も歩いていなかった。
(これなら、二人きりの部屋でもうちょいイチャイチャしていても良かった気がするんだけどな……)
なんて思ったが、仕方ない。

連れて来られたのは、『騎士団事務室』という場所だった。
どっちみち、ここでも圭人と俺の二人きりだ。

報告用の書類はほぼ圭人が記入してくれて、俺はその内容に間違いがないか確認して署名するだけだった。
特にすることもなかったので、俺は部屋の中をフラフラと探検してみることにした。

奥には、仮眠部屋、反省部屋、待機部屋などがあった。

待機部屋は机と椅子だけ、仮眠部屋はベッドしかない部屋でつまらなかったが、なぜか『反省部屋』の棚に、大人の玩具的な怪しいアイテムが置いてあってビックリした。

一体どうやって団員を反省させる部屋なんだ、ここは。怪しすぎるだろ。

ひと通り見終えて退屈になったので、俺は大人しく机に向かっている圭人の邪魔をすることにした。
どうやら俺は、結構な『構ってちゃん』らしい。

「けーいーと」

隙を突いて、圭人の膝の上にすとんと座ってみた。

だってほら、好きだって自覚しちゃったら、触れていたいと思うのは当然だろ?