同じ朝だけが違っていく

気がつけば、私は家に着いていた。

"楓が死んだ"

その事実しか頭に入ってこなくて、事故の時に誰が周りにいたのかも、どうやって帰ったのかも、全く頭になかった。

玄関の明かりがいつもと同じように明々と輝いていた。

その光がなぜか私には苦しく感じられた。

世界は何も変わっていない。

町も、家も、明かりも。

自分だけが取り残されいる感覚が胸に広がっていく。

それが怖かった。

手が震えてうまく動かない。

なんとか鍵を取り出し、ゆっくり鍵穴に差し込んだ。

ガチャ。

扉が開いた瞬間。

「夜遅くまでなにしてたの、このバカ女」

母の怒声が鼓膜に響いた。

いつもなら言い返していたが、今日は何も言わずに靴を脱いだ。

「....」

母は返事をしない私を見て、表情が少しずつ変わっていった。

母の視線の先が私の手に向けられていることに気付いた。

自分の手。手のひらから指先まで乾きかけた赤黒い跡が広がっている。

「...なにが...あったの」

母の声が震える。

その問いかけで、ようやく現実に戻された。

何があったのか。

何度も頭の中で繰り返した言葉。

「楓が....事故で死んだ」

 その言葉を口にした瞬間、心にこの世で一番重いものを乗せられたような気分になった。

 母は何も言わず、目を伏せた。
 
 私はそれ以上は何も言わず、自分の部屋へ向かった。自分の部屋に入り、体をベッドの上に投げ出した。

それから少しして、部屋の外から母の声が聞こえた。

「....手、あとで洗ってね....」