ツンツン
「ん…、なに?」
「昨日は水ありがとう」
「あぁ、水ね…。それより指はどうなの?大丈夫?」
「うん、水ぶくれになってたから針で潰したんだよね」
「えっ…針で?そんなことしていいの?」
「寝てる間に絶対潰れると思って…。
だからその前に針で刺して水を抜こうと思ってさ」
「いやいや、そういう問題じゃないだろ」
「えっ、そうなの…ダメだった?」
「ダメっていうより、病院とか行かない?」
「だって痛みとかもう無くなってたし。峠は過ぎたって感じだったんだよなー。
それに寝てる間に潰れる方が嫌じゃん。針で一回刺したら済むわけだし」
「なかなかやるな。でもちょっと引いたわ」
そんなもんなのか…。
高砂くんが驚いたような、呆れたような顔で僕を見ている。
我が家では水ぶくれが出来た時は、寝る前に消毒した針で潰すのが当たり前に行われていたからそんなに驚く様なことではないと思ってたけど。
「やっぱり…?うーん、そうなのかな。
ねえねえ、そんなに引いた?
でも水ぶくれになってたから思ってる以上に痛くなかったんだよね」
「やっぱり面白いよ、青って」
しまった…また名前で呼ばれちゃった。
「指……どうなったか見せてよ」
「あっ、あぁ。こんな感じだけど」
指先を、高砂くんにかざして見せた。
「…ん…近すぎて見えないんだけど」
おい、まて。
だからって指を掴んでいいとは言ってないぞ!
「あっ、本当だ。下に新しい皮膚が出来てるんだ。良かったな。」
「それでさ、昨日心配してくれたお礼にって言ったらなんだけど、これ…高砂くんにあげる」
「えっ、なに?」
高砂くんは僕が差し出した小さな袋を手に取った。
「中、見てもいい?」
「もちろんだよ」
小さな袋から丁寧に中身を取り出す。もっとビリッて破るかと思ったのに意外だ。
「なに…チャーム?えっ、羅針盤の…。
カッコいいなぁ。こんなのあるんだ。本物を見るのは初めてかも」
「本当に?!高砂君くんに似合うと思ったんだよね。
だから、どっかにつけて持ち歩いてよ」
「俺が貰っていいの?」
「うん、お守りなんだって。高砂くんに貰って欲しいんだ」
「ヘぇ〜、ありがとう。カバンに付けるよ」
「僕の方こそありがとう」
ふふふふふっ
あははははっ
高砂くんが早速カバンに付けてくれた!!
こんなに簡単に上手くいっていいのかな?
初めてじゃない?
今まで失敗続きだったのに…。
……ん?
一瞬、羅針盤の針が僕の方に振れた気がしたけど
いや、気のせいだろう。
【 昨日の夕方 】
どうしよう?!
正夢回避までに1週間を切ってしまった。
流石にちょっと焦るよな。
しかも高砂くんって単なる人間嫌いじゃなくて、人と合わせるのが苦手なだけで案外いいやつだったりするし。
どうしたもんかなぁ〜。
まじでなんとかしないと申し訳ない。
考えろ。
考えろ自分。
あっ!
手首に巻いてある赤いミサンガが目に入った瞬間
いいアイデアが降りてきた。
あのお店
ガラス玉を買ったお店でよくない?
そう思ったら居ても立っても居られない。
すぐに家を飛び出してお店に向かっていた。
カランカラン
「いらっしゃいませ」
「あのぉ、ボク…前にここでガラス玉を買ったんですけど」
「あっ、恋を回避したいって言ってた…?」
「そうです」
「覚えてますよ。そんな方は初めてだったので。
今日は何をお探しですか?」
「僕のことを色々心配してくれたクラスメイトがいて。
お礼にその子に彼女が出来るとか、なんなら僕達がずっと友達でいられるみたいなお守り…ないかなぁ〜って思って」
「なるほどー。彼女とか彼氏とか断定できるお守りはないんですけど、運命の人と巡り会えるお守りならありますよ」
「えっ、そうなんですか…。
運命の人と巡り会えるお守り…か」
「えぇ、でもすでに運命の人と巡り会っていた場合にはー」
「それ!それでいいです。どんなのがあるか見せてもらってもいいですか?」
「いいですけど、お客様は相当お急ぎなんですか?」
「はい、あんまり時間が無くて…」
「ではこの羅針盤のチャームなんてどうでしょうか?運命の歯車がカチッとあった時に威力を発揮するって言われてますよ」
「それ、それでお願いします」
「はい、即決ですね。ありがとうございます」
こうして手に入れたお守りは無事に高砂くんの元へと渡ったわけで。
何、この順調さは?
なにか兆しが目に見えるわけではないけど、こんなにすんなりカバンに付けてくれるなんて、もうある意味成功してるんじゃない?
そう思わずにはいられない。
さあ、後は英語の授業さえこなせば学校が終わる…。やれやれだよ
ガラッ
nice to meet you
英語の先生がいつもの様に挨拶しながら教室に入ってきた。
よし、もう勝ったも同然。そう思ったら苦手なリスニングも歌のように聞こえてくる。
外の晴れ間と僕の心がマッチングしているのか軽やかにさえ感じる。
余裕だあぁーーー。
えっ、あれ…?
突然教室が暗くなった…なにが起こった?
わけが分からずに教室の中を見渡してみた。
どうやら他の子も同じことを感じたようで少しざわついている。
「なぁ、青あれ見てみろよ」
隣のウッチーが窓の方を指さしていた。
ポツポツポツポツ
えっ、うそだ雨…。
さっきまでいい天気だったのに?
やばいな。
すぐにやむかなぁ?
今日、傘持って来てないんだよな。
「It looks like rain」
先生がボソッと呟いたのが聞こえた。
【 昇降口 】
「あーぁ、やっぱり止まないか」
下駄箱で靴に履き替えて、しばらく空色と睨めっこしていたが、どうも無理そう。
かと言って本降りとまではいかない。
なんとも中途半端な雨。
ついさっきまでいい天気だったから、殆どの生徒が傘を持ってきていないようで、下駄箱は沢山の生徒で溢れかえっていた。
「まさか雨が降るなんてな。傘持ってきてないよ…どーする?」
「まぁ、いけるでしょう」
「走ればなんとかなるんじゃない?ちょっとくらいなら濡れて帰るよ」
「うーん、走るか。じゃぁなぁ〜」
友達は諦めてさっさと濡れながら帰っていった。
しょうがない。僕も走るか。
とりあえず息が続く所まで一気に走ろう!
「よし」
呼吸を整えてカバンを雨よけに勢いよく走り出した。
ゼェゼェゼェゼェ
あれ……?
おかしいなぁ、思った以上に走れない。
やっぱりカバンを持ってると不安定なのか、走りづらくてすぐに息が切れる。
もういいや。
どうせ濡れるんだから。
歩こう、そうそう、歩いて帰ろうっと。
そう思ったら諦めがついた。
走るのをやめて歩き始めた瞬間
「……えっ、なに?なに?」
急に頭の上が暗くなって降っていた雨が止んだ。
何が起こったのか分からずに慌てて上を見上げてまた驚いた……。
「高砂くん、なんで」
「傘忘れたんだろ?一緒に入ってけよ」
「…!!!」
いやいやいや、なんで、どーして。
「カサ……持ってたの?」
「うん、折りたたみ。ロッカーに入れっぱなしになってたやつ」
「しかもいつの間に後ろにいたの…??」
高砂くんって忍者なの…忍びの術とか?
全然気が付かなかった。
「だって制服着てカバン持って走るって案外大変だろ?
自分で思ってる以上にスピード出てなかったよ」
はっ?
それって、僕が走ってるところをずっと見てたって事?
スピードがでてないとか言うなよ。
そんなに遅かったのか?
それって、考えたら恥ずかしいだろうが!
なんだよぉ。
なんでそんなに見てるんだよ。
って……ちがーーう!
そんなことはどうでもよくって。
コレって相合い傘なんじゃ…?
無理だよ。
ダメだろ。
どうやって切り抜ける?
考えろ!
「いやぁ〜そのぉ、気持ちは有難いんだけど、コレって見る人が見たら勘違いするんじゃないかなぁって。
ほら、高砂くんってモテるじゃん。
女の子に焼きもち…焼かれちゃわないかなぁ〜
なんてね」
「さっき、女子同士で傘さして帰って行ったの見たけど」
「ほっほー、そうなんだ」
くっ、くそ
どうしたらいいんだ。
もっともなこと言ってきたぞ。
「ほらっ、もっとこっちに寄らないと肩が濡れてる」
ぎゃっ!!
高砂くんが僕の肩を軽く抱き寄せた。
近い。
いくらなんでも近すぎるだろ…。
「実は一つ聞きたい事があったんだけど、
さっきくれた羅針盤って言うか、方位磁針のチャーム?なんでアレを選んでくれたの?」
「えっ…なんでって」
「実はおれ、ずっと欲しかったんだよな」
「そっ…そうなの?」
「うん、アウトドアの雑誌で見てから凄い気になっててさ。本物が見てみたいなぁって思ってたら青がくれたんだよ。まるで運命みたいに俺のところにやって来たからびっくりしてさ」
「・・・・・・・」
どーいうこと?
運命ってか
はっ?なにそれ
「ちゃんとお礼が言いたかったんだ」
「いや、別にそんなこと…」
「 青 ありがとう 」
ぶーーーーーーっ!
ダメだ、こんな状況想定外すぎるだろう。
「いっ、いや、そんなお礼なんてとんでもない。
って言うかもう本当にだめなんだって…。」
「なに?」
「だってこんなに肩とかくっついちゃって、相合い傘で、しかも名前まで呼ばれて。
僕は高砂くんに運命の人と…」
「運命の人と…?」
「あっーーーと、ごめん、僕…用事思い出した。
こっち、そうこっちから帰らないと…だから!
じゃあ、そう言う事で。バイバーイ」
しまった!
危なかった!もう少しで言うところだった。
運命の人に出会って欲しくてお守りを買ったって。
そんなこと、本人に言えるわけないのに。
「ちょっ、おい、青」
後ろで高砂くんが何か言ってるのが聞こえたけど、もう無理。
絶対に振り向かない。
なのにこの道って遠回りじゃん!
なにやってんだよ、僕。
運命の人と出会えるんじゃなくて
運命の人の所に行くお守りだったのか?
いや、それにしても効きすぎだろ?
今度お店の人に聞いてみないと。
「ただいまー」
結構な遠回りをしてしまったな。
本当ならとっくに家に着いてたのに。
「おかえり〜。やだ、べちゃべちゃじゃない。
そんなに雨降ってた…?」
「色々と事情があるんだよ」
「ふーん、そうなの?
制服乾かしてあげるから早く脱ぎなさいよ。
あと、風邪ひかないようにちゃんとタオルで拭いてきてよね」
「うん。分かってるけど、なんだか予想外の事が起こっちゃってさ」
「予想外…??」
「午前5時に見た夢なんだけど」
「あぁ、いつものやつね」
「なんでかやることが裏目裏目に出ちゃうんだよ。」
「ヘぇ〜、正夢になったら困る夢なの?
今までだって夢は見てたけど当たってたじゃない。
もう夢ごと受け止めたらいいんじゃないの?
それとも回避しないと全人類が滅ぶような怖い夢でも見たの?
だとしたらお母さんが一番に逃げようかしらぁ」
「はっ!なに言ってるの?人ごとだと思って。
もういいよ」
「ちょっと、アオ〜、なんで怒ってんの?」
受け止めたらダメだからこんなに苦労してんのに。なんだよお母さんは、ふざけちゃってさ!
でも…なんでよりによって午前5時にあんな夢を見ちゃったんだろう。
いや、逆にお母さんの責任感のない言葉にかえって救われたかも。
なんだかやる気が出て来たぞ。
すごいな、僕のお母さん
後5日
120時間
いまが踏ん張りどころだ。



