14日後、高砂くんとのキスを僕はとめたい。


「ふぁ〜、そろそろ起きるか。寝過ぎて頭が痛いかも…」

午前5時の夢を見てから、初めての土曜日。
久しぶりにぐっすり寝た気がする。

せっかくの休みだし、遊びに行きたいのはやまやまだけど、うっかり外に出かけてバッタリ会った…なんてことにならないためにも土日はずっと家にいることに決めた。

外に出かけなきゃ高砂くんに会うこともないだろう。

テーブルの上には昨日しこたま買い込んだお菓子とペットボトルが置かれている。

今日は一日中ビデオを見てゲームをして、本を読んで過ごすつもり。

完璧だ……。


でもその前に、確認しなければいけないことがたくさんある。


手首に巻かれた赤いミサンガ
……異常なし

ガラス玉
……異常なし

手紙
……昨日失敗してまだ僕の手元にある。

これはどうしたらいいんだろう?
また屋上に行って飛ばす?
いや、ダメだ
高砂くん、本を読みによく来るって言ってたし…。

うーん、これは後でじっくり考えることにしよう。

あっ、あとルールについてもおさらいしないと。
これは解釈の違いが命取りになるかもしれないから気をつけないといけない。

ルール1
二人きりにならない

これって人によって取り方に違いがあると思わない?周りに少しでも人がいれば二人きりじゃないとか…。
そもそも二人きりのシチュエーションってなんなんだろ…。

公園のベンチで二人で座って話すとか?
家で二人きりになるとか…ああいうのが二人きりってことだよな。
じゃあギリ、二人きりになってない…ってことか。


ルール2
目を合わせない

これはきっと大丈夫!
だって僕、高砂くんの涙袋しか見てないから。
たとえ高砂くんが僕の目を見て話していたとしても僕が見てなかったらいいってことだよね。
たまに衝動で見ちゃうけど、今のところ目は合っていない…と思う。
ギリギリセーフか

ルール3
名前を呼ばせない

これは…
防衛できないんだよなぁ。
いつも想定外で名前を呼んでくるし。


でもあくまでも指針って言ってたからきっと大丈夫。

たまにこうやって復習できる時間があるっていいな〜。

高砂くん、安心して欲しい!
必ず阻止してみせるから

『よし!』
鏡の中の自分を見て小さく気合いを入れた。

ガチャッ

「青、お昼ご飯どーするの?食べるの、食べないの?
いつまでもパジャマでいないで着替えなさいよ」

ノックも無しで急に入ってくるの、本当に勘弁して欲しい。いつも言ってるのになぁ。
まぁ、今日は寝過ぎたという負い目があるから黙っておこう。

「分かったよ。後で降りてくよ」

「ねえ、今日のお昼ご飯ってなんだと思う?」

「なに、その質問?期待していいやつ?」

「出前取ろうかなぁと思って…」

「えええ!めちゃ期待していいやつじゃん!」

「後で部屋の掃除しなさいよ。じゃないとあんたの分は頼まないから」

「分かったよ。するする…
メニューみせてよ。僕お腹ぺこぺこなんだ。
大好きな五目チャーシューメンと餃子のセットとかでもいいんだけどなぁ〜」

「そんなに食べれるの?残したりしないでよ」

「大丈夫、全然余裕〜。とにかく下に降りてくよ」

「はい、はい」

タタタタッ

出前を待つ地獄の時間に耐えた僕の胃袋は、幸福で満ちている。
少しせりだしたように思えるお腹をさすりながら部屋に戻ってきた。

あぁもうお腹いっぱい〜何も食べれない。

「食べてすぐ横になると牛になるわよ」

小さい頃お母さんにそう言われて、牛になるなんて嫌だ!と怯えていた僕はもういない。
ちょっとだけ横になろう。
ベッドにゴロンと転がった。
お腹がいっぱいで、ふかふかのベッドにすぐ横になれて…今日はなんて幸せな日なんだ。


ふあぁぁっ〜っ
あれ……西日が眩しい。

カーテンを開けて外を覗いた。
えっっ、もう夕方…?マジで?

いつの間にか寝てしまったらしい。
高校生っていくらでも寝れるんだよな、、マジな話。

さっき西日だと思ったのは夕焼けだったんだ。
もうすぐ、一日が終わるってことか…。
改めて今日一日を過ごした部屋をぐるっと見渡してみた。

おお、散らかってるな…。

本を読んだ。
ビデオも見たし、
お菓子も食べた。
ゲームもした。
けど、
外には出ていない。
高砂くんにも会っていない。
という事は、、
…二人きりになってない。
…目も合わせてない。
…名前も呼ばれてない。

すごい…
全部守れた!
完璧だぁ。

ベッドに倒れ込んで
よし、よし、よし!ガッツポーズ

あとは夕飯食べて風呂に入って寝るだけ。
あっ、部屋の片付けしないと怒られるか…。
仕方ない
チャチャッと済まそう。
そして明日もこれを繰り返せば完璧なんじゃない?

手首の赤いミサンガ
異常なし…ありがとう

ガラス玉
異常なし… 。

…ん?

ん?

あれ……?

透明だったはずのガラス玉の奥の方がほんの少しだけ白く曇っている。

えっ……?うそ

「なんでええぇぇぇぇ!?」


残り8日
192時間

思いもしない角度からやってくる『これってもしかして…』に抗うことは案外大変なのかもしれない。