国語の授業……夏目漱石の夢十夜
当時の言葉使いってこんなんだったの?
現代を生きる僕にはむず過ぎだ…。
明治の人達ってこういう文書を普通に読んでたのかな?尊敬に値するよ。
それにこれって本当に夢の話なの?
きっとみんなも同じ事を思っているはず。
顔を見ればなんとなく分かる…。
「ところでお前ら〜正夢って見た事あるか?」
先生がパタンと本を閉じた。
「はい、はい、僕あります!」
クラスに必ず一人はいる、こういうタイプ。
ムードメーカー的な?
ある意味、場が盛り上がるから助かると言えば助かるんだけど。
先生も授業がイマイチのってないな…
と感じたのか話題を振ってきてくれたような気もする。
「うそだぁ〜っ。普通ないだろ〜。夢が本当になるなんて」
そうだよな…たいていの反応はそうだと思う。
そもそも見た夢は朝になったら忘れてるパターンが多いらしいし。
って…僕目線で解説してどうするんだよ。
僕が言いたいのはそうじゃなくてー。
せっかく先生が話題を変えたチャンスを逃さないで欲しい。
頑張って話を伸ばしてくれ!応援してるぞ。
「それが、あったんだって!」
先生の振りのおかげでみんな一気にやる気になった気がする。
「先生は一回だけあるぞ」
「えーーっ、マジで?何を見たの?」
「夢で転んだら、本当に次の日に転んだからな」
「なんだよ、それ」
「先生、可愛い〜」
「冗談で言ってないぞ、本当のことなんだからな」
いや、いや、笑えない…。
僕だけ笑えない。
正夢の話なんてさ。
「そう言えば俺が学生の頃は夢占いが流行ってたんだぞ。あなたの夢占いっていう本まで売っててな…」
「へぇ〜」
「嫌な夢を見た時のおまじないもあったんだからな」
えっっ…?!
「夢を書いた紙を風に飛ばすと夢も一緒に飛んで行くってやつ。知ってる人いるか?」
「知らないなぁ」
「ねぇ〜先生、それ本当なの?」
「本当かどうかは知らんが、昔からそういう言い伝えはあるぞ。言い換えれば、それだけ試した人がいるってことだな」
ガタッ!
そっ、そっ……それだぁ!
「おい、青どーした?急に立つなよ。びっくりするだろ」
「宮代くん、何かあるのか?何か知ってるなら先生に話してみろ」
「あっ…すいません。なんでもないです」
しまった、勢いで立ち上がってしまった。
でも…びっくりした。
まさか
先生も知ってたなんて・・
あのおまじないを。
キーンコーンカーンコーン
「じゃあ今日の授業はここまで。お疲れ様。
夢の話に興味のあるやつはいつでも聞きに来ていいぞ。」
「ありがとうございましたー。」
ガタガタッ…
教室はまだ夢の話で盛り上がっていた。
「夢占いって当たるのかな」
「俺は信じないけどね」
「だよなー」
意外に夢の話ってみんな好きなんだな。
今まで考えた事も無かったけど。
さっき青も急に立ち上がって何か言いたげにしてたけど、あれは何だったんだろう?
カリカリカリカリッ
…ん?
何かを書いてる音がする。
どこからだ?
音のする方に振り返ってみた。
あっ…青か…。
またなんか始めたなアイツ
何やってるんだろう?
聞いてみるか。
「なぁ、何書いてるの?」
「うわあぁぁ!
何?…急に振り向かないでよ」
「カリカリって音がしたからだよ。別に何も取らないし…」
「特に何もしてないよ、大丈夫だって。ほら、高砂くんはもう前向いててよ」
「はいはい」
面白いヤツ…。
危な!
読まれるかと思った。
[14日]
[キス]
[高砂]
悪いけどこれを君に見せるわけにはいかないんだよ。
そして
これを今日、風に飛ばしたらいいって事に気づいてしまったんだよな、僕は。
帰り道に風が吹きそうな場所って…。
あっ、あそことか?よし後でゆっくり考えよう。
【 放課後 】
「悪いけど今日、用事があるから先に帰るね」
「あぁ、分かった。また明日な〜」
「うん、またね」
友達、ごめん。今の僕は風の事で頭がいっぱいかもしれない。
うーーん、帰り道で一番風が吹く所ってどこだろう?
住宅地の坂
…でもあそこ人いるしなぁ。
どっかの庭に落ちたら嫌かも。
河川敷
…いやぁ〜風向きがなぁ。
僕の所に戻ってきそうだし。
それは困る。
屋上
…あっ!!
ここら辺で一番風が吹く場所って屋上じゃない?
屋上なら絶対に飛ぶ…!
放課後はあんまり人がいないはずだし。
よし。
決めた。
ガチャ
屋上のドアをそっと開けた。
風は…?
おおおっ
ここならいける!
何も邪魔するものがない屋上は風がよく通る。
ポケットからさっき書いた紙を取り出して、
もう一度読み直してみる。
キスか…。
高砂くん…きっと君も僕と同じ気持ちだと思う。
これは正夢になってはだめなんだ。
お互いの為にも…。
僕の胸のうちだけに留めておくからね。
おっ、グッドタイミング。
いい風がやってきたぞ。
「ほらぁ、飛んでけぇぇ〜」
空に向かって紙を放った。
風にのって舞い上がる。
よっし!
どこに飛んでいくのか…。
最後まで見届けるぞ。
「何してるの?」
「へっ…?」
高砂…くん?
「なっ……なんでここに?」
「なんでって…」
ヒラッ ヒラッ ヒラッ〜
風が一瞬止んだ。
「ん……?」
紙が高砂くんの足元へ落ちていく。
「・・・・!!」
「 うわああぁぁぁぁ」
「なに、これ?」
「見ないで!見ないで!お願い」
「ちょっと」
「返してぇぇ」
「分かったよ。落ち着けって…見てないって」
ゼェゼェゼェ
「ほら、コレ。なにそんなに焦ってんだよ」
「ありがとう。本当に読んでないよね?」
「読んでないって」
もうこれ以上失敗するわけにはいかないんだよぉ!
「でも…なんでここにいるの?」
「本を読んでたんだよ」
「本…?」
「うん、ここは静かだから好きなんだ」
あぁ、そう言えば夢を見たあの日、あの日も学校で本を読んでたな。
「今日は風あるな」
「うん、そーだね」
「・・・・・・・・・・」
きまずいなぁ。
何か話さなきゃ。
でも何を話していいのか分かんないし…。
高砂くんもあれからなにも喋らないし。
仕方ないから二人でしばらく街をながめた。
なんだ、このいいムード的な…?
心外ではあるがこれも致し方ない。
慌てて帰る方が不自然ってもんだ。
それより夕陽に染まり始めた街を上から眺めるなんて今まであったかな?
「屋上から見える街ってなんかいいよな」
…ん?同じこと思ってた?
高砂くんもそんなことを考えながら屋上から景色を見ているのか?
「そうだね、なんか街全体がミニチュアみたい」
「もうすぐ日が暮れる合図だよな…夕陽ってさ」
合図ってか。
なんかカッコいいんだよな、高砂くんって…言う事も横顔も。
女子が放っておくわけないよな。
僕だけがこんなにカッコイイ横顔を独り占めしていいのか?なんだか申し訳ない気分だ。
「さっ青、帰ろうか」
「あぁ、うん、そうだね」
ん…?
今なんて?
青…?
ルール3
名前を呼ばせない
ひいいいいいぃぃ!!
もうダメじゃん
カチッ
ん?
ポケットの中のガラス玉が小さく鳴った。
慌ててガラス玉を握りしめる。
……まさか?
ポケットから出した手をそっと開いて覗いてみた。
あぁ〜
良かった…まだ曇ってない。
「ほら、帰るぞ」
「あっ、待ってよ」
高砂くんの背中を追いかけながらガラス玉をもう一度そっと覗いた。
大丈夫、やっぱり曇ってない。
…って、違うだろ!
この流れだと結局二人で帰るってことにならないか?それだけは避けたい。
「僕、先生に用事を思い出した。職員室に寄ってから帰るよ。高砂くんは先に帰ってて」
「なに言ってんの?そんなことしてたら昇降口の鍵が閉められるよ。ほらもう行くぞ」
「えっ、ちょっと、引っ張らないでよ」
あっ、これって…もしかしてルール4になったりしない?
やっぱり一緒に帰るのはダメなんだってば!
なのになんでこうなるの??
あと残り9日
216時間
ルール3 名前を呼ばせない
…ここにルール4を追加させるわけにはいかないんだ!



