あんなに避けたかったキスなのに、昨日のことを思い出すと顔が熱くなる。
明日からはもう学校で自分に課していたルールも関係ない。
自分の部屋にはこの二週間で増えたお守りグッズや小物がキレイに整列されている。
風に飛ばせなかった手紙。
これはもう飛ばす必要はないかな。
だって逃げる必要はもうないんだから。
いつか司にも見せてあげよう。
14日 キス 高砂
たった3つのワードしか書かれていない手紙。
勘のいい彼なら多くを語らなくてもピンとくるかもしれない。
白く濁ったガラス玉はこれからもずっと僕の宝物だ。
土に埋めようとしていたなんて、あの時の僕はどうかしていた。今なら笑ってそう言える。
明日も一緒に過ごせる未来があるなんて、こんなにくすぐったいものなんだ…と改めて実感してしまう。
明日か〜。
時計を見ると、すでに日付が変わっていた。
うわ、明日起きれなくなったら大変!
急いで布団に潜り込んだ。
心地よい温もりに包まれると、僕はすぐに眠りに落ちた。
「おはよう」
「おっす」
校門でウッチーと挨拶を交わし、たわいもない話をしながら下駄箱まで歩いてきた。
上履きに履き替えて、靴をしまおうとした。
「おはよう、青」
司の声に顔を上げた。
「あっ、おはよう。司」
いつもと同じ校門、同じ下駄箱、同じ朝なのに僕たちの間に流れる空気だけは、もう昨日までとは違っている。
司もきっと同じことを思ったと思う。
お互いに目が合った瞬間……はにかみ笑いをしてしまったから。
「なにニヤけてんの、お前たち?朝から気持ち悪いんだけど…。
しかもいつの間に高砂くんのことを司よびしてたんだよ。
あれ?もしかしてお前たち…。俺が知らない間になんかあった?」
ウッチーが僕と司の間に入ってきて興味津々な顔を覗かせている。
さすがウッチー、なかなか勘がいい。
でも一瞬で言い訳を考えるには、時間が足りない。
答えを間違えたら、司に嫌な思いをさせてしまう。そしてウッチーに引かれる可能性もある。
どうしよう、別に…とか言えばいい感じ?
「ねぇ、内田くん」
「…ん? …なに?」
司の呼びかけにウッチーが顔を向けた。
「あのさ、これからは俺も内田くんのことをウッチーって呼んでいい?」
「あっ…俺のこと?
いいよ、いいに決まってんじゃん。これからはウッチーって呼んでくれよ。はははは」
そうか、その手があったか。なんとか話がそれた。
「じゃあ、行こうか」
三人で一緒に教室に向かって歩きだした。
やっぱり司は僕とのこと、誰かに気づかれたら…とか思うのかな?
気にするのかな?
僕はこの先も司と一緒にいたい。
夢を見たからキスしたんじゃなくて、司を好きになったからキスしたわけだし。
教室でも普通に話したいし、誰かに取られるなんて絶対に嫌だし…。
「青…。どうした?何を考え込んでるの?」
司が振り返って僕を心配そうに見ている。
「僕……僕、司に」
ガバッ
「えっ、なに…?どーいうこと?」
ここは家?
へっ?布団の中…。
まさかの夢ーー?!
って…今何時?
AM5時………。
まさかの〜かよぉ。
もうこのまま起きてようかな。
「おはよう」
「おっす」
校門でウッチーに会って挨拶をして一緒に下駄箱まで歩いてきた。
これは絶対に夢じゃない!
ほっぺたを思いっきりつねってみる。
「痛い!!」
「お前なにしてんの?自虐……朝から?」
ウッチーが笑って僕を指さしている。
これは現実だ。良かった…。
「おはよー青、内田くん」
後ろから司がやってきて声を掛けてくれた。
「うっす」
「おはよう、司」
ウッチーと僕が挨拶を返す。
「あれ、青って高砂くんのことを司って呼んでたっけ?」
やっぱりそう来たか〜。
思わず心臓が口から飛び出そうになった。
「まぁ、俺達そういうことだから」
「えっ……?」
「俺のことを司って呼んでいいのは、青だけだからってこと」
「そういうこと…って?」
ウッチーが僕と司の顔を交互に見ながら、なにか言いたげにしているのに気がついた。
確かにそこ、引っかかるセリフだよな。
僕も聞いてて胸んところ、くすぐったくなった。
でも、これは夢の中には出てこなかった…。
「あとさ…これからは内田くんのことをウッチーって呼んでもいいかな?」
「えっ、?おっ、おう。もちろん、是非ウッチーって呼んでくれよ」
あぁ、この会話は夢でも。
ウッチーが僕の方を振り返りながら、やけに驚いた顔で司の後をついていく。
今まで人嫌い、孤独が好きだなんて言われていた司がそんなことを言うなんてウッチーは相当驚いているんだろうな。
AM5時に見た夢は正夢になる。
今まではそうだった。
友達は誰も知らない、僕だけの秘密。
今日、学校が終わったら研究室に報告に行かなきゃだ。
朝に見た夢も一緒に報告だな。
司も一緒について来てくれるかな?
…たぶん、大丈夫。
僕達のこれからは二人一緒だから。
残りーずっと一緒
これからの二人時間
【 完 】



