「アオ〜っ、目覚ましがうるさい、早く止めて」
けたたましい目覚ましのアラーム音とお母さんの怒鳴り声で目が覚めた。
ゴソゴソッ
「うーーーーん」
布団からなんとか上半身を起こす。
「…朝……かぁ。夢、見なかったなぁ」
布団から這い出て部屋のカーテンを思いっきり開けた。
「うわぁ、眩しい〜、すごくいい天気だったんだ」
今何時だ?9時か…。
気分転換に後で一人カラオケでも行こうかなぁ。
なんだかんだ言っても結局、昨日の高砂くんとのキスを思い出してしまう。
僕、昨日…したよね?
したよ、した!
絶対した。
初めてのキス
なのに、あの後なにを話してどうやって家に帰ってきたのかぜんぜん覚えていない。
気づいたら自分の部屋にいて、ベッドに寝転びながらクッションを抱きしめていた。
5時にみた夢はまた正夢になった。
でも…これでおしまいなんだろうな。
お終い…か。
とりあえず下に行って水でも飲もうかな。
プルルルルッ プルルルルッ
部屋を出ようと振り返った時スマホの着信音が勢いよく鳴った。
「うわっ、ビックリしたぁ」
予想外の音に飛び上がってしまった。
まさかこんな時間に電話がかかってくるなんて思ってもいないから。
スマホを覗いてまたびっくり…。
高砂くん…?えっ、本当に?
「も、もしもし」
「あっ、青…あのさ…今日ってヒマ?」
「えっ今日……?うーん、まぁ、ヒマかな」
いきなりヒマかと尋ねられても…。
声を聞いて内心、平静ではいられないが動揺していると気づかれるのは避けたい。
キスで動揺していると思われるのはさすがに恥ずかしいだろ。平静を装わなければ…。
高砂くんだって昨日の今日なわけだし、多少の気恥ずかしさがあるかもしれないし。
「じゃあさ、今日本屋行かない?」
「本屋?」
「うん、昨日家に帰ってから探してる本があるの思い出して」
「それだけ…?」
「それだけってなんだよ」
「ははは、分かった、別にいいよ」
高砂くんはどういう気持ちで電話してきたんだろう?気を使った…?
でももうキスした後だし、正夢を回避する必要もない。
だったら…断る理由なんてないよな。
正夢になったからもうこれで終わり…だと思っていたのに意外なお誘いがきた。
昼ごはんを食べてから会うことになったけど。
昨日キスしたばかりだから平気なわけないんだけどなぁ。
高砂くんは平気なのかな?
まさかキスしたの忘れてるとか…。
ほっぺをつねってみた
「イタァ〜」
良かった、夢じゃない。
とりあえず顔でも洗いに行くか。
あっ、今日なにを着て行こうかな?
せっかくなら似合う服がいいよな。
【 13時 本屋の前 】
「あっ、高砂くーん」
「青、まった?」
「ううん、全然」
「ごめん、急に誘って。俺、誰かと本屋に来るとか初めてかも」
「えっ、そ、そうなの?」
そうかぁ〜高砂くんっていつも一人っていうか、特定の誰かとつるむって感じじゃなかったもんな。
もしかして、電話くれたのも勇気を出してくれたとか?
「ここにはいつも買いに来てるの?」
「うん、ここならどこにどんな本が置いてあるとか大体分かるから」
「そういえば僕が初めて夢を見た日にも、高砂くん教室で本を読んでたよね」
「夢を見た日…?」
「あっ、なんでもない」
あぶなぁーーっ、高砂くんは夢の事なんにも知らないんだった。
ついつい知ってる気になっちゃうんだよな。
「高砂くんはいつもどんな本を選ぶの」
「うーん、歴史物も読むし小説も読むよ」
「そっかぁ、僕はゲームの攻略本とか漫画とか…。高砂くんと比べると薄いなぁ」
選ぶ本でさえもどこか差を感じる。
「夢についての本とかは?…違う?」
「えっ…?」
「だって、国語の授業で夢の話をした時、なんか知ってる感じだっただろう」
「そんなこと覚えて…たの?」
まさか、そんな些細なことを覚えていてくれたなんて思いもしなかった。
逆に、高砂くん以外は誰の記憶にも残っていないと思う。
「今日からフェアなんだって」
「フェア?なんの?」
「夢…。今日から夢関連の本のフェアらしい」
「だから…誘ってくれたの?」
もしかして僕のために?
そんな期待をしそうになって、慌てて打ち消した。
「いや、別にそんな事はないんだけど。青と来てみたかった」
「そーか、そうなんだ。ありがとう。夢の本、見てみたい」
不器用な高砂くんらしい誘い方なのかもしれない。
今日の記念に一冊くらい買っておこうかな。
思い出というヤツ…だ。
しかもフェアというだけあって普段では考えられないくらい種類が豊富。
どれにしようかなぁ〜。
せっかくだから何度読んでも楽しめる本を選びたい。
体験談とかも楽しそうだよな。
そういえば夢ってどれだけの種類があるんだろう?
今まで考えたこともなかったけど。
高砂くんは?
あっ、向こうでなにか本を選んでる。
よし、これにしよう。丁寧に並べられた本たちの中から気になった一冊を選んでレジに持って行った。
「ありがとうございました」
本を受け取り、財布をしまった。
「なんか、いいのあった?」
「うん、あったよ。これを買った」
自慢げに本を見せている自分に気づいて恥ずかしくなった。
僕は誘ってもらった身だったんだ。
「高砂くんは何を買ったの?」
手に持っている本屋の紙袋を指さして聞いてみた。
「俺も夢の本を買ってみた」
「えっ…夢の本?なんで」
「うーん、せっかくだから」
せっかくだから…?
せっかくだからで本って買うもんなのか?
あっ、そういう僕も記念に一冊買ったがわだった。
もしかして、もしかしたらだけど、
僕が読む本に興味があったとか…?
なら、僕が買った本も貸してあげた方がいいのかな?
でもそれって下手したら親切の押し売りになっちゃわないか?
「青の買った本、読み終わったら貸してくれない?」
「あっ、あぁ、もちろんいいよ。貸すよ、貸す」
なんだぁ〜考えすぎだったかぁ。
でもまたこうして会えたりする?
それはそれで嬉しかったりして。
「この後どっかカフェでも行かない?時間あったらだけど」
「あっ、うん、いいよ。行こうよ。僕、喉かわいた」
なんか普通に買い物を楽しんでるよな…。
そう思ってるのは僕だけかな?
本屋を出て、50メートルくらい歩いたところにカフェがある。
僕達はそこに行くことにした。
黒糖ラテが美味しいんだ。タピオカもプラスしようと心に決めた。
「青はここ、よく来るの?」
「あっ〜、そうだね割と来るかも。飲むものは、いつも一緒だけど」
また名前呼ばれた〜。
あっ、もうそれは気にしなくてよかったんだ…。
残念なことに店内はお客さんでごった返していて席が見つからない。
土曜日だから仕方がないか。
どこか公園のベンチにでも座って飲めばいいんだし。
テイクアウトをする事にした。
少し歩いて広場に設置されている小さなベンチに腰掛けた。
買った黒糖ラテを一口吸い込む。
タピオカがつるっと口の中にはいってきた。
「甘くて美味しい。ここのドリンクって何を買ってもハズレがないんだよね。高砂くんは何にしたの?」
「俺?何を買っていいのか分からなくてレモネードにした」
「わかんなくってレモネードなの?分からない人は普通、アイスコーヒーとかじゃない?」
「あっはははは、そうか、アイスコーヒーか。
緊張してレモネードにしちゃったよ」
「だから結構ああいう店に行くのかと思った」
「いや、行かないなぁ。でもレモネードって甘酸っぱいんだな。初めて飲んだ」
「えっ…?マジで。
じゃあ、僕の少し飲んでみる?黒糖ラテのタピオカ入り。
美味しいよ。甘いのイケる方ならだけど」
「いいの…?」
「うん、いいよ」
高砂くんは少し遠慮するような、何か考えているような様子で僕のドリンクを受け取った。
「あのさ…」
「何?」
高砂くんが少しだけ視線を落としたように見えた。
「昨日のこと…後悔してる?」
「えっ?」
一瞬何のことか分からなかった。
「昨日キスしたこと後悔してる?」
「・・・・・・・」
「俺はしてないけど」
思いもよらない告白に一瞬たじろいてしまった。
まさかそんなことを言われるなんて思いもしなかったから。それって、僕と高砂くんのこれからがあるってことだよね?
「えっと……あの〜、
高砂くんってさ、僕のこと青って呼んでくれるよね。僕もこれからは司って呼んでいい?」
「えっ?」
「高砂くんじゃなくて、司って呼んでもいいかなって…。
ううん、僕だけ司って名前で呼びたい」
僕の知る限りではこの前のイケてる男子意外は誰も高砂くんのことを司って呼んでいる子はいない。
「名前で呼ばれるなんてヒデくん以外で初めてかも。うん、司って呼んで欲しい」
「えっとぉ……司」
どうしよう、なんか緊張する…。
やっぱりいきなり司って名前呼びはハードルが高かったか。
「それって、後悔してないって事でいいの?」
「後悔なんてしてないよ。するわけない」
「ふっ、そっかぁ〜よかった。聞いて安心した」
聞いて安心したのは僕の方だ。
胸の奥が一杯になる。
ベンチから立ち上がって僕の方に振り向いた司に気がついた。
もう帰るのかな……まだ話していたいのに。
そう思って、気がついたら司のことを抱きしめていた。
「あお…?」
「ごめん」
「何で謝るんだよ」
「だって…僕が本当に好きになったから」
好きにならなかったらきっと正夢にはならなかったはず。
「俺も好きになってたよ」
「僕は明日も好きだよ。明後日も、その次の日もずっと司のことが好きだから」
しまった・・緊張のあまりに薄い言葉を並べてしまった。軽いヤツだと思われてしまう。
「はははは、なに緊張してるんだよ」
「えっ・・?」
司がグイッと僕の腰を引き寄せて後頭部に手を添えた。
なっ、何?
「この態勢じゃ、今日は逃げれないな」
「逃げないよ」
イタズラっぽく笑う司からはいつもの不器用さが消えていた。
「逃がさないけどね」
僕の唇と司の唇は昨日よりもずっと長く触れ合っていたと思う。
「もう限界、恥ずかしすぎてまじで無理だぁ」
「俺もだって…」
残り0日
0時間



