14日後、高砂くんとのキスを僕はとめたい。


ピピピピピッ
ピピピピピッ

「うーーーん、もう朝…?はいはい、今起きますよ」

手を伸ばして目覚まし時計を探す。
このうるさい音をなんとか静かにさせなければ。

あぁ、もうどこにあるんだぁ〜?

なんとか手探りで見つけ出す。
再び訪れた平穏にもう一眠りするか〜。
なんて言ってられない…言えるわけがない。
ノソノソっとやっとの思いで布団から這い出した。

昨日はあんまり眠れなかったな。
寝たのはたぶん朝方。
それでも、もう寝る気にはなれない。

はあ〜。
自分でもびっくりするくらい大きなため息が漏れてしまった。

「まだ起きたばっかりなんだけどなぁ」

理由はわかってる。

昨日、高砂くんが僕の知らない女の子たちと一緒にいるところを見てしまったから。
あの高砂くんが…。
いつも一人だし、単独行動が多いし、あんまり笑わないし。
なのに、キラキラした笑顔で話しかけてた。
誰だったんだろ?
まさか付き合ってる?
ええっーーっ、そんなことあるの?


って…何を気にしてるんだよ。
忘れろ、忘れるんだ!

別に僕が気にすることなんてないんだから。
なのに、何度も昨日の光景が頭に浮かぶ。
なんでだよ。
夢が回避できたんだから喜ぶところだろ。
なのにどうしてこんなに寂しいんだろう…。


「あお〜、起きてる?おーーい、青くーん」

一階からお母さんの呼ぶ声が聞こえてきた。
どうせ寝れないし、しょうがない。
降りてくか…。

「なに?起きてるよ」

「えっ、めずらしい。どうしたのよ?」
起きてる?って聞いてきたのはそっちじゃん。

「別に、なんでもないよ」

「お母さん今日ね、おばあちゃんの様子を見に病院に行かないといけないのよ。
もうそろそろ出かけようと思ってるんだけど。
青は、今日ずっと家にいるの?」

「多分出かけると思う」

「ふーん、そうなんだ。じゃあ、玄関の戸締りだけはしっかりしといてね。あと、ご飯食べるなら、使った茶碗は台所に置いといてよ」

「はいはい、わかったよ」

「何よー、その返事。別にいいんだけどさ。じゃあ、お母さんそろそろ行くわね」

「うん、いってらっしゃーい、おばあちゃんによろしくね」

「分かった〜」

ふう〜〜っ、
お母さんは出かけたし、お父さんは出張。
家には僕一人かぁ。

ちょっとお腹すいたし、パンでも食べようかなぁ〜。
テーブルの上に置いてあった玉子パンと冷蔵庫の中にあったコーヒー牛乳を取り出して自分の部屋に運び込んだ。

とりあえず机の上にそれらを置いてカーペットの上にゴロンと寝転ぶ。

なんかのCMにもあったよな。
カーペットの上に寝そべるとなぜか転がってみたくなる…病


その時、寝転んだ視線の先でガラス玉がキラリと光って見えた。

…ん…?
あんなんだったっけ?
何かが違って見える。

ヨイショと立ち上がってからガラス玉を手に取ってみた。

へっ…?
…ウソ。
ガラス玉をクルクル回してみたり、透かしてみたり、じっと覗き込んでみたりしたけど、間違いない


ガラス玉が曇ってる!

なんで?
どうして?
どー言う事?


いや、落ち着け。
よく考えろ。

ガラス玉が曇るって言うことは恋が叶うってことだろ?
なぜ?
いつ?
そんなシチュエーションあったっけ?

あっ、もしかして。
僕とじゃなくて昨日一緒にいたあの子と?
それだったらありえるのかも。
でもなんか、嫌だな。

……えっ?
なんで?
僕、今なんで嫌だなって思ったんだろ。


いや、そうじゃない。
僕はただ夢の相手が変わるのが怖いだけ。
そう、絶対にそれ。

ということはー。
このままじゃダメなんじゃない?
ガラス玉が曇ったってことはなにかが変わったんだ…。
きっとそう。
だったら…。
これ、埋めた方がいいんじゃないか?
このままにしてたらきっとなにかが起きてしまう。
そうだ、あそこに…!

ガラス玉を握りしめて気がついたら外に飛び出していた。

ハアハア、ハアハアハア

着いたぁ〜っ。
街を見下ろせる小高い丘の上にある公園、子供の頃によく遊びに来た場所。
小さい時はここから見える街がもっと大きく感じたっけ…。
広い芝生の周りには大きな木が何本も植えられていて、今も昔も変わらない。
ここなら人目も少ない。
埋めるならちょうどいいかも。

『すうぅ〜〜っ』
深呼吸をして息を整えてみた。

どこに埋めるのがいいかなぁ?

ポケットの中からガラス玉を取り出して改めて中を確認してみた。

やっぱり曇ってる。
どこかにぶつけてヒビが入ったわけでもなさそうだしなぁ。

でも本当に埋めちゃっていいのかな?

もし埋めたとして、何かの時にこんな小さなガラス玉をもう一度掘り起こすことなんてできるのか?
写メして残したとしてもこんな広い場所で、同じところを探し出せる自信がない…。

…どうしよう。
なにが正解?


「あれ…青?こんなところでなに突っ立ってるの?」

「えっ?」

後ろから誰かに声をかけられたと思ったら…。

「なに突っ立ってるの…?じゃなくて、なんでここにいるの?高砂くん」

夢か…?にしても偶然すぎるだろ。

しかもまた青って呼ばれてるし。

「あっ、俺…?それは…えっとお〜。
青は?青はなにしてたの?
なんか考え事してたみたいだけど。
手に持ってるそれは何?ガラスの玉とか?」

「えっ、これ?」

やばい、ガラス玉のこと気付かれた…?
隠さなきゃ!
ポケットに急いで隠そうとしたけど、こういう時に限ってモタモタして上手くいかない。
ポケットはどこだぁ?
指に端の方が引っかかってポケットに突っ込めない。

カチャン、コロコロコロッ

ちょっと…。
ガラス玉、オマエはどこに行くつもりなんだ?
僕の思いとは裏腹に、高砂くんの方に転がっていく。

コツン

高砂くんの靴先にガラス玉が当たって止まった。
それを高砂くんがヒョイと拾い上げる。

「ヘぇ〜、これが青が大切にしてたおまもりなんだ。」

「わぁ〜、ダメーーーっ、触らないでぇぇ」

僕の心の中が見られてしまう!
ダメだ!
やめてくれ。
平常心ではいられない。
思わず手を伸ばして高砂くんの手の中から取り返そうとした。


「おい、落ち着けよ青」

しまった!
顔が…顔が近い。

「これをどうするつもりだったの?まさか埋めようとしてたとか?」

「えっ、そ、それは・・・そんなことはどうでもいいから早く返してよ」

「ダメだよ。どうして埋めようとしてたの?
好きな人がいるの…?
恋が叶ったらダメな相手とか」

「なんで…そんなこと」

「俺さ…昨日あの店に行ったんだ」

「えっ…?」

「ガラス玉のこと聞いてきた。恋が近づくと曇るんだって」

「・・・・・」

「それで今、このガラス玉を見てちょっと気になった」


「そ、そうなんだ。あのお店に行ったんだ。へえ〜っ」

「うん、俺があの店で見たガラス玉は透明で透き通ってたのにこれは白く濁ってるんだな」


「それは…えーーっと、なんて言っていいのか。
説明が難しいというか」

「難しくてもいいから聞きたいんだけど、聞かせてくれよ」

「そっ、それは……。じゃあ、高砂くんはなんでここにきたの?
たまたまここに来たら僕がいたってこと?
僕に何か話があったんじゃないの?」

しまった、こんなこと言うつもりじゃなかったのに〜。
思わず心の声が口から漏れてしまった。

「それは……確かにそうだよな。
こんなところで会うなんて、バレバレだよな。
青に聞きたいことがあってきた。
家は内田くんに聞いた。会えないかなぁって思って近くまで来たら走ってくお前を見かけて…」

「内田くんって…ウッチー?!」
えっ、そんなこと一言も言ってなかったけど。


「実は青から貰った羅針盤のチャームなんだけどさ、どこで買ったのかなって気になってて。
それであの店に行ったんだ。
でも一人で入るのがどうしても無理で、いとこに頼んで一緒にいってもらったんだよ」

「いとこ…?いとことお守りを見に行ったってこと?」

「そうだよ。いとこのヒデくんとそのアネキと妹……それに俺の四人で見に行ったんだ」


「いとこ…だったんだ。そっか、そーなんだ。
彼女じゃなかったんだ…」

…よかったぁ。
よかったぁ…?
なんで僕、こんなに安心してるんだ。

ということはーー?
あのガラス玉が曇った理由って
僕が高砂くんのことを?
いや。
そんなわけ…。

「彼女…?何それ?もしかしてあの時近くにいたとか?」

「あっ、いや、違う…けど」

「そっか…。
実は俺さ、青からもらった羅針盤のチャームのことが知りたくて…。
アレをくれた時、お守りだって言ってたの覚えてる?
もう忘れてるかな。
でも、あの店に行けばなにか分かる気がしたんだ」

「そんなひと言を覚えてたの?」

「ひと言じゃないよ…俺にとったらさ。
それで、お店の人に聞いたんだよ。羅針盤のチャームをあげる意味。
運命の人と巡り会えますように・・・だったんだよな?」

「うん…まぁ、そういうことかな」

「それってさぁ」

高砂くんが少し言葉を探しているように思えた。

「俺がこれから運命の人と出会えますようにってこと?」

「・・・・・・」

「それとも…青が俺の運命の人でありますようにってこと?
どっちの意味だったのかなって」

「それはぁーーっ、えっとおぉ」

「俺は青が………」

高砂くんが一度言葉を止めた。

「俺の運命の人が青だって思ってくれたら嬉しいなって思ったんだ。
だから…そのぉ……青はどう思っているのか青の本心を聞かせて欲しいんだ」

高砂くんが僕のポケットの中にそっとガラス玉を入れてくれた。ちょっと、この態勢ヤバいんじゃ…?


ゴクンッ

思わず言葉を飲み込んだ。
僕の本心…?
夢を見てから今日までのことがカメラロールを見るみたいに頭の中に思い浮かんだ。

男同士のキスなんて絶対に止めなきゃって思ってたのに、彼女がいるのかも…って考えたら息がしづらくなって…苦しくなった。
これって、そういう事なのかな?

顔を上げて高砂くんを見た。
あっ、しまった。
目が合った…。
高砂くん、なんで目をそらさないの?
見つめられたまま、僕は一歩も動けない。

「僕は…その……」

高砂くんに好きだと思って欲しい。
でもそれを認めてしまったら、もう正夢だからって仕方なく起きるキスでは済まなくなってしまう…。
それは自分の意思で高砂くんを好きになってしまうってことだから。
キスした後も、高砂くんと今までのように、いや今まで以上に一緒にいられるのかな?

「俺さ、青が木戸さんと話してるの見た時、正直イヤだったんだ」

「はっ…なんで?」

「青が木戸さんのことを好きになったらどうしよう…って思った」


「そんな、そんな事はない…よ」


「青はどうなの?どう思ってる?
俺の事……好きなら逃げないで欲しい。
でも違うなら…。
逃げるなら今だよ」

「えっ?」

「逃げるなら今だよ……。逃げないの…?
逃げないならキスするよ」

「・・・・それは」

僕は今まで回避する事が正解だと思ってた。
回避する為にみせてくれた夢なのかなとも。

「…僕は…」

言葉に詰まる。
でも伝えたい。

「僕は逃げないよ」

視線が下にさがったと思ったその瞬間、僕の唇に高砂くんの唇が重なった。

逃げない。

逃げたくない。

もう正夢だからなんて理由はいらない。

僕が高砂くんを好きだからキスするんだ。


残り1日
24時間

14日以内に起こった正夢。
夢の中の僕はキスした事を覚えていなかったけど。
キスした後の僕達は
このまま友達なんだろうか?