14日後、高砂くんとのキスを僕はとめたい。


【 金曜日の朝 】


「おはよう〜」

「オッス」

今日はいつもより早くに目が覚めた。
朝ごはんをゆっくり食べたのは久しぶりかもしれない。
ゆとりのある生活とはこういう事をいうのだろう。教室に入って余裕をかましながら席に着く。

なのに心の中は穏やかでない。
夢のリミットまであと3日…平日の朝は今日で最後というわけだ。

土日を乗り切りさえすれば僕達は普通の友達で終わるはず…。

友達…?

そもそも高砂くんは僕のことを友達って思ってくれているんだろうか?
そこまで到達していなかったら…。
いや、そんなことは無いと思いたい。
あれ…僕ってなんで夢を回避しようと思ってたんだっけ?
まだ2週間前の事なのに、色んな出来事がありすぎてよく分からなくなってきた。
相当疲れてるな。

なんだかんだ言ったところで結局は高砂くんの姿を探してしまうんだ。

高砂くんは今日も早いのかぁ〜。

……随分と偉そうなことを言ってるけど、僕がいつもギリギリなだけ。

ぼんやり眺めていた高砂くんの背中がくるっと向きを変えたかと思ったらスマホを片手に慌てて廊下に飛び出してった。あんなに慌てた所を今まで見たことなんてあったっけ…何があった?


「高砂くんがスマホもって飛び出してくってめずらしくない?」

ウッチーがそっと僕に耳打ちしてきた。

「そうかなぁ」

「そうだよ。今まであんな姿、見たことないだろ?
イケメンだけど、人に興味がなさそうなあの高砂くんがだよ。
もしかして彼女でもできたのかなぁ?
青って最近仲いいだろ。それとなく聞いてみろよ」

「えーーっ、嫌だよ」

そうか、そういうこともあるのか…。

慌てて廊下に飛び出してったってことは、
大切なメールだったってことだよな。
誰からだったんだろう…?
まさか女の子とか?
いや、高砂くんに彼女ができたってぜんぜん不思議じゃない。
むしろ、普通のことだよな。
なんだかなぁ…。

って…なに寂しくなってるんだよ!
はぁ?
どうかしちゃったのか。

高砂くんが運命の人とめぐり会えるといいなと思って、チャームをあげたのは僕じゃないか。
その上、彼女が出来たらそれで僕の夢は回避出来るわけで…。
その方が高砂くんの為でもあって…。

あれは、僕しか知らない高砂くんと僕の夢。
違うか…高砂くんは夢の事をぜんぜん知らないんだった。
僕しか知らない僕だけの夢。
そう思うとなんだか孤独だな。


「おっ、高砂くんが戻ってきたぞ」

ウッチーが肘で僕をつついてきた。

「聞かないってば!」

「なーんだ、つまんないの」

ただ面白がってる奴の誘いにはのらないからな。
高砂くんが自分の席に着こうとした時、チラッと僕の方を見たのに気が付いた…けど、このことは黙っておこう。また外野がうるさくなる。


さあて、これから一時限目が始まる。まだまだ先は長い。
気合い入れていくぞぉー。



【なんだかんだで 今日最後の授業…のその後】



「なあ、青、あのさ」

「ん…?どうしたの」

「この前くれた羅針盤のチャームって、青は持ってるの?」

「羅針盤…?あぁ、あれね、持ってないよ」

「ふーん、持ってないのか」

なに?その感じ。
なんかハッキリしないなぁ
いつもの高砂くんじゃないような。

「なんで?なんかあった?」

「いや、別に…」

だから、なんでそんな感じなんだってば?
あっ、なんか思ってることあるんだ。

「聞きたいことでもあるんじゃないの?」

「別にそういうわけじゃないけど。
今日はどっか寄ってから帰る?」

「はっ…?だから何なのその質問」

怪しい、怪しすぎる!
よし、ちょっとカマかけてみるか…。

「そういえば今日の朝、スマホ片手に慌てて教室を出て行ったよね?あれってなんだったの?
誰かと会うの?」

「……別に」

おいおい、なんで言葉を濁すんだよ。
気になるじゃんかよ。

ブーブー ブーブー

「スマホ、鳴ってない?誰かから着信でもあるんじゃないの?」

「あっ」

慌ててカバンの中からスマホを取り出して内容を確認しているあたり…。今日このあと何かあることは絶対だ!
結局、高砂くんは背中をこちらに向けたままで、
その後こっちに振り返ることは無かった。


「じゃあな、夜メールするわ」

「おう、またな」

「ねえ、早く帰ろうよ」

「あっ、待ってぇ〜、トイレに行きたいんだけど」

放課後の教室は別れの挨拶でにぎやかだ。
とくに金曜日はより一層そう感じる。次の日が土曜日っていいよなぁ。

僕も今日は早く帰ると決めていた。
高砂くんが何をするつもりなのか気になる。
後をつけるんじゃなくて、どこに行くのか知りたいだけ。まあ、これは単なる言い訳かも…。

「じゃあな、青」

「うん、またね」

高砂くんが教室を出て行ったのを確認。
よし、5分後に僕も教室を出よう。

目指すはあのお守りのお店。
これはただの僕の勘。
いや、チャームのことを聞かれたからかも。
いつもマイペースで人と合わせるのが苦手な高砂くんだからこそ今朝のあのキョドリは何かあると踏んだ。

予定通り教室を出てもうすぐあのお守りのお店に着く。

様子を伺いながら近づいてみるか…。

って…
…えっ…?!
うそ
誰?
違う高校の制服を着てる。
可愛い女子二人に、イマドキ男子が一人。
高砂くんに向かって手を振っているのが見えた。

えっ、高砂くんを入れたら2対2じゃん。
…って、いうことはカップル…??

「司〜、こっちこっち!待ちくたびれたよ」

イマドキ男子が高砂くんに話しかけている。
いま司って…
下の名前呼びなんて同じ高校でも聞いた事ないよ。
どういう繋がりなんだろ?

「ごめん、もう着いてたんだ。早くない?」

「そうそう、思った以上に早くついたんだよ。
一度行ってみたかったお店だったから速攻で来た」

学校では見せない笑顔で、高砂くんが相手の子達に駆け寄っていく。

「さっ、中にはいろうか」

「ねえねえ、何か買う予定はあるの?私は絶対に一つは買うつもりで来たよ」

「まさかこのお店を知ってるなんて思わなかったけど、ちょー楽しみ」

二人の女子が高砂くんに笑顔を振りまいているのが見てわかった。
本来の高砂くんはこうなのかもしれない。
可愛い女の子達に囲まれてるイケてる男子。


カランカラン

四人は楽しそうに扉をあけて店内に消えていった。

そうか…。
そーいうことか。
もう回避のおまじないは効果があったってことなんだ。
良かった…。
良かったはずなのになんでこんなに痛いんだろう?
ここ、胸の下の方。

なんだか四人とも凄く親しそうだったけど。
もしかしたら、僕の正夢が初めて外れたのかもしれない。

お守りの効果があったのか、それとも夢が外れたのか。

そんなのもうどっちでもいいや。
夢を知ってたのは僕だけ。
高砂君は最初から何も知らなかった。
それだけの事なんだから…。

もう帰ろ…。


【 木曜日 (前日)の夜 】


俺こと高砂司は今、かつて類を見ないほどに悩んでいる。
こんなに悩んだことなんて今まであっただろうか?

どうしよう…従兄弟のヒデ君に相談してみようか?
メッセージを書いては消し、書いては消し…。
こんなんじゃ埒があかないぞ。

よし、決めた。送る!

[ヒデくん、明日なんだけどヒマ?
良かったらお守りとかパワーストーンを売ってる店に一緒に行って欲しいんだけど]

特になにかが欲しいというわけではなくて、
青からもらった羅針盤のチャームと同じ物があるのか…それが確かめたかった。


メッセージを送った…送ってしまった。

そんなことと思うかもしれないけど、
今までお守りの類とは全く無縁な人生だった俺が
青からもらった物の正体が知りたくてたまらなくなってしまうなんて。

小さい頃から一緒に遊んでいる従兄弟だからこそ、こんなメッセージが俺から送られてきたらきっと驚くに違いない。
いや、驚きを通り越してイタズラかと思うかもしれない。


ピンコン

あっ、きた!

[なに、なに、どうした。お守り?お前が?金縛りにでもあったのか?
別にいいけど、マジな話だよな?]

やっぱりそう思うよな…。

[うん、見るからにそっち専門って感じのお店でさ。ちょっと気になってるんだけど、一人では入れないから一緒に行ってくれないかな?]

ピンコン

えっ?まだ返信メッセージすら送ってないんだけど…送ろうとしたらすでにヒデ君から新たなメッセージが送られてきた。
はやっ!

そう、ヒデ君は俺と違って今どき男子でノリもイイ。従兄弟じゃなかったら到底交わることはなかったと思う。

[なぁ、そのお守りの店って界隈では人気なの?
姉ちゃんも妹も一緒に行きたいって言ってるんだけど]

えっ、そうなの?
いや、もう既に姉妹に話してるとかどんだけ繋がってるんだよ…。

[ごめん、俺、よく分かんないんだけど、場所だけ送るよ]

ピンコン

[了解。学校が終わったら現地集合な。姉ちゃんと妹と俺で司が来るの待ってるわ。じゃぁ明日な]

[分かった。じゃぁ明日]

良かった。すんなりと決まった。
なんでそこに行きたいの?とかあーだこーだ聞いてこないとこがヒデ君らしい。
昔から俺の事を知っているから詮索しないでいてくれるのが気楽でいい。


でもオマケが二人も増えた…まぁ、仕方がないか。


「いらっしゃいませ」

お店のスタッフさんが優しい笑顔で迎えてくれた。
店内は思った以上にたくさんの物で溢れている。

「うわぁ、何がいいのか全くわかんない。お姉ちゃんは何がいいと思う?」

「うーん、私は両思いになれるお守りが欲しいかも。
告る勇気なんてないからさ〜。
相手から告ってくれるお守りとかがあればいいんだけどなぁ〜」

「なんだよ、お前ら本気で探しに来てたのか。
来たの初めてなんだからお店の人に聞いた方がよくないか?」

正直俺も、どこに何があるのかさっぱり分からん。

青からもらった羅針盤のチャームと同じやつはどこにある?
カバンにつけてあるのと見比べながら探してみるしかないか。

おかしいなぁ、こんなに探してるのに見つからない。
やっぱり、ここで買ったんじゃないのかも。


「それってうちで購入いただいた羅針盤のチャームですよね」
探しまくっている俺の姿を見かねたのか、お店の人が声をかけてくれた。

「そうなんですか?
貰ったものなんですけど…やっぱりこれってここで買った物なんですか?」

「とても人気で完売しちゃうんですよ。
もともと入ってくる数も少ないですし。
道を見失わないって意味があるんですけど、運命の人と巡り会えますようにって願いを込めて買っていかれる人も多いんですよ」

「えっ、何それ?それいいじゃん!
私もそのお守りが欲しい〜。それってまだありますか?」

「すいません、次いつ入ってくるかは未定で…。
他にもありますのでよければ案内しますね」

「そうかぁ、残念だな」

二人の姉妹はお店の人の後に続いてキャッキャ騒ぎながら別のお守りを吟味し始めた。
その様子を伺いながらヒデ君も一緒になにか物色している。
そして俺は……。


やっぱりここで買ってたんだ。
青はなぜこれを選んだんだろう?
お守りの意味を知ってて買ったんだよな…?

青がこれをくれた意味を考えてしまう。


これから運命の人と出会えますように…なのか。
それとも、俺にとって青が運命の人でありますように…なのか。



あと、残り2日
48時間
夢は夢で終わるのかもしれない