14日後、高砂くんとのキスを僕はとめたい。


気づけば後ろの席の会話に聞き耳を立てている。
…俺、何やってるんだろう。

昨日、青と木戸さんがコソコソ何かを話していたのが、どうしても気になる。
青の顔色が悪いのにもすぐに気づいてたし、なんなら保健室に連れて行くとまで言ってたし。

いつの間に仲良くなってたんだろう?

でもだからと言ってどこかに遊びに行こうとか、
後でメールするとかいった会話は聞こえてこない。

同じクラスなんだし、たまたま話したい事があっただけなのか…?

明るくて、友達も多い青はみんなから好かれている。
それに比べて俺は人付き合いが苦手で、怖いという印象が最初につく。
そんなつもりはないんだけどなぁ。

結局一人で本を読んでいる時間が一番くつろげる。
同級生と話を合わせるのは難しいし、そもそも興味もない。
そんな俺の常識をぶち壊しに来たのが青だった。

俺のことをあんなに見てきたやつは初めてだし、青は見ていて飽きない。

一人で慌てたり、無駄に頑張ってみたり、気を使ったり…。

それにこれは俺の勝手な想像だけど、
青は誰かと付き合うようなタイプではないと思っていた。

恋愛より友達を大切にしそうだなって。
だからなんとなく安心していたのかもしれない。
でも木戸さんと楽しそうに笑いながら話してるのを見ると、なぜか俺の気持ちが騒がしい。

…あんな顔して笑うんだ。

高2の男子なんだし女子と話してる方が自然だよな。
なんでそれを見て面白くないって思うんだろう。
彼女ができたって当たり前なのに。


キーンコーンカーンコーン


チャイムが鳴ると扉が開いて社会科の先生が入ってきた。手にはなにやらたくさんの書類をかかえている。
なんだか嫌な予感しかしない。

「いいかぁ、今日はこっちで決めたグループでディスカッションするぞ。テーマはSNSの匿名性は必要か…だ。じゃあ、黒板に書いてある班になるように移動開始してくれよ〜。はい、動いて動いて」

あぁ、マジでかぁ、
この先生って突然思いつきでこういう事やるんだよな。普通に授業でいいのに。

俺のグループは後方の端か…。
えっと青は…前方の端。
今日はやけに遠くに感じるな。
そんな事思ってても仕方ないし、移動するか…。

「もう、全員移動したか?よし、大丈夫だな…これから10分で話し合って、その後グループごとで意見を発表してもらうからな。じゃあ、スタートするぞ」

あぁ、この先生のお得意パターンか。
話し合いからの発表ー。
俺、こういうのが一番苦手なんだけどなぁ。
そもそも最初に意見言うのってなかなかハードル高くないか?
ほらみろ、みんなちょっと困ってるし…。


「僕は匿名はある意味賛成だけど」

向こうの方で楽しそうにディスカッションしている声が聞こえてきた。

思わずその声に反応してしまう。

青か…。

さっきまで静かだった教室が賑やかになった感じがした。
青が隣の子と楽しそうに話しているのが見えた。

そういえば今まで青より前の席ばかりだったから後ろで青を見るのは初めてかも。

なんだよ、誰とでもあんなふうに楽しそうに話せるんだ。
……面白くない。
……見たくない。

ってなんだ?この気持ち。

あーーっ、もうダメだ、ダメ。
今は同じグループのメンバーとのディスカッションに集中しないと。
なのに、グループの話し合いなんて耳に入らない。
気づけば、青の声ばかり探してしまう。

「あと残り3分だぞ、意見はまとまったかぁ?」

その声にハッと我に返った。
メンバーの一人の女子が申し訳なさそうに俺の顔を覗き込んでいるのに、そのとき気が付いた。


「高砂くん、どうしよう…みんな遠慮しちゃって何も言わないから全然まとまんないよ」

そうだった…なぜか俺が仕切ることになっているようなグループのメンバーだった。
なんで男子も女子も俺の言う事が正解みたいな顔で見てくるんだよ。
やめてくれよ。仕方ないな

「えっと、匿名性は必要ないと思う人はいる?いないなら必要って事でいいんじゃないかな」

「うん、それでいいよ」

……リーダーシップとりがちで、自分の意見を押し付けてくるやつも嫌だけど、平和主義すぎて他人任せもなかなかキツい。

「高砂くん、グループ代表で意見を言ってもらって大丈夫かな?お願いしたいんだけど」

今まで何も言わなかったのに、急に話に入ってくるやつがここに一人。

「あぁ、俺が…?」

そこんところは遠慮しないで言えるんだ。
ここら辺の境界線が本当に分からないんだよな。


「じゃあ、各グループの代表に意見を発表してもらうからな。代表者以外はその場に座るよーに」

「・・・・・・」

マジかよ?結局俺が発表するわけ?
当然とでも言うような、やれやれとでも言いたげな顔をしてすっと座ってしまった残りのメンバーにやや冷める。

早く青の近くに戻りたい。
なんでそんな風に思うんだろ…オレ?

代表者全員の意見が発表されたころ、チャイムが鳴った。


「何が質問がある人はいるか?いないな〜。
じゃあ今日の授業はここまで。元の席にもどっていいぞ」

先生は満足そうに教室を出ていった。

今日の社会の授業はこれにて終了!



みんながやれやれと言いながら自分の席に戻って来た。
高砂くんはいつの間にか自分の席に座っている。
なんか、様子が変だな。
ウッチーはそんな事は気にも留めず、自分の席につくなり僕にぐちをこぼし出した。


「マジで訳わかんねーよな、青。
なんで社会の先生ってあーゆうディスカッションをさせたがるんだろうな?」

「なんでだろうね?」

「俺は人前で話すとか、短い時間で意見まとめるとか苦手なんだよな。コミュ力あるやつだけ得するやつじゃん」

「発表までやるなんて聞いてないしね」

「だろ…でもさ、青ってそういうの得だよな」

「なんでだよ」

「なんかお前が話してると普通に聞いちゃうんだよ。そー思うとコミュ力だけじゃなくて可愛い見た目も大切なのかな…?って」

「完璧、僕の事バカにしてるな」

「私もそう思う」

「えっ?木戸さん」

「宮代くんって多分自分で思ってるより女子に人気あるよ」

「そ、そうなの…?」

「そうだよ。でも〜大きな声では言えないけど…。実は高砂くんが一番人気なんだよね」

ふふん、っと鼻をならしながら得意げに木戸さんが答えた。
そうだった、木戸さんをはじめ高砂くんは女子から人気があるんだった。
当の本人はその事を知っているんだろうか?

改めて高砂くんの背中を見つめてしまう。


あれ…?
高砂くん、どうしたんだろう。
やっぱりなんかいつもと様子が違くないか?
本当はあんまり自分から話しかけない方がいいんだろうけど、なんか気になる。

「ねえねえ、高砂くん…」
思い切って話しかけてみた。
あれ…聞こえてないのかな?全く動かないんだけど。

ツンツン

「おーーい、高砂くん」

「えっ…あっ、オレ…?」

「どうしたの?なんかあったの」

「えっ、なんで…」

「うーん、後ろ姿がなんか物語ってるんだよね。
『俺…気にしてる事があります』ってさ」

「はっ、なんで?青、それ本気で言ってるの?」

「えっ?あのぉ、僕…なんか変なこと言ったかな?それより目、あんまり見ないでくれる」

今まで幾度となく危険にさらされてきたのを回避してきたわけで、ほんのちょっとの油断が命取りになる。そう、それが…この目が合うという状況。

僕は知っているんだ。
高砂くんは遠慮なんかしない。
僕の目をじっと見ている事を!

「目…?…そこ大事なの?」

「まぁ、僕にとってはね」

「本当に面白いやつだな、お前って」

なにこのシチュエーション?


ピーンポーンパーンポーン

校内放送が流れ出した。
「今日は校内点検の日です。生徒はなるべく早く下校するようにして下さい。繰り返します。今日は……」

「しまった、忘れてた。今日は点検の日だった!みんな無駄話してないで早く帰れよー」

担任においだされるように僕達は教室を後にした。


ピンコン

ん…?メールか、誰からだろ?
あっ、夢の方かぁ〜。
帰りに少し寄っていくか、いや、返信すればいいか。


《 研究室 》

「残り3日になりましたが、何か変わった事はありましたか?」

「特に変わった事は何も・・」

「そうですか。ルールは守れていますか?」

「ルール…」

「はい、ルールです。
ルール① 2人きりにならない
ルール② 目を合わせない
ルール③ 名前を呼ばせない です」


「同じクラスなので、なかなか思うようにいかなくて。守れたり守れなかったりです」

「そうですか…本当に回避することを望んでいるんですか?」

「そ、それは…。はい、えっと」

「研究室としては、データの収集を基本としているので、回避するのかしないのかは、あなた自身の決断になります。もし回避できたなら、その方法を報告に来てください」

「分かりました」

世界を動かすような夢じゃないのは分かってる。
でも、
僕の世界はこの夢一つで簡単に変わってしまう。

あと、残り3日
72時間

絶対に言うつもりはないけど、もし高砂くんが夢の話を聞いたらなんて言うんだろう。
少しだけ気になるのは高砂くんを知ってしまったからかもしれない。