「なぁ、青…おいって…」
「うーん、あれ? なんでお前がここにいるの?
今日って学校……」
「なんでって…昨日のキス、忘れたの?」
「…は…?キス?」
「すぐ、そうやって誤魔化す」
「べ、べつに誤魔化してなんて」
えっ、ちょっと、何する気…?
手が顎に…。
顎がクイっと上に引き上げられたと思った瞬間、僕の唇を見つめる瞳に動けなくなってしまった。
徐々に近づいてくる唇に、触れそうで触れない別の体温を感じる。
「ちょっと、まっ…」
冗談は…やめろって、おい!
うわああぁぁぁっっ!!
ガバッ
はあ はあ はぁ はぁ なに?
あぁ、そうか夢…か…
「夢……えっ、 、 今何時? 」
ー AM 5時 ー
思いっきり目覚まし時計を引き寄せてガン見してしまった。
ヤバい…
朝の5時だ
何度見ても5時
後で研究室に報告しなきゃ
そんなことより
なに、さっきの?
はっ?冗談だろ
何がなんでもこれは阻止しないと!
だって男同士だし!
相手は人間嫌いだし!
だって訳わかんないし…!!
まだ朝方なのにもう眠れない。
本当はもう少し寝たほうがいいんだけど。
2年7組
「おはよー」
「おはよ」
ガタッ
教室に入って席に着いた。
結局、あれからずっと眠れずに朝を迎えてしまった。
あぁ気になる…。
気にならない方がおかしいよな。
だって、だって、あんな夢をみたあとだし。
今なら少しだけ確認してもいいよな。
やっぱり今日も一人なんだ。
僕の夢の相手、高砂 司(たかさご つかさ)
必要以上にしゃべらないし、昼はいつも一人。
ミステリアスに感じるのか女子には受けがいい。
『顔がいいって得だよなぁ』
僕の斜め前方に座っている横顔を眺めてみた。
こんなにマジマジ見たのは初めてかも。
でもなんか近寄りがたい気がするんだよな。
頭もいいし。
朝から本とか読んでたんだ…活字タイプか。
意外だな。
うわっ、こっち見た!
『ヤバい…目が合っちゃったよ』
頭を低くして思いっきり隠れてしまった。
今の不自然だったかな?
いや、でも目が合ったと思っただけで合ってないのかもしれないし…。
ちょっと見てみようかな。
だめだ、だめだめ…しばらく見るの禁止しよう。
気づかれたら変に思われる。
キーンコーンカーンコーン
やったぁー。やっと昼の時間だ。
売店もあるけど争奪戦が嫌だから僕は弁当派。
たまに自販機でジュースを買うくらい。
今まで気にもしていなかったけど、一人で弁当食べてる子って結構いたんだ…。
高砂くんも一人で弁当組かぁ。
僕はいつも友達数人と弁当を食べる派だから、他の子が弁当をどうしてるとか考えたことも無かった。
あんな夢を見たばかりだから、気づくと高砂くんを目で追ってしまう。
昨日まではこんな事になるなんて全く思ってもいなかったのに…不思議だ。
おっ、高砂くんって「いただきます」と「ごちそうさま」 を言うタイプ…!?
意外かも。
ヘぇ〜、ちゃんとしてるんだ。
余計なことは言わない感じだから、正直驚いた。
家では言うけど
学校では
えっ…っと
僕ってどうだったっけ?
そんなことを考えていたらハッと気がついた。
ん……??あれ?
高砂くんが居ない…いつの間に!?
教室の中をぐるっと見渡してみたけど、やっぱりいない。
カチャッ
弁当箱と箸を机の上に置いた。
「僕、ちょっとトイレ行ってくるよ」
「あぁ、行ってらっしゃ〜い」
友達のそっけない返事が返ってきた。その方が今の僕にはありがたい。
急いで廊下に出てみたけど、姿が無い。
どこに行ったんだろ。おかしいなぁ・・・。
お茶でも買いに行ったのかな?
辺りをキョロキョロ探してみる。
「なあ…」
「えっ・・!」
うわぁ〜〜まさかの本人!
不意打ちはダメだろ。ってか何処にいた?
死角になってたとか?
「何なの?」
「はっ?なにって…」
「お前、俺のことずっと見てるだろ?」
「そんな、そんな事ないよ」
「いや、見てる!見過ぎてる…流石に分かるって」
ヤバい…気づかれてたかぁ〜。
どこから見てたんだよ。
バレてたなら仕方ない。
一か八か…。
「あのさ、もしかして僕のこと気味悪がってる?
じっと見てるなって」
「えっ、逆じゃなくて?俺のこと変なヤツだなって思って見てるのかと思ってた」
「いや、それは…ないから。あははは」
【 大学研究室 】
「宮代 青(みやしろ あお)17歳です」
「夢の詳細は何ですか?」
「クラスメイトと接触する夢です」
「接触と…」
カタカタカタカタッ
「接触部位はどこですか?」
「あの…言いづらいというか…」
「隠すと記録の正確性が下がります」
「えっとぉ、接触部位は顔です」
「顔のどこですか?」
「・・・・・・・・」
「記録が進みませんが」
「くちびる…です」
「くちびるですね。了解しました」
「はぁ…」
「お疲れ様です。このままいくと唇に接触するのは14日以内です。
この夢は回避を希望しますか?
それとも経過観察としますか?」
「回避を希望します」
経過観察……って、何もしずに黙ってみてるだけって事??ありえない、そんなのあり得ない!
「そうですか。では回避ルールを適用します」
回避ルール?そんなのあるんだ?
僕の他にも何人か出入りしている人を見かけた事がある。多少はマニュアルみたいな物が存在しているのかな?詳しくは知らないけど。
「ありがとうございました」
「ではまた経過報告に来てください」
「…分かりました」
「お疲れ様でした」
パラッパラッ
ふ〜〜ん、宮代 青 くん。 この研究室に在籍して10年目か。
今回初めて自分の夢を見た…と。
朝5時に見た夢は必ず研究室に報告する決まりになっている。
僕は子供の頃からよく夢を見た。
「お母さん、太陽が黒かったよ」
「お父さんがお母さんに何回も何回も謝ってた」
「はい、はい、そーなの?」
いつものお母さんの口癖。
「青、今からお母さんと一緒に行くわよ!」
ある日腕を掴まれて無理矢理どこかに連れて行かれた。
「先生、この子変なことを言うんです。気のせいで済ませたかったんですけど、もう無理なんです。だって・・・後で全部本当になるんです。
月食だったり夫の浮気だったり」
病院に連れて行かれたのかと思ったけど、そこは大学の研究室だった。
僕が小学生の頃の話。
心配した母親が誰かに相談して勧められたのが
ここだったみたい。
それ以来朝5時に見た夢だけは必ず報告するようになった。
だから…。
絶対に高砂くんと接触しないようにしないと!!
自分が夢に出てきたのは今回が初めてだから多少の不安は隠しきれない。
今までは傍観者側だったわけで当事者になるなんて思いもしなかった。
気持ちがまるで違う。
不安だなぁ。
何かお守りみたいな物が欲しいかも…神頼みってやつだ。
「あっ!そうだ」
初めて研究室に行ったときに貰ったミサンガがあった。
なんとなく、お守りみたいにして持ち歩いてたんだよね。
「これこれ。あれ?なんか上手く巻けないけど、まあ…こんなもんでいいや」
右手を高く掲げてみた。
「よし!これで一歩遠のいた」
赤いミサンガ
これが僕を守ってくれるはず。
運命の赤い糸ってわけではないけど、
高砂くんと結ばれない為の印になるんだ。
他にも何か方法はないか調べてみるか…。
僕に残された時間はあと13日。
312時間
もう、カウントダウンは始まっている。



