6月3日、薄曇りの朝、NFC3日目。
前日の雨は夜のうちに止んだが、ところどころ水たまりやぬかるみがあり、フィールドコンディションは良好とは言えなかった。
NFC3日目の作戦は、勝負にでるということでグループの意見は一致。
可能な限り上位を目指す、その思いは5人共通だった。雪音の所属するグループの士気は高まっていた。
朝食を軽く済ませ、ストレッチで入念に身体をほぐす。
時刻は9:10、2日目であれば指定エリアの通知届いてからの移動だったが、本日の作戦は最初の指定エリアを予想して先回りすることになった。
雪音の所属するグループがベースキャンプにしている5-2から、中央部の山岳地帯に位置する2-3、2-4を最初の候補と予想し、移動を開始する。
5-2から5-3、4-3とぬかるむ地面に足をとられながらも、急がず体力を温存しながら3-3エリアへと入ったところで、10:00になり1回目の指定エリアが通知が届く。
NFC3日目の最初の指定アリアは、3-3と予想は外れはしたものの、瞬間的に着順ポイント10を獲得、幸先の良いスタートに5人は思わず顔を見合わせ、笑みを浮かべた。
合計ポイントは51となり、現時点で30グループ中5番目まで順位を上げる。
2回目12:00の指定エリアの予想は1-1、1-2と予想し、山岳地帯を1-3側に抜け1-3へ到達したところで、ランダムミッションの通知。
ランダムミッションの開催場所は3-5エリア。内容はネクスタ投稿だった。しかし、一花は着順ポイントを優先する判断を下し、参加は見送った。
11:50、予想した1-2に到着。指定エリア更新通知が届く前に、飲むゼリーや菓子パンで軽く食事を済ませる。
12:00になり、指定エリア更新通知が届く。その通知を確認した一花をはじめ、グループのメンバーは愕然とした。
指定エリアは4-4。14:00までの到達は難しいと判断した一花は、着順ポイントを見送り、3回目の指定エリア更新に向けてグループの作戦を立て直すことにした。
「皆さん、わたくしの判断ミスですわ。もうしわけ…」
一花の言葉を遮るように仁が口を開く。
「宮園が謝る必要はないぞ。みんなで決めたことだからな」
「そうそう、宮園だけに責任あるわけじゃないしな」
「一花っちだけが悪いんじゃないんだからさ、気にするのやめよー」
雪音もみんなの言葉に何度も頷く。
「皆さん…」
一花は、少し顔を背ける。
雪音は一花の側にそっと近づき、タオルを差し出した。
「下久保さん…ありがとうございますわ」
少しだけ鼻声の一花の背中を秋が優しくさすっていた。
「まだ、上位に食い込むチャンスはあると思うぞ」
仁は力強い口調。
「そういうこと。まだ諦めるには早いってことだな」
智樹も笑顔で続く。
「そ、そうですわね。まだまだ、これからですわよ、皆さん」
一花の表情に、少しずつ笑顔が戻ってくる。
「が、頑張りましょう」
雪音の気合の入った言葉に、4人は思わず目を丸くした。
しかし、その驚きはすぐに笑みへと変わり、張り詰めていた空気が少しだけ和らぐ。
グループ内の雰囲気が少し明るくなったところで、本日2回目のランダムミッションが届く。
開催場所は、比較的緩やかな山岳地帯3-2で、内容は歴史。
現在地の1-2から近いこともあり、グループ全員でランダムミッションに向かうことにした。
午後になり気温は上がってきたが、まだぬかるみや水たまりは点在している。
スニーカーやジャージの裾が泥だらけになりながらも前に進む。
2-2から3-2へ入るエリアの境界付近で、雪音が泥に足をとられバランスを崩して転倒。
ランダムミッションの開催場所まであと少しというところでのアクシデントだった。
「下久保、大丈夫か」
隣にいた仁が雪音の手を引き起こそうとする。
「あっ、痛っ…」
仁の手を掴んで起き上がろうとするが、足首を痛め思うように起き上がれなかった。
「下久保さん、足首捻ったのではないですか」
先頭の一花が慌てて駆け寄ってくる。
「そ、そうかもです。ごめん…なさい…」
「ミッションなんてどうでもいいですわ。それよりも下久保さんの足の方が大事ですわよ」
「仁と俺で下久保に肩貸して、ゆっくり進むか」
「おう、そうしようぜ。宮園と久我山は3-3でランダムミッション頼むよ」
「えっ、そんなこと言ってる場合ではないですわよ」
「大丈夫、下久保のことは俺と智樹に任せておけ」
「仁と俺は下久保をスタート地点5-1の救護テントまで連れて行く。ランダムミッションが終わったら追いついてきてくれ」
「一花っち、雪音っちのこと心配だけど、とりあえずポイント取っておこう」
「そ、そうですわね。下久保さんのことお願いしましたわよ」
一花と秋は、3-3に向かって走って行った。
「智樹、下久保の足の状態を考慮して、外周を回るか」
「あぁ、そうだな。少し遠回りになるけど、そっちの方がいいな」
「前田くん、神野くん、本当にごめんなさい」
「いいって、俺も仁もそんなの気にしてないからさ。なぁ、仁」
「おう、智樹の言う通りだぞ。痛かったら我慢するなよ。休み休み進むからさ」
「うん、ありがとう。お願いします」
2-2から2-1、3-1、4-1と外周を回り、仁と智樹に肩を借りながらゆっくりと進む。
時刻が14:00を迎える頃、ようやく救護テントへと到着。
救護テントでは、ランダムミッションを終えた一花と秋が、心配そうな表情で待っていた。
本日3回目の指定エリアも通知されたが、一花をはじめ誰もその話題には触れない。
その間、雪音は救護テントの中で医療スタッフの診察を受けている。
新たなランダムミッションも届いたが、誰も動こうとしなかった。
時刻は14:20になり、雪音の応急処置も完了した。
医療スタッフから「軽い捻挫ですね。幸い骨折の可能性は低そうです。テーピングで固定しますが、無理はしないでください。」と告げられる。一花、仁、智樹、秋の4人は緊張がほどけたのか、その場にへたり込んだ。
「わ、わたしのせいで、指定エリア…ダメになってごめんなさい」
「そんなの気にしなくて大丈夫ですわよ。下久保さんの足が大事に至らなくて、本当によかったですわ」
「ほんとだよー、一花っちずっと心配してたからね。もちろん、秋もねー」
「久我山さん、余計なことは言わなくてもよろしくてよ」
「あははー、一花っち、ずっとそわそわしてたしー」
一花が秋をキッと睨む。
「あははー、一花っちこわー」
一花と秋が笑い出すと、仁と智樹もつられて笑い始めた。
「そういえば、宮園と久我山が行ってくれたランダムミッションは2位だったんだな。お疲れだったな」
仁が一花と秋に向けて親指を立てる。
「さっすがー、宮園は頭もいいもんなー」
智樹が銃のようなポーズを一花に向ける。
「と、当然ですわ」
一花は腰に手を当て、どこか得意げな表情で仁と智樹を見やった。
救護テント付近で休憩していると、時刻は16:00になり最後の指定エリアが決まる。
指定エリアは5-4と現在いる5-1から近かった。
スマホの通知を見た雪音は、意を決したように立ち上がる。
「いっ、あの、行きませんか5-4。少しでもポイント取りにいきませんか」
雪音の言葉に、一花、仁、智樹、秋の4人は思わず顔を見合わせた。
「下久保さん、無理はよろしくなくてよ」
「そうだよー、足痛いでしょ」
一花と秋は雪音に近づき体を支える。
「そうだぞ、下久保。無理してあとあと響く方が困るだろ」
「だな、仁の言う通り。学校休まなきゃいけなくなるかもだしな」
「で、でも、諦めたくないです…わたしが足を引っ張ってるし。だから、最後まで少しでも…諦めたくない…です」
一花は大きく息を吐きだし、キリッとした表情に変わった。
「下久保さんの気持ちは理解しましたわ。前田くん、神野くんは下久保さんのサポートを。久我山さんとわたくしは、下久保さんのうしろから付いていきましょう」
「だねー、雪音っちうしろから見守ってるから安心してね」
「よし、それじゃ、やるか仁」
「だな。下久保、痛かったらちゃんと言うんだぞ」
「は、はい。前田くん、神野くん、よろしくお願いします」
仁と智樹は笑顔で頷いていた。
雪音は痛む足をかばい、仁と智樹のサポートを受けながら、一歩ずつ確実に進む。
水たまりやぬかるんだ場所を避け、途中で小休憩を挟みながら少しずつ5-4へ近づいていく。
雪音のうしろでは、一花と秋がずっと心配そうな顔をしていた。
指定エリア到着締め切りの18:00が迫る中、まだ5-3の中間辺りまでしか到達できていない。
それでも諦めず進み続けるも、無情にもタイムアップとなった。
「うふふ。皆さん、お疲れ様でしたわ。とても充実したNFCを経験できたことを誇りに思いますわ」
一花はとても晴れやかな表情。
「秋もー、楽しかったな」
「下久保、よくがんばったな。みんなもお疲れ」
「ほんと、いいグループだったな」
仁と智樹は雪音を間に挟み握手をしていた。
「前田くん、神野くん、ずっとサポートありがとうございます。宮園さん、久我山さん、最後まで付き合ってくれて、ありがとうございました」
「下久保は、最後まで硬いままだったな」
「智樹のノリが軽すぎるんだろ。あっ、久我山もか、ふっはは」
仁の言葉に、5人は顔を見合わせて笑った。
茜色に染まり始めた空の下、その笑い声は静かな島へと響いていく。
NFC3日目は、こうして幕を閉じた。
6月4日、爽やかな朝、NFC最終日。
前々日の雨、前日のぱっとしない曇り空とは打って変わり、澄み切った青空が広がっている。
9:00から5-1に設置された白い集会用テント前には、1から30までのグループ番号が書かれた小さな旗が並んでいた。
1年次の生徒たちはがやがやと話しながら、それぞれのグループ番号の旗へ集まっていく。
「おはよう」「疲れたよね」「お疲れ様」そんな声が、方々から聞こえていた。
1年次の主任教師、竹原琴美がグループ順位を30番目から発表していく。
雪音が所属しているグループは、最終的に12位という結果。
一花、仁、智樹、秋、雪音の5人は、多少の悔しさを残しながらも、どこか晴れやかな表情で頷いていた。
真央の所属するグループは5位、めぐみの所属するグループは3位。
上位に入りたいと言っていた2人の結果が発表され、雪音はほっと胸をなでおろした。
結果の全てが発表され、NFCは幕を閉じた。
フェリーの出航予定時刻は10:30。それまでの時間は自由行動とする旨がアナウンスされた。
一花、仁、智樹、秋と「また学校でね」「足治るまで無理するなよ」「楽しかったですわ」などと言葉を交わし、手を振ってそれぞれ散っていく。
きょろきょろと辺りを見回す雪音。
すると、うしろの方から「おーい、雪音」と声が聞こえる。
聞き覚えのある声に振り向くと、真央とめぐみが手を振りながら駆け寄ってきた。
「真央ちゃん、めぐみちゃん」
雪音も真央とめぐみに向かって、痛む足を気にしながらも駆け寄る。
真央に抱きしめられる雪音。
「んぐっ、ま、真央ちゃん、く、苦しいよ」
「あはは、久しぶりの雪音を堪能しなきゃでしょ」
「ぷはぁ、苦しかったけど、嬉しかった、真央ちゃん」
「次、わたしの番」
真央と雪音の間に入り込んだめぐみ。そのまま雪音を優しく抱きしめる。
そのあとは、「怪我大丈夫」「頑張ったね」「雨最悪だったよね」など、NFCを振り返る話に花を咲かせた。
フェリーの乗船時間が近づき、3人はゆっくりと桟橋へ向かう。
真央とめぐみに支えられながら、雪音も一歩ずつ歩いていく。
NFCの余韻を残したままフェリーは、ゆっくりと第一近ネクアイランドを離れていった。
雪音は真央とめぐみの3人で、デッキから少しずつ遠ざかる第一近ネクアイランドを見つめる。
濃密な3日間の思い出を胸に、雪音たちを乗せた船はフローティングアイランドへの帰路を進んだ。
前日の雨は夜のうちに止んだが、ところどころ水たまりやぬかるみがあり、フィールドコンディションは良好とは言えなかった。
NFC3日目の作戦は、勝負にでるということでグループの意見は一致。
可能な限り上位を目指す、その思いは5人共通だった。雪音の所属するグループの士気は高まっていた。
朝食を軽く済ませ、ストレッチで入念に身体をほぐす。
時刻は9:10、2日目であれば指定エリアの通知届いてからの移動だったが、本日の作戦は最初の指定エリアを予想して先回りすることになった。
雪音の所属するグループがベースキャンプにしている5-2から、中央部の山岳地帯に位置する2-3、2-4を最初の候補と予想し、移動を開始する。
5-2から5-3、4-3とぬかるむ地面に足をとられながらも、急がず体力を温存しながら3-3エリアへと入ったところで、10:00になり1回目の指定エリアが通知が届く。
NFC3日目の最初の指定アリアは、3-3と予想は外れはしたものの、瞬間的に着順ポイント10を獲得、幸先の良いスタートに5人は思わず顔を見合わせ、笑みを浮かべた。
合計ポイントは51となり、現時点で30グループ中5番目まで順位を上げる。
2回目12:00の指定エリアの予想は1-1、1-2と予想し、山岳地帯を1-3側に抜け1-3へ到達したところで、ランダムミッションの通知。
ランダムミッションの開催場所は3-5エリア。内容はネクスタ投稿だった。しかし、一花は着順ポイントを優先する判断を下し、参加は見送った。
11:50、予想した1-2に到着。指定エリア更新通知が届く前に、飲むゼリーや菓子パンで軽く食事を済ませる。
12:00になり、指定エリア更新通知が届く。その通知を確認した一花をはじめ、グループのメンバーは愕然とした。
指定エリアは4-4。14:00までの到達は難しいと判断した一花は、着順ポイントを見送り、3回目の指定エリア更新に向けてグループの作戦を立て直すことにした。
「皆さん、わたくしの判断ミスですわ。もうしわけ…」
一花の言葉を遮るように仁が口を開く。
「宮園が謝る必要はないぞ。みんなで決めたことだからな」
「そうそう、宮園だけに責任あるわけじゃないしな」
「一花っちだけが悪いんじゃないんだからさ、気にするのやめよー」
雪音もみんなの言葉に何度も頷く。
「皆さん…」
一花は、少し顔を背ける。
雪音は一花の側にそっと近づき、タオルを差し出した。
「下久保さん…ありがとうございますわ」
少しだけ鼻声の一花の背中を秋が優しくさすっていた。
「まだ、上位に食い込むチャンスはあると思うぞ」
仁は力強い口調。
「そういうこと。まだ諦めるには早いってことだな」
智樹も笑顔で続く。
「そ、そうですわね。まだまだ、これからですわよ、皆さん」
一花の表情に、少しずつ笑顔が戻ってくる。
「が、頑張りましょう」
雪音の気合の入った言葉に、4人は思わず目を丸くした。
しかし、その驚きはすぐに笑みへと変わり、張り詰めていた空気が少しだけ和らぐ。
グループ内の雰囲気が少し明るくなったところで、本日2回目のランダムミッションが届く。
開催場所は、比較的緩やかな山岳地帯3-2で、内容は歴史。
現在地の1-2から近いこともあり、グループ全員でランダムミッションに向かうことにした。
午後になり気温は上がってきたが、まだぬかるみや水たまりは点在している。
スニーカーやジャージの裾が泥だらけになりながらも前に進む。
2-2から3-2へ入るエリアの境界付近で、雪音が泥に足をとられバランスを崩して転倒。
ランダムミッションの開催場所まであと少しというところでのアクシデントだった。
「下久保、大丈夫か」
隣にいた仁が雪音の手を引き起こそうとする。
「あっ、痛っ…」
仁の手を掴んで起き上がろうとするが、足首を痛め思うように起き上がれなかった。
「下久保さん、足首捻ったのではないですか」
先頭の一花が慌てて駆け寄ってくる。
「そ、そうかもです。ごめん…なさい…」
「ミッションなんてどうでもいいですわ。それよりも下久保さんの足の方が大事ですわよ」
「仁と俺で下久保に肩貸して、ゆっくり進むか」
「おう、そうしようぜ。宮園と久我山は3-3でランダムミッション頼むよ」
「えっ、そんなこと言ってる場合ではないですわよ」
「大丈夫、下久保のことは俺と智樹に任せておけ」
「仁と俺は下久保をスタート地点5-1の救護テントまで連れて行く。ランダムミッションが終わったら追いついてきてくれ」
「一花っち、雪音っちのこと心配だけど、とりあえずポイント取っておこう」
「そ、そうですわね。下久保さんのことお願いしましたわよ」
一花と秋は、3-3に向かって走って行った。
「智樹、下久保の足の状態を考慮して、外周を回るか」
「あぁ、そうだな。少し遠回りになるけど、そっちの方がいいな」
「前田くん、神野くん、本当にごめんなさい」
「いいって、俺も仁もそんなの気にしてないからさ。なぁ、仁」
「おう、智樹の言う通りだぞ。痛かったら我慢するなよ。休み休み進むからさ」
「うん、ありがとう。お願いします」
2-2から2-1、3-1、4-1と外周を回り、仁と智樹に肩を借りながらゆっくりと進む。
時刻が14:00を迎える頃、ようやく救護テントへと到着。
救護テントでは、ランダムミッションを終えた一花と秋が、心配そうな表情で待っていた。
本日3回目の指定エリアも通知されたが、一花をはじめ誰もその話題には触れない。
その間、雪音は救護テントの中で医療スタッフの診察を受けている。
新たなランダムミッションも届いたが、誰も動こうとしなかった。
時刻は14:20になり、雪音の応急処置も完了した。
医療スタッフから「軽い捻挫ですね。幸い骨折の可能性は低そうです。テーピングで固定しますが、無理はしないでください。」と告げられる。一花、仁、智樹、秋の4人は緊張がほどけたのか、その場にへたり込んだ。
「わ、わたしのせいで、指定エリア…ダメになってごめんなさい」
「そんなの気にしなくて大丈夫ですわよ。下久保さんの足が大事に至らなくて、本当によかったですわ」
「ほんとだよー、一花っちずっと心配してたからね。もちろん、秋もねー」
「久我山さん、余計なことは言わなくてもよろしくてよ」
「あははー、一花っち、ずっとそわそわしてたしー」
一花が秋をキッと睨む。
「あははー、一花っちこわー」
一花と秋が笑い出すと、仁と智樹もつられて笑い始めた。
「そういえば、宮園と久我山が行ってくれたランダムミッションは2位だったんだな。お疲れだったな」
仁が一花と秋に向けて親指を立てる。
「さっすがー、宮園は頭もいいもんなー」
智樹が銃のようなポーズを一花に向ける。
「と、当然ですわ」
一花は腰に手を当て、どこか得意げな表情で仁と智樹を見やった。
救護テント付近で休憩していると、時刻は16:00になり最後の指定エリアが決まる。
指定エリアは5-4と現在いる5-1から近かった。
スマホの通知を見た雪音は、意を決したように立ち上がる。
「いっ、あの、行きませんか5-4。少しでもポイント取りにいきませんか」
雪音の言葉に、一花、仁、智樹、秋の4人は思わず顔を見合わせた。
「下久保さん、無理はよろしくなくてよ」
「そうだよー、足痛いでしょ」
一花と秋は雪音に近づき体を支える。
「そうだぞ、下久保。無理してあとあと響く方が困るだろ」
「だな、仁の言う通り。学校休まなきゃいけなくなるかもだしな」
「で、でも、諦めたくないです…わたしが足を引っ張ってるし。だから、最後まで少しでも…諦めたくない…です」
一花は大きく息を吐きだし、キリッとした表情に変わった。
「下久保さんの気持ちは理解しましたわ。前田くん、神野くんは下久保さんのサポートを。久我山さんとわたくしは、下久保さんのうしろから付いていきましょう」
「だねー、雪音っちうしろから見守ってるから安心してね」
「よし、それじゃ、やるか仁」
「だな。下久保、痛かったらちゃんと言うんだぞ」
「は、はい。前田くん、神野くん、よろしくお願いします」
仁と智樹は笑顔で頷いていた。
雪音は痛む足をかばい、仁と智樹のサポートを受けながら、一歩ずつ確実に進む。
水たまりやぬかるんだ場所を避け、途中で小休憩を挟みながら少しずつ5-4へ近づいていく。
雪音のうしろでは、一花と秋がずっと心配そうな顔をしていた。
指定エリア到着締め切りの18:00が迫る中、まだ5-3の中間辺りまでしか到達できていない。
それでも諦めず進み続けるも、無情にもタイムアップとなった。
「うふふ。皆さん、お疲れ様でしたわ。とても充実したNFCを経験できたことを誇りに思いますわ」
一花はとても晴れやかな表情。
「秋もー、楽しかったな」
「下久保、よくがんばったな。みんなもお疲れ」
「ほんと、いいグループだったな」
仁と智樹は雪音を間に挟み握手をしていた。
「前田くん、神野くん、ずっとサポートありがとうございます。宮園さん、久我山さん、最後まで付き合ってくれて、ありがとうございました」
「下久保は、最後まで硬いままだったな」
「智樹のノリが軽すぎるんだろ。あっ、久我山もか、ふっはは」
仁の言葉に、5人は顔を見合わせて笑った。
茜色に染まり始めた空の下、その笑い声は静かな島へと響いていく。
NFC3日目は、こうして幕を閉じた。
6月4日、爽やかな朝、NFC最終日。
前々日の雨、前日のぱっとしない曇り空とは打って変わり、澄み切った青空が広がっている。
9:00から5-1に設置された白い集会用テント前には、1から30までのグループ番号が書かれた小さな旗が並んでいた。
1年次の生徒たちはがやがやと話しながら、それぞれのグループ番号の旗へ集まっていく。
「おはよう」「疲れたよね」「お疲れ様」そんな声が、方々から聞こえていた。
1年次の主任教師、竹原琴美がグループ順位を30番目から発表していく。
雪音が所属しているグループは、最終的に12位という結果。
一花、仁、智樹、秋、雪音の5人は、多少の悔しさを残しながらも、どこか晴れやかな表情で頷いていた。
真央の所属するグループは5位、めぐみの所属するグループは3位。
上位に入りたいと言っていた2人の結果が発表され、雪音はほっと胸をなでおろした。
結果の全てが発表され、NFCは幕を閉じた。
フェリーの出航予定時刻は10:30。それまでの時間は自由行動とする旨がアナウンスされた。
一花、仁、智樹、秋と「また学校でね」「足治るまで無理するなよ」「楽しかったですわ」などと言葉を交わし、手を振ってそれぞれ散っていく。
きょろきょろと辺りを見回す雪音。
すると、うしろの方から「おーい、雪音」と声が聞こえる。
聞き覚えのある声に振り向くと、真央とめぐみが手を振りながら駆け寄ってきた。
「真央ちゃん、めぐみちゃん」
雪音も真央とめぐみに向かって、痛む足を気にしながらも駆け寄る。
真央に抱きしめられる雪音。
「んぐっ、ま、真央ちゃん、く、苦しいよ」
「あはは、久しぶりの雪音を堪能しなきゃでしょ」
「ぷはぁ、苦しかったけど、嬉しかった、真央ちゃん」
「次、わたしの番」
真央と雪音の間に入り込んだめぐみ。そのまま雪音を優しく抱きしめる。
そのあとは、「怪我大丈夫」「頑張ったね」「雨最悪だったよね」など、NFCを振り返る話に花を咲かせた。
フェリーの乗船時間が近づき、3人はゆっくりと桟橋へ向かう。
真央とめぐみに支えられながら、雪音も一歩ずつ歩いていく。
NFCの余韻を残したままフェリーは、ゆっくりと第一近ネクアイランドを離れていった。
雪音は真央とめぐみの3人で、デッキから少しずつ遠ざかる第一近ネクアイランドを見つめる。
濃密な3日間の思い出を胸に、雪音たちを乗せた船はフローティングアイランドへの帰路を進んだ。

