箱庭の飛べない小鳥たち

5月10日、スクールペイポイント支給日、放課後。

雪音の周りには、いつも通り真央とめぐみがいる。

「雪音、ポイントどうだった?」

真央がニヤニヤしながら問いかけてきた。

「あっ、うん、5800ポイントだったよ」

「あちゃー、節約しなきゃだね」

めぐみが心配そうに雪音を見つめる。

「真央ちゃんとめぐみちゃんは、どうだったの?」

真央とめぐみは顔を見合わせた。

「まぁ、わたしはそこそこ20000くらいかな」

真央の返答に呼応するようにめぐみも答える。

「わたしは、真央よりちょっと少なくて17000くらい」

「真央ちゃんもめぐみちゃんも、すごいよね。わたしなんて…」

「雪音はさ、まだ自分の武器に気が付いてないだけだよ」

めぐみは雪音を真っすぐ見つめた。

「う、うん、真央ちゃんとめぐみちゃんに言われてもピンとこなくて…」

「雪音は雪音だしね。そのままでもいいのかもね、ちっさくて可愛いしさ」

真央は、妹でも愛でるような仕草で、頭を優しくなでてくる。
下久保雪音の身長は148cmと小柄で、肌は白く透き通っていた。
髪の毛の色は銀髪に近く、元々色素が生まれつき薄い。

「ポイントも入ったしさ、今日はモールでもいかない?」

真央がショッピングエリアを指さしながら笑顔で、めぐみと雪音に問いかける。

「おっ!いいね!服も欲しかったし。雪音も行くでしょ?」

「う、うん、わたしも服買おうかな…でも、節約しなきゃだよね」

「雪音は初期支給ポイント残ってないの?」

めぐみが心配そうな顔で雪音を覗き込む。

「ううん、あんまり使ってないから、80000ポイントくらいあるよ」

「えらーい!雪音!わたしなんて初期ポイント0だよ0」

真央はお気に入りのペットでもなでるように、雪音をわしわししてきた。
佐藤真央の身長は168cm、明るめの茶髪で、グラマーなお姉さんといった印象。

「雪音、ほんと節約してるんだね。わたしも真央と一緒で、初期ポイントなんて4000くらいしか残ってなかったよ。あはは」

中条めぐみは、茶色い髪の毛にピンクのメッシュがところどころに入っている。
身長は172cmと真央より大きく、グラマーではないが、脚が長くモデルのようなスタイル。

「真央ちゃんとめぐみちゃんは、ネクリアとネクスタすごいでしょ。でも、わたしは…得意じゃないから、少しでも節約しないとと思って」

「うんうん、雪音はほんっと可愛いな」

真央が雪音をギュッと抱きしめる。

「真央ちゃん、顔つぶれちゃうよ…」

「ごめんごめん、可愛くてついね」

真央は雪音を解放し、頭を掻いていた。

「あはは。真央は雪音のことほんと好きだなー」

「ははっ。めぐみだって雪音のこと好きでしょーが」

「まーね」

真央とめぐみは、顔を見合わせて笑っている。
雪音もつられて、笑っていた。

「じゃ、行こうモール」

そのまま3人でショッピングエリアに向かった。
真央とめぐみの散財に付き合うような形で、雪音もフリルがあしらわれたブラウスとチェック柄のフレアスカートを購入。
合計5960ポイントを消費した。

ショッピングのあとは、近ネク生にも人気のカフェに寄り、いかにも映えそうなうさぎプリンが乗ったパフェを注文。
真央とめぐみは、角度や光の当たり方を調整しながら、一心不乱に撮影していた。
その光景を横目に雪音は、1560ポイントもするうさぎプリンパフェを静かに頬張る。

真央とめぐみの撮影会がひと段落ついた頃には、パフェのアイスは溶けきっていた。

「雪音はパフェ食べ終わったみたいだね」

真央が雪音の方を見る。

「うん、美味しかったよ」

めぐみと真央は、うんうんと頷いていた。

「そろそろ帰ろうか、配信しなきゃだし」

「うん、そうだね。わたしも編集しなききゃ」

「うん」

パフェは食べないの?と、聞こうと思ったが雪音はその言葉を飲み込んだ。
以前も、同じような光景を目にしていたから。
その時は、撮影素材でしょと一蹴され、2人は悪びれる様子が一切なかった。

カフェをあとにし、住居エリアに戻り、また明日の合図で、それぞれの部屋へと戻っていく。
雪音は、いつも通りのルーティンで、食事まで済ませた。
もこもこしたフリースの部屋着から、今日買ってきた新しい服に着替える。

「5960ポイント…20日分の夜ご飯と同じだね。ふぅ」

新しいブラウスとスカートは、思いのほか似合っていて、少しだけ気分が高揚した。

「なんか可愛いかも、これでライブやってみようかな」

最近、ネクリアの視聴者数も増え、平均すると6人くらいになっている。
配信している内容は、好きな小説の話やコメントに答えることが多い。
それでも、ライバー名【ゆきんこ】には、固定で毎回顔を出す2人がいた。

「今日も、アクアさんとミジンコさんきてくれるかな」

デスクの上のスタンドにスマホを手慣れた様子でセット。
配信準備の画面で、髪の毛を少し直す。
いつもの時間通り20:00に配信スタートボタンを押した。

視聴者数:2
アクア:ゆきんこさん、こんばんは
みじんこ:こんばんは、ゆきんこさん

配信開始と同時に、常連さんが見にきてくれていた。

「あっ、アクアさん、みじんこさん、こんばんは。今日もきてくれて、嬉しいです」

視聴者数:3
アクア:ゆきんこさん、今日はもこもこじゃないんだね
みじんこ:同意
Happy_7:はじめまして

「ハッピーさん、はじめまして。よろしくお願いします、ゆきんこです。ブラウスは買ったばかりなんです…似合ってるかな」

視聴者数:5
アクア:似合ってますよ
みじんこ:とてもお似合いです
Happy_7:可愛らしいです、よくお似合いですよ

「うふふ、ありがとうございます。」

視聴者数:7
アクア:最近は緊張しなくなりましたね
みじんこ:最初の頃はすごく緊張してましたよね
Happy_7:最初の頃、気になりすぎます
カレー侍:こんばんは、3日ぶりでござるね

「みなさんが温かく見守ってくれるので、少しですけど緊張はしなくなりましたよ。カレー侍さん、お久しぶりです」

視聴者数:15
【アクアさんが『クッキー(500pt)』をプレゼントしました】
【みじんこさんが『ケーキ(1000pt)』をプレゼントしました】
アクア:いつも癒されているお礼に
みじんこ:新しいブラウス記念です
カレー侍:相変わらず、可愛らしいでござるな
ケロケロ:ゆきんこちゃんのファンになりました

「アクアさん、みじんこさん、アイテムありがとうございます。でも、わたしにポイント使うなんてもったいないですよ」

このあとも、雪音のほんわかした雰囲気の中、配信は続いた。

10日後――
5月20日、少し小雨が降る朝、HR。

教壇の前で担任の野々村が、生徒を見渡し口を開く。

「6月だが、1日から3泊4日で1年次ネクスト・フィールド・カリキュラム、通称NFCが開催される」

「宿泊旅行みたいなもんですか、先生」

皇紀がニヤニヤしながら、野々村に問いかけた。

「黒田くん、発言は手を挙げてした方がいいと思うよ」

光太郎が皇紀に視線を送る。

「ははっ、黛は真面目ちゃんだな。まぁ、いいか」

皇紀が挙手をして立ち上がった。

「先生、ただの宿泊旅行ってわけじゃないですよね」

「まぁ、そうだな」

「なんかあるわけだ…」

冊子を手にした野々村は、前の席の生徒に人数分を手渡していく。

「うしろに配ってくれ」

生徒全員に行き渡ったのを確認する野々村。

「全員受け取ったな。まずは、一旦読め」

【1年次ネクスト・フィールド・カリキュラムガイド】

このネクスト・フィールド・カリキュラム(以下NFC)は、グループ単位での評価となる

①グループわけについては以下の通り

各クラス1名ずつ、5人1組のグループ(男女混合)
グループについては到着後に発表
グループ決定後はグループ内でリーダーを決める(原則、NFC中の交代は認められない)

②ポイント獲得条件

指定エリア到達ミッション・ランダムミッションへの参加でポイントを獲得
ランダムで出されるミッションへの参加(参加者はグループ内で協議のうえ決定)
獲得ポイントについては指定エリア到着順・ランダムミッション共に同一付与(以下参照)
・1位=10
・2位=8
・3位=6
・4位=4
・5位=2
・6位=1
・不参加=0
グループ内での貢献度により個人獲得ポイントは異なる
ランダムミッションでの獲得ポイントはグループ単位に付与
総合獲得ポイント数に応じて、グループにはボーナスポイントの付与(総合獲得ポイント1~15グループまで)

③指定エリアについて

10:00、12:00、14:00、16:00の計4回指定エリアの更新通知を送信
※NFC初日は14:00、16:00の計2回
指定エリア着順ポイントを得るためにはグループ全員のエリア到着が必須
指定エリア到着順位によってポイントを付与(ポイント獲得条件参照)
指定エリア到達ミッションは不参加も可能(その際のポイントは0)

④ランダムミッション参加中の制約について

ランダムミッション通知時間の公表はなし
チーム全員での参加は不要(不参加は0ポイント)
ミッション中の他グループへの妨害行為は禁止

⑤禁止事項について

NFC中の私的な投稿及び配信
暴力行為、その他、犯罪に抵触する行為

⑥獲得ポイント反映について

研修中に獲得したポイントは、後日スクールペイポイントとして算出し付与
グループ単位に付与されたポイントは貢献割合に応じて算出する(異論は認められない)

⑦その他

体調不良・怪我等は職員に速やかに報告すること
当日の欠席・不参加は原則認めない

NFCガイドには、ポイント制度やグループ編成、ミッションの概要が細かく記載されていた。

「なにか、質問はあるか」

読み終えたと判断した野々村の問いかけ。

挙手をして光太郎が立ち上がった。

「グループは、現地での公表ということですね?」

「そうだ、NFCガイドに書かれている通り、事前に知る術はない」

「他にはあるか」

教室内は、少しだけざわついているが、特に目立った混乱はなかった。

5月30日、NFC前日、放課後。

「雪音、めぐみ、NFC中は会話もろくにできなそうだし、モールでも行かない」

放課後の恒例行事のように、真央は2人に声をかける。

「もちろん、行くよ雪音」

めぐみは雪音の手を引っ張る。

「うん、寂しくなるね」

「なに言ってんの雪音、たかだか3泊だよ」

バシッ、雪音の背中を叩く真央。

「いたっ、真央ちゃん加減してほしいな」

「あはっ、ごめんごめん、ついつい」

顔の前で手を合わせて謝る真央、それを横目にぎゃははと笑うめぐみ。
いつもの放課後の光景。

ショッピングエリアに着くと、ファストフード店に入る。
真央とめぐみは、チーズバーガーセット、雪音はアイスティーとポテトSサイズを注文した。

「雪音、ちゃんと食べないと大きくならないぞ」

真央がからかうように、雪音の頭をポンポンする。

「ちゃんと夜ご飯たべてるの雪音」

姉のように心配してくるめぐみ。

「うん、ちゃんと食べてるよ」

「また、ロールパンじゃないでしょうね」

「えへへ、ロールパンだよ」

「だから、それだけじゃダメだって。節約もほどほどにしないと…」

「うん、気を付けるね、めぐみちゃん」

「もう、心配だなー」

「大丈夫だよ、真央ちゃんもめぐみちゃんも心配してくれてありがとう」

めぐみは納得していなそうな顔をしつつも、雪音の言葉に笑顔を見せた。
真央は、うんうん頷きながら、雪音に向かって親指を立てている。

「グループわけってさ、上位クラスの生徒によって、けっこう左右されそうじゃない」

真央はポテトを頬張りながら話す。

「まーね、上位クラスにもハズレいるからな…」

めぐみはバーガーを食べながら真央に続いた。

「最悪でも15位までには入らないとね」

「そうだね、そこが最低ラインだね」

真央とめぐみの真剣な話に雪音は頷くのが精いっぱいだった。

「でもさ、心配なのは雪音だよー」

めぐみの心配顔。

「いや、ほんと、それ。わたしも雪音が心配だわ」

真央もめぐみと同じく心配顔をしている。

「めぐみちゃんと真央ちゃんに心配かけてばかりだね、ほんとごめんね。でも、2人が心配しなくてもいいようにNFCは頑張るよ」

真央とめぐみは両拳を握りしめ、ファイトと言っているようだった。

「そろそろ帰って明日に備えなきゃだね」

真央がゴミをまとめて席を立った。

「うん、そうだね、帰ろうか」

めぐみも続く。
雪音も2人にあわせて立ち上がった。

3人で茜色に染まる道を住居エリアまで戻り、またねと手を振り各部屋へと戻る。

「明日から、真央ちゃんとめぐみちゃんと話せないんだ…」

夜ご飯のロールパンを食べながら、少しだけ涙ぐむ雪音。

「でも、心配かけないって約束したから…うん、がんばる」

小さく拳を握って気合を入れる仕草。

「あっ、明日から配信できないから、今日は配信しなきゃだよね」

もこもこしたフリースの部屋着から、うさぎのキャラクターがプリントされたカットソーに着替える。
テーブルの上にスタンドとスマホをセットし、ベッドに寄りかかりながら配信準備を始めた。

明日から始まるNFCへの不安をかき消すように楽しい配信の時間は続く。
配信が終わると、少しだけ不安が顔を覗かせる。

それでも、前に進むしかないと胸に秘めた決意。
NFC当日の朝へと向かって、夜は更けていく。