箱庭の飛べない小鳥たち

年が明け、1月。

大晦日は小夜と美玲が雪音の家へ泊まりにきて、3人で新しい年を迎えた。
元日の午前中には地元の神社へ初詣に出掛け、それぞれの願いを胸に手を合わせる。

正月が過ぎると、雪音は再び受験勉強中心の生活へと戻った。
予備校の講義に通いながら、これまで使ってきた参考書や問題集を繰り返し、共通テストへ向けて最後の確認を進めていく。

そして、1月16日。
大学入学共通テスト1日目を迎えた。

試験会場へ到着すると、すでに多くの受験生の姿がある。
案内に従って試験室へ入り、指定された席に腰を下ろす。

周囲から聞こえてくるのは、参考書のページをめくる音や、筆記用具を確認する小さな物音。
模試とは違う独特の緊張感が、試験室全体を包んでいた。

やがて試験開始時刻を迎え、監督者の合図とともに問題冊子を開く。
雪音は一度小さく息を吐き、最初の問題へ目を向けた。

これまで積み重ねてきたものを出し切るように、一つずつ問題を解いていく。
すべての試験を終えて会場を出る頃には、冬の空はすでに薄暗くなっていた。

翌17日も同じ会場へ向かい、残された科目に臨む。
2日間にわたる大学入学共通テストは、大きな問題もなく無事に終了。

共通テスト翌日、雪音は予備校で自己採点を行った。

解答を一つずつ確認しながら採点を進めていく。
すべての科目を終え、算出された得点は900点満点中758点。
これまで受けてきた模試を上回る結果となり、第一志望である白嶺大学への出願を決めた。

数日後には予備校で出願に必要な書類を確認し、自宅で手続きを進めていく。
必要事項の入力や書類の準備を終え、白嶺大学教育学部教育心理学科への出願を完了。
あとは、2月に行われる個別試験を残すのみとなった。

出願を終えたあとも予備校へ通い、個別試験に向けた勉強を続けていく。
これまで使ってきた参考書や過去問題を繰り返しながら、残された時間で何度も確認を重ねた。

そして、2月25日。
白嶺大学の個別試験当日を迎える。

試験会場となる白嶺大学には、多くの受験生が集まっていた。
雪音も案内に従って試験室へ入り、自分の席に腰を下ろす。

共通テストのときとは別な緊張感の中、試験開始の合図とともに問題冊子を開いた。
これまで積み重ねてきた勉強の成果を答案へ書き込み、問題を解き進めていく。

すべての試験を終え、白嶺大学をあとにした。

3月、白嶺大学の合格発表日。

発表時刻が近づき、雪音はスマホで白嶺大学のホームページを開いた。
表示された合格者一覧を確認していく。

画面をゆっくりとスクロールする指が止まる。
そこには、雪音の受験番号が表示されていた。

「…ふぅ…よかった」

おばあちゃんに合格したことを伝えると、目を潤ませながら自分のことのように喜んでくれた。

「よく頑張ったね、雪音」

「うん、おばあちゃんのお陰だよ」

小夜と美玲にもグループメッセージで合格を報告。
2人からはすぐに祝福のメッセージが返ってきた。

その日の夜には秋のゲーム配信を訪れ、コメントで合格したことを伝える。
秋も配信中にゲームそっちのけで喜び、雪音の合格を祝ってくれた。

4月、白嶺大学入学式の日。

暖かな春の日差しが降り注ぎ、通り沿いに並ぶ桜の木には、淡い桃色の花が咲いている。
雪音は真新しいスーツに身を包み、白嶺大学の正門前に立っていた。

「頑張ったよね、わたし…」

「ちゃんと自分で選んだもんね、白嶺大学」

正門の向こうには、同じようにスーツ姿の新入生たちが次々と入っていく。
家族と写真を撮る人や、すでに知り合った友人と楽しそうに話している人の姿もあった。

雪音は少しだけ顔を上げ、大学の校舎へ目を向ける。

「やりたいことも決まってる」

「前とは違うよね」

「でも…色々あったね。うふふ」

近ネクへの入学は、なんとなく周囲に流されるまま決めた。
けれど、白嶺大学は違う。
雪音が自分の意志で選び、しっかりと自分の足で歩いて辿り着いた場所だった。

そして、おばあちゃんや小夜、美玲、秋やマリー、璃空、倫。
たくさんの人たちに支えられたからこそ、ここまで歩いてくることができた。

「おばあちゃん、小夜ちゃん、美玲ちゃん、秋ちゃん、マリーちゃん、璃空ちゃん、倫ちゃん、みんなありがとう」

「みんなのお陰で、わたしはここに立っているよ」

柔らかな春風が、頬にそっと触れる。
風に揺れた桜の花びらが、ゆっくりと足元へ舞い落ちた。
雪音は足元に舞い落ちた桜の花びらを見つめながら、近ネクで過ごした日々を思い返す。

「楽しいこと、いっぱいあったな…」

大切な友人たちと出会い、笑い合い、それまで知らなかった経験もたくさんできた。
きっと、近ネクへ入学していなければ出会えなかった人たちもいる。

「近ネクに行ったことも、間違いじゃなかったよね」

「うん、行ってよかったと思えるね、今なら」

小さく呟き、もう一度正門の向こうへ目を向けた。

楽しい毎日を過ごしながらも、いつからか自分が何のためにそこにいるのか分からなくなった。
周囲から評価されることと、自分がやりたいこと。
その違いに気づいてからは、何度も迷い、悩み続けた。

「1年の後半は、ずっと悩んでたよね、わたし」

「一生分悩んだかもね。ふふっ」

それでも最後に出した答えは、自分の足で新しい道を歩いていくことだった。

初めて自分で大きな決断をした、17歳の春。
あのときの雪音には、その選択が正しかったのかなんて分からなかった。

高卒認定試験に合格できるのか…
大学へ進学できるのか…
その先に、自分が望む未来があるのか…

何一つ分からないまま、それでも自分で決めた道を歩き始めた。

あれから1年が経った今、雪音は白嶺大学の正門前に立っている。

「自分で決めた道、ちゃんと歩けた」

「これが正解かは、わからないけどね」

17歳の雪音が迷い、葛藤しながら導き出した答え。

それは決して、誰にとっても正しい答えではない。
それでも雪音にとっては、自分で選び、自分で歩いてきたからこそ辿り着くことのできた、一つの正解だった。

雪音は正門の向こうへ目を向ける。
新入生たちは、それぞれの新しい一歩を踏み出していた。

「うん、いこう」

雪音は、自分の足で大きな一歩を踏み出した。
これから、どのような大学生活が待っているのか分からない。

「すごい、楽しみだな」

「わたしのキャンパスライフが始まるね」

それでも、不安よりも期待の方が強かった。
これからも迷い、時には葛藤しながらも、17歳で選んだ道を信じ、雪音は前へ進んでいく。