秋の気配が少しずつ感じられるようになり、季節は9月から10月へ移り変わる。
高卒認定試験合格の余韻もほどほどに、雪音は9月も変わらず勉強を続けた。
白嶺大学教育学部教育心理学科。
雪音が目指しているステージ、その場所へと向かうために手を休めることはない。
予備校で講義を受け、帰ってからは講義ノートの復習。
参考書や過去問題集にも取り組み、理解を深めていく。
週に2回ほど、小夜や美玲と遊び、息抜きをする時間も作った。
勉強だけに集中するのではなく、小夜や美玲と過ごす時間を挟むことで心にも余裕が生まれ、机に向かったときの集中力も増していく。
そんな日々を繰り返しているうちに9月もあっという間に過ぎ、大学一般選抜に向けた2回目の模試が10月6日に行われた。
前回、6月8日に受けた模試から4か月。
その間に自分自身がどれだけ変わったのかを確かめる機会でもあった。
そして10月13日。
講義を終えた雪音は、予備校の講師から声を掛けられた。
「下久保さん、お時間大丈夫ですか?」
「はい。相談室ですね?」
「そうですね。では、行きましょう」
「はい」
雪音は講師に続いて相談室に入り、講師の向かい側に座る。
「これが、今回の結果です」
「はい。ありがとうございます」
講師から手渡された、結果に目を通す雪音。
第1志望 白嶺大学 教育学部(定員30)
【評価】
共通テスト:換算得点 746 / 満点 900 / 判定 A
二次・一般:評価偏差値 75.1 / 満点 600 /判定 A
総合:ポイント 90 / 判定 A
【順位】
第1志望者:1位 / 42人中
総志望者:1位 / 128人中
第2志望 青葉大学 教育学部(定員15)
【評価】
共通テスト:換算得点 763 / 満点 900 / 判定 A
二次・一般:評価偏差値 76.1 / 満点 600 /判定 A
総合:ポイント 90 / 判定 A
【順位】
第1志望者:1位 / 18人中
総志望者:1位 / 42人中
「下久保さんの日々の取り組み姿勢が、結果として現れていますね」
「ありがとうございます」
「11月に入ると、白嶺大学や他の大学も募集要項が公開されるので、必要書類を準備していきましょう」
「わかりました」
「出願の書類で不明点などあれば、お気軽に相談してくださいね」
「ありがとうございます。その際は、相談させていただきます」
「残りの期間もサポートしますので、無理せず頑張っていきましょう」
「はい。引き続きよろしくお願いします」
雪音は講師に頭を下げ、相談室をあとにした。
「小夜ちゃんと美玲ちゃん、待ちくたびれてるかな?」
予備校から、急いでいつものカフェに向かった。
カフェに着くと、窓際の席に小夜と美玲の姿はない。
「あれっ、いつもの席にいないね」
中に入ると、窓際とは反対方向の席から、手を振っている姿が見えた。
「小夜ちゃん、美玲ちゃん、遅くなってごめんね」
「大丈夫だよ。わたしと小夜は、モール寄ってからきたし」
「そうだよ、気にしなくて大丈夫だよ、雪音。わたしたち、雪音が終わる時間に合わせてきてるからさ」
「うん、ありがとう。小夜ちゃん、美玲ちゃん」
雪音は、リュックから模試の結果を出して、小夜と美玲に見せる。
「これ、今回の結果」
「おー、すごいね雪音。1位とかさすがだよ」
「わたしと美玲が大学行くときは、雪音から勉強教わらないとだね」
「小夜ちゃんと美玲ちゃんは、1年あとだもんね、大学受験」
「そうだよ。雪音の裏技的な方法は、よっぽど学力の自信ないと無理だからね」
「そうそう、雪音的裏技」
「小夜ちゃんと美玲ちゃんの家庭教師やるよ」
「雪音先生」
「美玲の家で、勉強会しよう」
「えっ、なんでわたしの家なわけ?」
「だって、お姉さんだし、身長高いでしょ」
「雪音先生の家でもいいじゃん?ねえ、雪音」
「雪音のとこは、稽古してたら邪魔になるでしょ?」
「わたしの家でも大丈夫だよ。稽古してる時の音楽も聞こえないしね」
「そっか、それなら、わたしと小夜で、雪音の家に行けばいいね」
「おばあちゃんに舞踊の稽古つけてもらったりしてさ、美玲が」
「なんで、わたし?」
「なんとなく」
「なんとなくって、なんだよー」
「美玲ちゃん、すらっとしてるし身長も大きいから、和服が似合いそうだよね」
「美玲の身長が生きるかもしれないね」
「わたしの身長って、そのためのものだったのか」
3人は、顔を見合わせて笑う。
「雪音は、白嶺行くんだよね」
「うん、そのつもりだけど」
「アパート借りるのかと思って」
「美玲が、その話ばっかりしてるんだよー」
「家から通うつもりだったけど」
「通えるけど、大変じゃない?」
「電車とバスで行こうと思ってるけど、免許取ったら車で行こうかなって」
「車いいね。わたしと小夜は、3年になってから教習所だけど、雪音は来年になれば通えるもんね」
「うん。合格して落ち着いてから、免許取りに行く予定だよ」
「雪音の助手席は、わたしのもんだ」
「なんで小夜のものなんだよ。そこは、お姉さんに譲りなさいよ」
「小夜ちゃん、美玲ちゃん、助手席は交代交代でね」
「雪音がそういうなら仕方ない」
「まーそうだね。わたしたちも大学考えなきゃだよね、美玲?」
「そうだね。雪音と同じとこ行こうかな」
「美玲が?」
「うん。雪音先輩とか言ってさ」
「じゃー、わたしも白嶺にしようかな」
「小夜ちゃんも美玲ちゃんも同じ大学にするの?」
「わたし、文学部を本当に考えてて、出版社行ければいいなって」
「小夜は、漫画好きだしね。悪くないかも」
「美玲ちゃんは、何学部?」
「わたし、簿記とか会計やってるでしょ。だから、経営学部入って、公認会計士目指すのもいいかなって考えてたんだ」
「小夜ちゃんも美玲ちゃんも、将来のことちゃんと考えているんだね。すごいと思う」
「3人とも同じ大学入れたらいいよね」
「うん、小夜と雪音と同じ大学ならいいね」
「わたし、先に入って待ってるね。雪音先輩って呼んでね」
「あはは。呼ぶ呼ぶ」
「そしたら、わたしと美玲におごってね。先輩だからさ」
「えーっ、先輩辞めます」
大学の話をしているうちに、3人の未来も少しずつ形になり始めていた。
12月に入ると、寒い日が続いていた。
日付は12月24日。今日は、少しだけ雪が舞っている。
一般選抜への準備は滞りなく進めることができた。
高卒認定試験合格後、大学入学共通テストへの出願を済ませ、11月には白嶺大学の募集要項をホームページで確認し、必要書類を揃えていく。
あとは年明けの共通テストに臨むだけとなった。
「雪音、雪降ってるから、寒くないようにして行きな」
「わかった、おばあちゃん」
厚手のコートを羽織り、予備校へ行く準備を整える。
「行ってくるね」
「気を付けてね」
午後から始まった講義は、共通テストを目前に控え、教室にはどこか張り詰めた空気が漂っていた。
雪音も講師の説明に耳を傾け、ノートへ要点を書き込んでいく。
あっという間に講義は終わり、外へ出る頃には、空はすっかり暗くなっていた。
「グループメッセージしなきゃだね」
雪音は、スマホを取り出し、メッセージを入力する。
ゆきんこ:終わったよ
さよぽん:おつかれー
ミレーヌ:おっつー
ゆきんこ:急いで帰るね
さよぽん:美玲と途中まで迎え行くね
ゆきんこ:わかった
予備校を出たところで、「雪音」と呼ぶ声が聞こえる。
「えっ?」
「おーい、雪音」
小夜と美玲が、予備校の側で待っていた。
「寒いのに待っててくれたの?」
「大丈夫、終わる時間に合わせてきたからさ」
「これもあるし」
美玲は、ポケットから使い捨てカイロを見せてきた。
「でも、寒かったでしょ」
雪音は、小夜と美玲の頬に手を当てる。
「ほら、少し冷えてるよ」
「大丈夫だって、早く帰ろう」
美玲が雪音の手を引く。
「美玲ちゃん、あったかいね」
「ふふふ、使い捨てカイロあるからね」
小夜も負けじと、雪音の手を引く。
「小夜ちゃんも、あったかい」
「ふふふ、美玲からもらったんだ」
「美玲ちゃん、準備万端だね」
3人は他愛もない話をしながら、雪音の家へ向かった。
雪が静かに舞う中、笑い声だけが冬の街に響いている。
「ただいまー、おばあちゃん」
「おかえり、雪音。小夜ちゃんも美玲ちゃんも、早く入りな」
「おじゃましまーす」
美玲に続いて、小夜も家の中へ。
「雪音、ご飯は作ってあるから、みんなで食べなさいね」
「ありがとう、おばあちゃん」
「すいません、いただきます」
美玲が、おばあちゃんに会釈をする。
「ありがとうございます」
小夜も頭を下げた。
「小夜ちゃんも美玲ちゃんも、ゆっくりしていってね」
おばあちゃんは、生徒さんとクリスマス会をやると言って、外へと出掛けて行った。
「雪音のおばあちゃん、出掛けちゃったね」
美玲が不思議そうな表情を浮かべた。
「うん。12月の始めくらいに、美玲ちゃんと小夜ちゃんがくるよって言ったら、24日は生徒さんと忘年会とクリスマス会を併せてやるんだって決めたみたい」
「おばあちゃんに、気を遣わせちゃったね」
小夜が申し訳なさそうな表情をしている。
「大丈夫だよ。わたし、誕生日って家でケーキ食べるくらいだから。それに、おばあちゃんの生徒さんが優先だよ」
「あーっ、そう言えば、中学の時も雪音の家で誕生日やったら、こんな感じだったね」
「そうかも、その時も、美玲は同じこと言ってたような気がする」
「わたし、記憶ない人みたいじゃん。でも、言ったような」
「小夜ちゃんも、申し訳なさそうな顔してたよね」
「2年ぶりに同じことしてるんだ、わたしと小夜は」
「うふふ、そうかもね」
「なに、この茶番」
小夜は額に手を当て、小さくため息をつく。
3人の笑い声が、家の中に響く。
「雪音、お誕生日おめでとう。はい、これ」
美玲から、綺麗に包装された小さな箱を手渡された。
「えっ、ありがとう」
「雪音、わたしからも、誕生日おめでとう」
小夜からは、可愛らしい紙袋を手渡された。
「ありがとう」
美玲と小夜は、嬉しそうにプレゼントを抱える雪音を見て微笑んでいた。
「開けてもいいの?」
美玲と小夜は、同時に首を縦に振る。
「美玲ちゃんのプレゼントは、えっ、なにこれ、可愛い」
小さな箱を開けると、猫をモチーフにしたネックレスが入っていた。
「美玲ちゃん、ありがとう」
小夜からもらった紙袋を開けると、可愛らしいポーチとハンカチが入っていた。
「小夜ちゃん、すごい可愛い。ありがとう」
「雪音が気に入ってくれたみたいでよかったね、美玲」
「そうだね。小夜と一緒に買いに行ったんだよ」
「そうなんだね、本当にありがとう。大事にするね」
美玲と小夜は、笑顔で頷いていた。
「そろそろかな、小夜ちゃんと美玲ちゃんも一緒に見て欲しくて」
スマホを取り出し、ネクリアを開く。
「近ネクで仲良かった友達がね、特別ライブするって言ってて」
秋のページを開くと『雪音っち限定ライブ』と表示される。
「これ、ユーザー指定限定配信だから、他の人は観れないんだって」
「そうなんだね。わたしも美玲もSNSとかやらないもんね」
「アカウントはあるけどね。ぜんぜん投稿なんてしてないね」
「そうなんだね。あっ、始まるみたい」
「雪音っち、聞こえてる?」
ゆきんこ:聞こえてるよ、秋ちゃん
「せーの、お誕生日おめでとう」
ゆきんこ:マリーちゃん、璃空ちゃん、倫ちゃんもいるんだ
「雪音の姿は見えないけど、きっと元気にやってるだろ」
ゆきんこ:璃空ちゃん、わたしは元気だよ
「ゆきー、マリーちゃんでーす。元気ですかー」
ゆきんこ:マリーちゃん、相変わらず元気いっぱいだね
「雪音頑張ってるみたいね、秋から聞いてるよ」
ゆきんこ:倫ちゃんも元気そうでよかった
「雪音っちの姿を見ることはできないけどー、これからも限定ライブ配信するぞー」
ゆきんこ:ありがとう、秋ちゃん
限定ライブ配信は、笑い声の絶えない時間になった。
雪音は、小夜や美玲と顔を見合わせながら笑う。
18歳の誕生日は、忘れることのできない、かけがえのない大切な思い出として、雪音の心に刻まれた。
高卒認定試験合格の余韻もほどほどに、雪音は9月も変わらず勉強を続けた。
白嶺大学教育学部教育心理学科。
雪音が目指しているステージ、その場所へと向かうために手を休めることはない。
予備校で講義を受け、帰ってからは講義ノートの復習。
参考書や過去問題集にも取り組み、理解を深めていく。
週に2回ほど、小夜や美玲と遊び、息抜きをする時間も作った。
勉強だけに集中するのではなく、小夜や美玲と過ごす時間を挟むことで心にも余裕が生まれ、机に向かったときの集中力も増していく。
そんな日々を繰り返しているうちに9月もあっという間に過ぎ、大学一般選抜に向けた2回目の模試が10月6日に行われた。
前回、6月8日に受けた模試から4か月。
その間に自分自身がどれだけ変わったのかを確かめる機会でもあった。
そして10月13日。
講義を終えた雪音は、予備校の講師から声を掛けられた。
「下久保さん、お時間大丈夫ですか?」
「はい。相談室ですね?」
「そうですね。では、行きましょう」
「はい」
雪音は講師に続いて相談室に入り、講師の向かい側に座る。
「これが、今回の結果です」
「はい。ありがとうございます」
講師から手渡された、結果に目を通す雪音。
第1志望 白嶺大学 教育学部(定員30)
【評価】
共通テスト:換算得点 746 / 満点 900 / 判定 A
二次・一般:評価偏差値 75.1 / 満点 600 /判定 A
総合:ポイント 90 / 判定 A
【順位】
第1志望者:1位 / 42人中
総志望者:1位 / 128人中
第2志望 青葉大学 教育学部(定員15)
【評価】
共通テスト:換算得点 763 / 満点 900 / 判定 A
二次・一般:評価偏差値 76.1 / 満点 600 /判定 A
総合:ポイント 90 / 判定 A
【順位】
第1志望者:1位 / 18人中
総志望者:1位 / 42人中
「下久保さんの日々の取り組み姿勢が、結果として現れていますね」
「ありがとうございます」
「11月に入ると、白嶺大学や他の大学も募集要項が公開されるので、必要書類を準備していきましょう」
「わかりました」
「出願の書類で不明点などあれば、お気軽に相談してくださいね」
「ありがとうございます。その際は、相談させていただきます」
「残りの期間もサポートしますので、無理せず頑張っていきましょう」
「はい。引き続きよろしくお願いします」
雪音は講師に頭を下げ、相談室をあとにした。
「小夜ちゃんと美玲ちゃん、待ちくたびれてるかな?」
予備校から、急いでいつものカフェに向かった。
カフェに着くと、窓際の席に小夜と美玲の姿はない。
「あれっ、いつもの席にいないね」
中に入ると、窓際とは反対方向の席から、手を振っている姿が見えた。
「小夜ちゃん、美玲ちゃん、遅くなってごめんね」
「大丈夫だよ。わたしと小夜は、モール寄ってからきたし」
「そうだよ、気にしなくて大丈夫だよ、雪音。わたしたち、雪音が終わる時間に合わせてきてるからさ」
「うん、ありがとう。小夜ちゃん、美玲ちゃん」
雪音は、リュックから模試の結果を出して、小夜と美玲に見せる。
「これ、今回の結果」
「おー、すごいね雪音。1位とかさすがだよ」
「わたしと美玲が大学行くときは、雪音から勉強教わらないとだね」
「小夜ちゃんと美玲ちゃんは、1年あとだもんね、大学受験」
「そうだよ。雪音の裏技的な方法は、よっぽど学力の自信ないと無理だからね」
「そうそう、雪音的裏技」
「小夜ちゃんと美玲ちゃんの家庭教師やるよ」
「雪音先生」
「美玲の家で、勉強会しよう」
「えっ、なんでわたしの家なわけ?」
「だって、お姉さんだし、身長高いでしょ」
「雪音先生の家でもいいじゃん?ねえ、雪音」
「雪音のとこは、稽古してたら邪魔になるでしょ?」
「わたしの家でも大丈夫だよ。稽古してる時の音楽も聞こえないしね」
「そっか、それなら、わたしと小夜で、雪音の家に行けばいいね」
「おばあちゃんに舞踊の稽古つけてもらったりしてさ、美玲が」
「なんで、わたし?」
「なんとなく」
「なんとなくって、なんだよー」
「美玲ちゃん、すらっとしてるし身長も大きいから、和服が似合いそうだよね」
「美玲の身長が生きるかもしれないね」
「わたしの身長って、そのためのものだったのか」
3人は、顔を見合わせて笑う。
「雪音は、白嶺行くんだよね」
「うん、そのつもりだけど」
「アパート借りるのかと思って」
「美玲が、その話ばっかりしてるんだよー」
「家から通うつもりだったけど」
「通えるけど、大変じゃない?」
「電車とバスで行こうと思ってるけど、免許取ったら車で行こうかなって」
「車いいね。わたしと小夜は、3年になってから教習所だけど、雪音は来年になれば通えるもんね」
「うん。合格して落ち着いてから、免許取りに行く予定だよ」
「雪音の助手席は、わたしのもんだ」
「なんで小夜のものなんだよ。そこは、お姉さんに譲りなさいよ」
「小夜ちゃん、美玲ちゃん、助手席は交代交代でね」
「雪音がそういうなら仕方ない」
「まーそうだね。わたしたちも大学考えなきゃだよね、美玲?」
「そうだね。雪音と同じとこ行こうかな」
「美玲が?」
「うん。雪音先輩とか言ってさ」
「じゃー、わたしも白嶺にしようかな」
「小夜ちゃんも美玲ちゃんも同じ大学にするの?」
「わたし、文学部を本当に考えてて、出版社行ければいいなって」
「小夜は、漫画好きだしね。悪くないかも」
「美玲ちゃんは、何学部?」
「わたし、簿記とか会計やってるでしょ。だから、経営学部入って、公認会計士目指すのもいいかなって考えてたんだ」
「小夜ちゃんも美玲ちゃんも、将来のことちゃんと考えているんだね。すごいと思う」
「3人とも同じ大学入れたらいいよね」
「うん、小夜と雪音と同じ大学ならいいね」
「わたし、先に入って待ってるね。雪音先輩って呼んでね」
「あはは。呼ぶ呼ぶ」
「そしたら、わたしと美玲におごってね。先輩だからさ」
「えーっ、先輩辞めます」
大学の話をしているうちに、3人の未来も少しずつ形になり始めていた。
12月に入ると、寒い日が続いていた。
日付は12月24日。今日は、少しだけ雪が舞っている。
一般選抜への準備は滞りなく進めることができた。
高卒認定試験合格後、大学入学共通テストへの出願を済ませ、11月には白嶺大学の募集要項をホームページで確認し、必要書類を揃えていく。
あとは年明けの共通テストに臨むだけとなった。
「雪音、雪降ってるから、寒くないようにして行きな」
「わかった、おばあちゃん」
厚手のコートを羽織り、予備校へ行く準備を整える。
「行ってくるね」
「気を付けてね」
午後から始まった講義は、共通テストを目前に控え、教室にはどこか張り詰めた空気が漂っていた。
雪音も講師の説明に耳を傾け、ノートへ要点を書き込んでいく。
あっという間に講義は終わり、外へ出る頃には、空はすっかり暗くなっていた。
「グループメッセージしなきゃだね」
雪音は、スマホを取り出し、メッセージを入力する。
ゆきんこ:終わったよ
さよぽん:おつかれー
ミレーヌ:おっつー
ゆきんこ:急いで帰るね
さよぽん:美玲と途中まで迎え行くね
ゆきんこ:わかった
予備校を出たところで、「雪音」と呼ぶ声が聞こえる。
「えっ?」
「おーい、雪音」
小夜と美玲が、予備校の側で待っていた。
「寒いのに待っててくれたの?」
「大丈夫、終わる時間に合わせてきたからさ」
「これもあるし」
美玲は、ポケットから使い捨てカイロを見せてきた。
「でも、寒かったでしょ」
雪音は、小夜と美玲の頬に手を当てる。
「ほら、少し冷えてるよ」
「大丈夫だって、早く帰ろう」
美玲が雪音の手を引く。
「美玲ちゃん、あったかいね」
「ふふふ、使い捨てカイロあるからね」
小夜も負けじと、雪音の手を引く。
「小夜ちゃんも、あったかい」
「ふふふ、美玲からもらったんだ」
「美玲ちゃん、準備万端だね」
3人は他愛もない話をしながら、雪音の家へ向かった。
雪が静かに舞う中、笑い声だけが冬の街に響いている。
「ただいまー、おばあちゃん」
「おかえり、雪音。小夜ちゃんも美玲ちゃんも、早く入りな」
「おじゃましまーす」
美玲に続いて、小夜も家の中へ。
「雪音、ご飯は作ってあるから、みんなで食べなさいね」
「ありがとう、おばあちゃん」
「すいません、いただきます」
美玲が、おばあちゃんに会釈をする。
「ありがとうございます」
小夜も頭を下げた。
「小夜ちゃんも美玲ちゃんも、ゆっくりしていってね」
おばあちゃんは、生徒さんとクリスマス会をやると言って、外へと出掛けて行った。
「雪音のおばあちゃん、出掛けちゃったね」
美玲が不思議そうな表情を浮かべた。
「うん。12月の始めくらいに、美玲ちゃんと小夜ちゃんがくるよって言ったら、24日は生徒さんと忘年会とクリスマス会を併せてやるんだって決めたみたい」
「おばあちゃんに、気を遣わせちゃったね」
小夜が申し訳なさそうな表情をしている。
「大丈夫だよ。わたし、誕生日って家でケーキ食べるくらいだから。それに、おばあちゃんの生徒さんが優先だよ」
「あーっ、そう言えば、中学の時も雪音の家で誕生日やったら、こんな感じだったね」
「そうかも、その時も、美玲は同じこと言ってたような気がする」
「わたし、記憶ない人みたいじゃん。でも、言ったような」
「小夜ちゃんも、申し訳なさそうな顔してたよね」
「2年ぶりに同じことしてるんだ、わたしと小夜は」
「うふふ、そうかもね」
「なに、この茶番」
小夜は額に手を当て、小さくため息をつく。
3人の笑い声が、家の中に響く。
「雪音、お誕生日おめでとう。はい、これ」
美玲から、綺麗に包装された小さな箱を手渡された。
「えっ、ありがとう」
「雪音、わたしからも、誕生日おめでとう」
小夜からは、可愛らしい紙袋を手渡された。
「ありがとう」
美玲と小夜は、嬉しそうにプレゼントを抱える雪音を見て微笑んでいた。
「開けてもいいの?」
美玲と小夜は、同時に首を縦に振る。
「美玲ちゃんのプレゼントは、えっ、なにこれ、可愛い」
小さな箱を開けると、猫をモチーフにしたネックレスが入っていた。
「美玲ちゃん、ありがとう」
小夜からもらった紙袋を開けると、可愛らしいポーチとハンカチが入っていた。
「小夜ちゃん、すごい可愛い。ありがとう」
「雪音が気に入ってくれたみたいでよかったね、美玲」
「そうだね。小夜と一緒に買いに行ったんだよ」
「そうなんだね、本当にありがとう。大事にするね」
美玲と小夜は、笑顔で頷いていた。
「そろそろかな、小夜ちゃんと美玲ちゃんも一緒に見て欲しくて」
スマホを取り出し、ネクリアを開く。
「近ネクで仲良かった友達がね、特別ライブするって言ってて」
秋のページを開くと『雪音っち限定ライブ』と表示される。
「これ、ユーザー指定限定配信だから、他の人は観れないんだって」
「そうなんだね。わたしも美玲もSNSとかやらないもんね」
「アカウントはあるけどね。ぜんぜん投稿なんてしてないね」
「そうなんだね。あっ、始まるみたい」
「雪音っち、聞こえてる?」
ゆきんこ:聞こえてるよ、秋ちゃん
「せーの、お誕生日おめでとう」
ゆきんこ:マリーちゃん、璃空ちゃん、倫ちゃんもいるんだ
「雪音の姿は見えないけど、きっと元気にやってるだろ」
ゆきんこ:璃空ちゃん、わたしは元気だよ
「ゆきー、マリーちゃんでーす。元気ですかー」
ゆきんこ:マリーちゃん、相変わらず元気いっぱいだね
「雪音頑張ってるみたいね、秋から聞いてるよ」
ゆきんこ:倫ちゃんも元気そうでよかった
「雪音っちの姿を見ることはできないけどー、これからも限定ライブ配信するぞー」
ゆきんこ:ありがとう、秋ちゃん
限定ライブ配信は、笑い声の絶えない時間になった。
雪音は、小夜や美玲と顔を見合わせながら笑う。
18歳の誕生日は、忘れることのできない、かけがえのない大切な思い出として、雪音の心に刻まれた。

