箱庭の飛べない小鳥たち

8月5日と6日の2日にわたり、高卒認定試験が開催。

雪音は、最寄りの教育センターにバスで到着した。
試験までは30分ほど時間があり、受付を済ませて会場内へ。

9:30から生物基礎、10:50から公共の試験を受ける。
公共の試験を終えると、11:40から1時間の昼休憩に入った。

昼食は、コンビニで買ってきたサンドイッチで軽く済ませる。
残りの時間は、午後からの科目のノートに目を通して過ごした。

昼休憩が終わり、12:40から国語、14:00から英語、15:20から数学、16:40から科学と人間生活。

すべての試験を終え、雪音は会場を後にした。

2日目は、1科目目が選択していない科目だったこともあり、1日目より1時間遅く会場入り。
受付を済ませ、残りの時間は科目ノートをチェックする。
10:50から地理が始まり、そのまま昼休憩に入った。
休憩中は、午後の2科目分だけを集中的に見直す。
12:40から情報、14:00から歴史を受ける。

9科目すべてを受験し終え、15:00には会場を後にした。
会場前でバスを待っている間に、メッセージアプリを開く。
小夜と美玲に高卒認定試験が無事に終了したことをグループメッセージで伝えた。

ゆきんこ:試験終わったよ

少しすると小夜からメッセージ。

さよぽん:試験おつかれー

ゆきんこ:ありがとう

さよぽん:カフェで待ち合わせしよう

ゆきんこ:わかった

ミレーヌ:おつかれ

続けて美玲からもメッセージが届いた。

ゆきんこ:ありがとう

ミレーヌ:カフェでね

ゆきんこ:うん

美玲は犬がOKを抱えているスタンプを送ってきた。

さよぽん:雪音が早そうだね

ミレーヌ:そうかも

さよぽん:16:00少し過ぎると思う

ゆきんこ:うん、待ってるから、ゆっくりきてね

小夜はうさぎのキャラクタースタンプを送る。

ミレーヌ:わたしも、少し遅くなるかも

雪音も猫のスタンプを返す。

15:40、カフェ近くのバス停に到着し、待ち合わせのカフェに入った。

「お昼食べてないから、なんか食べて待ってようかな」

ホットサンドとアイスミルクティーを注文した。
クーラーが効いて涼しい店内から、日差しの強い外を眺めていると、小夜が歩いてくるのが見える。

「あっ、小夜ちゃんだ。思ったより早かったね」

窓の外に向かって、ぼそっと呟いた。
小夜は、雪音の隣に腰を下ろす。

「早かったね」

「まーね、雪音を待たせないために急いだ」

「ゆっくりでも大丈夫だったよ」

「いいの、いいの。早く、雪音の顔見たかったし」

「うふふ。嬉しい」

会話の途中で窓の外に目をやると、美玲がハンディファンを顔に近づけたまま歩いてくる。

「美玲ちゃん、暑そうだね」

「メイク崩れないようにじゃない?」

「あっ、そうかもね」

「でしょ、でしょ」

美玲が店内に入ってきて、雪音と小夜の向かい側に座った。

「美玲ちゃん、早かったね」

「急いできたんだ。雪音の顔早く見たくてさ。っていうかさ、小夜は、なんで雪音の隣に座ってるの?」

「ふふっ。早い者勝ちです」

「わたしが隣に座ろうと思ってたのに」

「残念だったね、ミレーヌ」

「美玲ちゃん、暑かった?」

「あー、ハンディファンだよね?メイク崩れ防止だよ。汗かかないようにね」

「ねっ、言った通りでしょ、雪音」

「うん、すごいね小夜ちゃん」

2人は顔を見合わせて、くすくす笑った。

「えっ、なにがおかしいの?」

美玲は、少し困惑した表情を浮かべる。

「美玲がさ、いや、ミレーヌがさ」

「いや、なんで言い直した、小夜。さよぽん」

「ふふっ。ミレーヌのハンディファンは、暑いんじゃなくて、メイク崩れ防止じゃないかなって話をしてたの」

「あー、なるほどね。その通り、鋭いね」

「小夜ちゃんの観察眼がすごい。さよぽんだね」

「わざわざ、名前言い直すの流行ってんの?」

「美玲、ミレーヌ。いや、流行ってないよ」

「えっ、小夜の悪ふざけか」

「そうだよ、美玲ちゃん。いや、ミレーヌ」

「雪音、ゆきんこも言い直すのか」

「なに、この茶番」

3人は顔を見合わせると、堪えきれないように笑い出す。
それからもしばらく笑いが止まらず、3人の目には涙が浮かんでいた。

「忘れてたけど、雪音は試験どうだった?」

「そうだった、肝心なこと聞いてなかったー」

美玲の言葉に小夜も思い出したように続く。

「試験は…」

「し、試験は?」

「試験は?」

「なんと…」

「な、なんと?」

「なに、この茶番」

「自信あります」

美玲と小夜は、音を出さないように拍手で雪音を称えていた。

「さすが、雪音だね」

「ありがとう、美玲ちゃん」

「わたしは、心配してなかったけどね」

「ほんとかよ、小夜?」

「雪音はできる子だよ、美玲」

「そうだけどさ、雪音大丈夫かなってメッセージしてきてたよね、小夜はさ?」

「えっ、あっ、そうだっけ。なんのことだか、わかんないなー」

「わたしもだけど、小夜もすっごい心配してたよ。雪音が大丈夫なのはわかってるんだけどさ、でも心配はしちゃうよね」

「小夜ちゃん、美玲ちゃん、ありがとう」

「結果は、来月だったよね?」

「美玲お姉さんのおごりで、雪音のお祝いしなきゃだね」

「えっ、わたしのおごりなの?」

「美玲、お姉さんだし。身長が一番大きい」

「えっ、身長関係なくない?あー、でも、わたし5月で、小夜が10月で、雪音が12月だから、結果的にはお姉さんなんだよね」

「美玲お姉ちゃん」

「美玲お姉さん」

「よしよし、お姉さんに任せとけ」

3人はその後もしばらくカフェで話を続け、18:00頃に店を出た。

8月も、雪音は変わらず予備校に通いながら、大学受験に向けた勉強を続けていた。
週に2回ほど小夜や美玲と会い、カフェで話したり、ショッピングモールで遊んだり、3人で楽しく過ごす時間も増えていく。

家ではネクリアやネクスタを眺め、秋たちの近況をチェックし、いいねやギフトを送ったりしていた。
そんな日々を過ごすうちに、8月はあっという間に過ぎていく。

9月1日、文部科学省から高卒認定試験の結果が届いた。
軽く深呼吸をしてから、封筒を開ける。
中には、厚手の紙に印刷された合格証書が入っていた。

「よかった。うん、これで、また一歩進んだね」

雪音は、小さくガッツポーズをした。

「おばあちゃん、合格したよ」

「雪音、頑張ってたもんね。よかった、よかった」

「うん、あとは、願書を提出して来年の一般選抜だね」

「そうだね。無理しないように、頑張るんだよ」

「はーい」

雪音は、グループメッセージに、合格証書の画像を撮影して添付した。

ミレーヌ:おめでとう

さよぽん:やったね

ゆきんこ:ありがとう

さよぽん:お姉さん、お祝いの席お願いします

ミレーヌ:お姉さんに任せておきな

ゆきんこ:楽しみにしてる

「小夜ちゃんと美玲ちゃんがお祝いしてくれるって」

「あら、よかったね。おばあちゃんも雪音にお祝い用意しておかないとだね」

「いいよ。そんなの気にしないで」

「そうかい。でも、なんか考えておくよ」

「うん、ありがとう、おばあちゃん」

「おばあちゃんは、稽古場にでも行こうかね」

「わかった。わたしも、もう少ししたら出るね」

「気を付けて行ってきなさい」

「はーい」

おばあちゃんを見送ったあと、雪音も出かける準備を始めた。
いつものように予備校へ向かい、午後からの講義を受ける。
その日の講義が終わると、講師が声を掛けてきた。

「下久保さん、どうでしたか?」

「今日、結果が届いたので、先生にお伝えしようと思っていました」

「下久保さんなら、大丈夫だったとは思いますが」

「無事に合格証書が届きました」

「おめでとう、下久保さん。次の一般選抜に集中できますね」

「はい。頑張ります」

「何かあれば、いつでも相談してきてくださいね」

「ありがとうございます、先生」

「では、気を付けて帰ってくださいね」

講師に頭を下げて、予備校をあとにした。
真っすぐ帰宅し、夕食やお風呂を済ませ、部屋に戻る。
ネクリアを開いて、秋の配信を見始めた。

「秋ちゃんには伝えておきたいよね」

ゆきんこ:高卒認定合格したよ

「おー、ゆきんこさん、おめでとー」

ゆきんこ:ありがとう

「何か、お祝い考えておかないとだねー」

ゆきんこ:そんな、気にしないで

「お祝いは、豚まんかなー」

ゆきんこ:豚まん

「それじゃー、今日もワイルドハンティングやっていきまーす」

配信をしばらく眺めたあと、雪音はネクリアを閉じた。

「秋ちゃんには伝えたから、璃空ちゃんとかマリーちゃんにも伝わるね」

「少しだけ、勉強しておこうかな」

雪音はスマホを机に置いて、講義中に取ったノートと参考書、問題集を開いて自己学習を始める。
それから2時間ほど、雪音は集中して机に向かい続けた。

「寝る前にネクスタでも見ておこうかな」

「えっと、マリーちゃんは…えっ?」

最新のマリーの投稿を見ると、広げたノートに綺麗な装飾で『ゆき おめでとう』と書かれた画像。

「秋ちゃん、もう伝えてくれたんだ」

続けて璃空のネクスタを見ると、鉛筆だけで描いた雪音に似た絵に『おめでとう』と添えられていた。

「璃空ちゃん…」

倫のネクスタにも、『ゆきね おめでとう』と書かれた画像がアップされていた。

「倫ちゃん」

「みんな、本当にありがとう」

最後に秋のネクスタもチェックすると、豚まんの横にノート書かれた『ゆきねっち おめでとう』の文字。

「秋ちゃん、もう…」

雪音は、みんなから届いた温かい気持ちを胸に、静かに眠りについた。