2月3日、冬晴れの午後、昼休み。
午前の授業が終わり、昼休みを告げるチャイムが校内に鳴り響く。
1クラスの教室では、コンビニで買ってきた昼食を広げる生徒や、席を立って学食へ向かう生徒の姿が見られた。
「健剛は減量中だもんね…」
健剛は雪音の視線に気づき、肩をほぐすように軽くシャドーボクシングをすると、席を立った。
「ジム行くんだね」
雪音は健剛に小さく手を振る。
健剛も雪音に小さく手を振り返した。
「今日は、コンビニ寄ってないから、学食行こうかな」
「雪音、今日は学食?」
「うん、倫ちゃんも?」
「コンビニも飽きちゃうよね」
「そうだよね、いつも同じものばかり買っちゃうしね」
「そうそう、わかるわー」
「倫ちゃんと学食行くの先週ぶりだよね?」
「あー、そうだっけ。うん、そうかもね」
日ヶ久保倫は、身長158cmで細身ながら筋肉質。肩くらいの髪の長さで、前髪にラベンダーのメッシュが入っている。
「雪音は、今日はなに狙い?」
「先週は、ハンバーグセットだったから…」
「今日もハンバーグでしょー。雪音は、ハンバーグしか食べてないイメージある」
雪音と倫は顔を見合わせて笑う。
「倫ちゃんだって、かつ丼しか食べてないよ」
「えーっ、そうだっけ?色々食べてるつもりだったんだけどなー」
「そうなの?かつ丼と言えば、倫ちゃんだよ」
「わたしは、そんなにかつ丼食べてるのか」
廊下を歩きながら、楽しい笑い声が響く。
「倫ちゃんは、筋肉使うから、自然にかつ丼選んでると思う」
「あー、たぶん、わたし、かつ丼好きなだけだと思う」
「おーい、倫、雪音」
うしろから2人を呼ぶ声が聞こえた。
「学食行くなら、誘ってくれよな」
「璃空か」
「いやいや、璃空かじゃねーし」
「でも、璃空ちゃん寝てたよね」
「雪音、相変わらず辛辣」
東雲璃空は、身長163cm。金髪の髪をポニーテールにまとめ、黒いシュシュで束ねている。
「璃空は、美術室以外は寝てるからな」
「うんうん、授業中に璃空ちゃんが起きてるの見たことないもんね」
「だーっ、睡眠学習だっての。わたしは、寝てても赤点取ったことねーし」
「それでも、点数はギリギリだよな、璃空」
「ある意味すごいよ、璃空ちゃん」
3人は顔を見合わせて笑う。その笑い声に、近くの生徒がちらりと視線を向けた。
「倫はかつ丼で、雪音はハンバーグだろ?」
「璃空、お前エスパーなの?」
「いやいや、倫も雪音も基本的に同じメニューばっかだろ」
「倫ちゃんはかつ丼だけど、わたしはエビフライも食べるよ、璃空ちゃん」
「雪音、わたしのかつ丼イメージ強すぎない?」
「わたしが授業中に寝てるのと一緒で、倫はかつ丼食べてるイメージなんだよ。仕方ないな」
「うん、それでもかつ丼食べるよ、わたしは」
「倫ちゃん潔いね」
「そこまでくると清々しいな、倫」
3人は笑いながら学食の列へ向かった。
2月11日、薄暗くなり始めた夕方、放課後。
雪音は、倫と璃空の3人で、ショッピングエリアのバレンタイン特設コーナーにきていた。
そこへ、秋とマリーが合流する。
「雪音は、健剛用だよな」
「璃空ちゃん、そのつもりなんだけど…」
「健剛あれか、大会近いもんな」
「そうなんだよね」
「雪音っち、チョコじゃないやつにしよー」
「アメリカでは、男性から女性に花束送ったりするでーす」
「マリーちゃん、日本と海外は習慣が違うっていうもんね」
「イエス、告白するといいとも言われてまーす」
「マリっぺ、雪音っちは告白しないよ」
「ノー、残念でーす」
「倫ちゃん、璃空ちゃん、秋ちゃん、マリーちゃんは、どうするの?」
雪音の思いがけない質問に考え込む4人。
「あー、わたしは、雪音っち、マリっぺ、りんりん、璃空ちんの買うつもりだけどー」
「イエス、それいいですねー」
「あー、そうだな。わたしも、璃空や雪音、秋とマリーに買おうかな」
「チョコレート交換会かよ」
「わたしも、みんな分買おうかな」
5人で顔を見合わせて笑う。
「14日は、みんなで集まる感じになるな」
璃空の言葉にみんな頷く。
「あっ、わたしみんなの似顔絵描くよ」
「イエース、未来の画家から絵のプレゼント素敵でーす」
「おー、璃空ちんの絵かー、いいねー」
「授業中は寝てるけど、絵を描いてる時は起きてるもんな」
「うんうん、璃空ちゃん寝てばかり」
「だーっ、今も起きてるだろ」
その場は大きな笑いに包まれ、5人はお腹を抱えて笑った。
璃空はみんなの似顔絵を描くことを決め、雪音たち4人はそれぞれのチョコレートを購入。
「雪音っち、チョコじゃないやつどうするー?」
「なんか、お守りみたいなのがいいかなって」
「神社なんてないしなー」
「まーそうだよな」
「ゆき、キーホルダーとかどうですかー?」
マリーの言葉に「それだ」と4人が声を揃える。
「ボクシングみたいなキーホルダーとかありそうだよな」
「雪音っち、雑貨屋行こう」
「雑貨屋ならありそうだな」
「イエス、きっとありまーす」
「雑貨屋さんならありそうだね」
5人はバレンタイン特設コーナーをあとにし、雑貨店へ向かった。
「雪音っち、これなんていいんじゃない?」
「あっ、可愛いね」
「雪音、必勝って書いてるのもあるぞ」
「色々あるんだなー」
「オー、これプリティでーす」
雪音はボクシンググローブを模したストラップを手に取り、小さく微笑んだ。
「これにする」
4人も笑顔で頷き、5人はそのままレジへ向かった。
2月20日、雪がちらつく午後、休日。
雪音は、ショッピングエリアのカフェで窓の外を眺めながらミルクティを飲んでいる。
そこへ、健剛がやってきて、前の席に座った。
「雪音、待たせたか?」
「ぜんぜん、さっききたばかりだよ」
「待たせてないなら、よかった」
「来月は選抜本選だな」
「うん、健剛なら勝つと思ってたよ」
「そうか?俺は、これのお陰だと思ってる」
スマホに付けたボクシンググローブ型のストラップを、健剛は嬉しそうに揺らした。
「今年は優勝するからな」
「うん、応援してるよ」
「雪音、優勝したらさ…」
「優勝したら?」
「俺と付き合って欲しい」
「えっ…」
「急にこんなこと言ってごめん…」
健剛はグラスに入った水をぐいっと飲んだ。
「俺、雪音のことが好きなんだ」
「えっ…うそ…」
「本当に好きになったんだ」
「ありがとう…でも…」
「雪音の答えは、出さなくても大丈夫だ。ただ、俺が好きなことを伝えたかっただけだから」
「…うん」
「言ったからには頑張らないとだしな」
「うん」
「ごめんな、雪音」
「大丈夫だよ。好きって言われるのは嬉しいことだもん」
「ありがとな、雪音」
「うん」
「雪音が、俺のことをそういう対象としてみてないこともわかってるから」
「あっ…」
「でも、自分の気持ちを伝えたかった」
雪音は小さく頷いた。
「ただ、雪音がOKなら、考えて欲しい。でも、無理強いはしないから。ダメなら、断ってくれればいい」
「う…うん」
「これを糧に俺は、全国を制覇する」
「応援してるよ」
「優勝したら、その時に答えを聞くから、考えといて欲しい」
「わかった」
それから少しだけ他愛のない話をして、二人はカフェを出た。
雪音は部屋に戻ると、ベッドに腰掛けながらスマホを手に取る。
久我山秋(4クラス):雪音っち、おかえりー
下久保雪音(1クラス):ただいま、秋ちゃん
久我山秋(4クラス):美味しいもの食べてきたー?
下久保雪音(1クラス):食べてないよ、ミルクティ飲んだだけ
久我山秋(4クラス):そうなんだー
下久保雪音(1クラス):うん、ゲームしてた?
久我山秋(4クラス):あー、午前中はやってたよー
下久保雪音(1クラス):そうなんだ
久我山秋(4クラス):なんか雪音っち、元気なくない?
下久保雪音(1クラス):えっ、そうかな?
久我山秋(4クラス):なんかあったでしょー?
下久保雪音(1クラス):なにもないよ
久我山秋(4クラス):ほんとかなー
下久保雪音(1クラス):うん、ほんとだよ
久我山秋(4クラス):そっかー、なにもないならよかったー
下久保雪音(1クラス):心配してくれてありがとう、秋ちゃん
久我山秋(4クラス):なんかあったら言いなよー
下久保雪音(1クラス):うん、そうするね
2月28日、冷たい風が吹く午後、放課後。
月末は、授業とHRが終わると、翌月のクラス編成通知が届く。
「3月も1クラスだね」
スマホの通知を閉じると、倫と璃空が話しかけてきた。
「雪音、クラス変わった?」
「変わってないよ、倫ちゃんは?」
「わたしも同じ、1クラスのままー」
「璃空ちゃんは?」
「わたしも1クラス。寝てられるの1クラスだけだしな」
「いやいや、1クラスでも寝たらダメだろうが」
「ほんとだよ、璃空ちゃん」
「いや、でも、睡眠学習してるからいいんだって」
雪音と倫は両手を広げ、呆れたような表情を浮かべた。
「おい、お前ら呆れんな。傷つくわ」
「璃空が傷つくわけないだろー」
「うんうん、璃空ちゃんは傷つかない」
璃空は腕で顔を覆い泣いたふりをしながら、雪音と倫をちらっと見る。
「ふりすんな」
「泣いたふりでしょ、璃空ちゃん」
「くーっ、通用しないか」
「なんで、通用すると思ったんだ、璃空?」
「そうだー、そうだー」
「お前ら2人揃っていじめやがって」
3人の笑い声が、生徒が少なくなった教室に響く。
「寝起きだから、お腹空いたよなー」
「寝起きなの璃空だけだからな」
「そうだー、そうだー、璃空ちゃんだけだー」
「広場でも行こうか、秋たちも行ってるだろ」
「うん、秋ちゃんはマリーちゃんと行ってると思うよ」
「じゃー、行くか。璃空、雪音」
「おー、行くかー」
「行こう、行こうー」
3人は学校を出ると、ショッピングエリアの広場へ向かう。
そこには、すでに秋とマリーの姿があり、5人はそれぞれ好きなものを買いながら、放課後の時間を過ごした。
5人は住居エリアまで戻り、それぞれの部屋へと帰る。
雪音は部屋に入ると、制服を丁寧にハンガーにかけ、もこもこの部屋着に着替えた。
ベッドに寄りかかりスマホを見ていると、ネクコミの通知。
栗宮健剛(1クラス):雪音はクラス変わったか?
下久保雪音(1クラス):変わってないよ
栗宮健剛(1クラス):そっか、俺は明日から3クラス
下久保雪音(1クラス):クラス上がったんだね、おめでとう
栗宮健剛(1クラス):うん、ありがとう。でもな…
下久保雪音(1クラス):でも?
栗宮健剛(1クラス):いや、なんでもない
下久保雪音(1クラス):そうなの?
栗宮健剛(1クラス):来月は選抜本選に向けて調整しなきゃだな
下久保雪音(1クラス):うん、頑張ってね
栗宮健剛(1クラス):おう、またな
雪音は、またねと書かれたひよこのスタンプを送った。
雪音はネクコミを閉じ、スマホをテーブルに置く。
2月最後の夜は、静かに流れていた。
部屋着からブラウスに着替え、髪を整える。
20:00からの配信まで、あと少し。配信開始のボタンを押してネクリアを開始した。
午前の授業が終わり、昼休みを告げるチャイムが校内に鳴り響く。
1クラスの教室では、コンビニで買ってきた昼食を広げる生徒や、席を立って学食へ向かう生徒の姿が見られた。
「健剛は減量中だもんね…」
健剛は雪音の視線に気づき、肩をほぐすように軽くシャドーボクシングをすると、席を立った。
「ジム行くんだね」
雪音は健剛に小さく手を振る。
健剛も雪音に小さく手を振り返した。
「今日は、コンビニ寄ってないから、学食行こうかな」
「雪音、今日は学食?」
「うん、倫ちゃんも?」
「コンビニも飽きちゃうよね」
「そうだよね、いつも同じものばかり買っちゃうしね」
「そうそう、わかるわー」
「倫ちゃんと学食行くの先週ぶりだよね?」
「あー、そうだっけ。うん、そうかもね」
日ヶ久保倫は、身長158cmで細身ながら筋肉質。肩くらいの髪の長さで、前髪にラベンダーのメッシュが入っている。
「雪音は、今日はなに狙い?」
「先週は、ハンバーグセットだったから…」
「今日もハンバーグでしょー。雪音は、ハンバーグしか食べてないイメージある」
雪音と倫は顔を見合わせて笑う。
「倫ちゃんだって、かつ丼しか食べてないよ」
「えーっ、そうだっけ?色々食べてるつもりだったんだけどなー」
「そうなの?かつ丼と言えば、倫ちゃんだよ」
「わたしは、そんなにかつ丼食べてるのか」
廊下を歩きながら、楽しい笑い声が響く。
「倫ちゃんは、筋肉使うから、自然にかつ丼選んでると思う」
「あー、たぶん、わたし、かつ丼好きなだけだと思う」
「おーい、倫、雪音」
うしろから2人を呼ぶ声が聞こえた。
「学食行くなら、誘ってくれよな」
「璃空か」
「いやいや、璃空かじゃねーし」
「でも、璃空ちゃん寝てたよね」
「雪音、相変わらず辛辣」
東雲璃空は、身長163cm。金髪の髪をポニーテールにまとめ、黒いシュシュで束ねている。
「璃空は、美術室以外は寝てるからな」
「うんうん、授業中に璃空ちゃんが起きてるの見たことないもんね」
「だーっ、睡眠学習だっての。わたしは、寝てても赤点取ったことねーし」
「それでも、点数はギリギリだよな、璃空」
「ある意味すごいよ、璃空ちゃん」
3人は顔を見合わせて笑う。その笑い声に、近くの生徒がちらりと視線を向けた。
「倫はかつ丼で、雪音はハンバーグだろ?」
「璃空、お前エスパーなの?」
「いやいや、倫も雪音も基本的に同じメニューばっかだろ」
「倫ちゃんはかつ丼だけど、わたしはエビフライも食べるよ、璃空ちゃん」
「雪音、わたしのかつ丼イメージ強すぎない?」
「わたしが授業中に寝てるのと一緒で、倫はかつ丼食べてるイメージなんだよ。仕方ないな」
「うん、それでもかつ丼食べるよ、わたしは」
「倫ちゃん潔いね」
「そこまでくると清々しいな、倫」
3人は笑いながら学食の列へ向かった。
2月11日、薄暗くなり始めた夕方、放課後。
雪音は、倫と璃空の3人で、ショッピングエリアのバレンタイン特設コーナーにきていた。
そこへ、秋とマリーが合流する。
「雪音は、健剛用だよな」
「璃空ちゃん、そのつもりなんだけど…」
「健剛あれか、大会近いもんな」
「そうなんだよね」
「雪音っち、チョコじゃないやつにしよー」
「アメリカでは、男性から女性に花束送ったりするでーす」
「マリーちゃん、日本と海外は習慣が違うっていうもんね」
「イエス、告白するといいとも言われてまーす」
「マリっぺ、雪音っちは告白しないよ」
「ノー、残念でーす」
「倫ちゃん、璃空ちゃん、秋ちゃん、マリーちゃんは、どうするの?」
雪音の思いがけない質問に考え込む4人。
「あー、わたしは、雪音っち、マリっぺ、りんりん、璃空ちんの買うつもりだけどー」
「イエス、それいいですねー」
「あー、そうだな。わたしも、璃空や雪音、秋とマリーに買おうかな」
「チョコレート交換会かよ」
「わたしも、みんな分買おうかな」
5人で顔を見合わせて笑う。
「14日は、みんなで集まる感じになるな」
璃空の言葉にみんな頷く。
「あっ、わたしみんなの似顔絵描くよ」
「イエース、未来の画家から絵のプレゼント素敵でーす」
「おー、璃空ちんの絵かー、いいねー」
「授業中は寝てるけど、絵を描いてる時は起きてるもんな」
「うんうん、璃空ちゃん寝てばかり」
「だーっ、今も起きてるだろ」
その場は大きな笑いに包まれ、5人はお腹を抱えて笑った。
璃空はみんなの似顔絵を描くことを決め、雪音たち4人はそれぞれのチョコレートを購入。
「雪音っち、チョコじゃないやつどうするー?」
「なんか、お守りみたいなのがいいかなって」
「神社なんてないしなー」
「まーそうだよな」
「ゆき、キーホルダーとかどうですかー?」
マリーの言葉に「それだ」と4人が声を揃える。
「ボクシングみたいなキーホルダーとかありそうだよな」
「雪音っち、雑貨屋行こう」
「雑貨屋ならありそうだな」
「イエス、きっとありまーす」
「雑貨屋さんならありそうだね」
5人はバレンタイン特設コーナーをあとにし、雑貨店へ向かった。
「雪音っち、これなんていいんじゃない?」
「あっ、可愛いね」
「雪音、必勝って書いてるのもあるぞ」
「色々あるんだなー」
「オー、これプリティでーす」
雪音はボクシンググローブを模したストラップを手に取り、小さく微笑んだ。
「これにする」
4人も笑顔で頷き、5人はそのままレジへ向かった。
2月20日、雪がちらつく午後、休日。
雪音は、ショッピングエリアのカフェで窓の外を眺めながらミルクティを飲んでいる。
そこへ、健剛がやってきて、前の席に座った。
「雪音、待たせたか?」
「ぜんぜん、さっききたばかりだよ」
「待たせてないなら、よかった」
「来月は選抜本選だな」
「うん、健剛なら勝つと思ってたよ」
「そうか?俺は、これのお陰だと思ってる」
スマホに付けたボクシンググローブ型のストラップを、健剛は嬉しそうに揺らした。
「今年は優勝するからな」
「うん、応援してるよ」
「雪音、優勝したらさ…」
「優勝したら?」
「俺と付き合って欲しい」
「えっ…」
「急にこんなこと言ってごめん…」
健剛はグラスに入った水をぐいっと飲んだ。
「俺、雪音のことが好きなんだ」
「えっ…うそ…」
「本当に好きになったんだ」
「ありがとう…でも…」
「雪音の答えは、出さなくても大丈夫だ。ただ、俺が好きなことを伝えたかっただけだから」
「…うん」
「言ったからには頑張らないとだしな」
「うん」
「ごめんな、雪音」
「大丈夫だよ。好きって言われるのは嬉しいことだもん」
「ありがとな、雪音」
「うん」
「雪音が、俺のことをそういう対象としてみてないこともわかってるから」
「あっ…」
「でも、自分の気持ちを伝えたかった」
雪音は小さく頷いた。
「ただ、雪音がOKなら、考えて欲しい。でも、無理強いはしないから。ダメなら、断ってくれればいい」
「う…うん」
「これを糧に俺は、全国を制覇する」
「応援してるよ」
「優勝したら、その時に答えを聞くから、考えといて欲しい」
「わかった」
それから少しだけ他愛のない話をして、二人はカフェを出た。
雪音は部屋に戻ると、ベッドに腰掛けながらスマホを手に取る。
久我山秋(4クラス):雪音っち、おかえりー
下久保雪音(1クラス):ただいま、秋ちゃん
久我山秋(4クラス):美味しいもの食べてきたー?
下久保雪音(1クラス):食べてないよ、ミルクティ飲んだだけ
久我山秋(4クラス):そうなんだー
下久保雪音(1クラス):うん、ゲームしてた?
久我山秋(4クラス):あー、午前中はやってたよー
下久保雪音(1クラス):そうなんだ
久我山秋(4クラス):なんか雪音っち、元気なくない?
下久保雪音(1クラス):えっ、そうかな?
久我山秋(4クラス):なんかあったでしょー?
下久保雪音(1クラス):なにもないよ
久我山秋(4クラス):ほんとかなー
下久保雪音(1クラス):うん、ほんとだよ
久我山秋(4クラス):そっかー、なにもないならよかったー
下久保雪音(1クラス):心配してくれてありがとう、秋ちゃん
久我山秋(4クラス):なんかあったら言いなよー
下久保雪音(1クラス):うん、そうするね
2月28日、冷たい風が吹く午後、放課後。
月末は、授業とHRが終わると、翌月のクラス編成通知が届く。
「3月も1クラスだね」
スマホの通知を閉じると、倫と璃空が話しかけてきた。
「雪音、クラス変わった?」
「変わってないよ、倫ちゃんは?」
「わたしも同じ、1クラスのままー」
「璃空ちゃんは?」
「わたしも1クラス。寝てられるの1クラスだけだしな」
「いやいや、1クラスでも寝たらダメだろうが」
「ほんとだよ、璃空ちゃん」
「いや、でも、睡眠学習してるからいいんだって」
雪音と倫は両手を広げ、呆れたような表情を浮かべた。
「おい、お前ら呆れんな。傷つくわ」
「璃空が傷つくわけないだろー」
「うんうん、璃空ちゃんは傷つかない」
璃空は腕で顔を覆い泣いたふりをしながら、雪音と倫をちらっと見る。
「ふりすんな」
「泣いたふりでしょ、璃空ちゃん」
「くーっ、通用しないか」
「なんで、通用すると思ったんだ、璃空?」
「そうだー、そうだー」
「お前ら2人揃っていじめやがって」
3人の笑い声が、生徒が少なくなった教室に響く。
「寝起きだから、お腹空いたよなー」
「寝起きなの璃空だけだからな」
「そうだー、そうだー、璃空ちゃんだけだー」
「広場でも行こうか、秋たちも行ってるだろ」
「うん、秋ちゃんはマリーちゃんと行ってると思うよ」
「じゃー、行くか。璃空、雪音」
「おー、行くかー」
「行こう、行こうー」
3人は学校を出ると、ショッピングエリアの広場へ向かう。
そこには、すでに秋とマリーの姿があり、5人はそれぞれ好きなものを買いながら、放課後の時間を過ごした。
5人は住居エリアまで戻り、それぞれの部屋へと帰る。
雪音は部屋に入ると、制服を丁寧にハンガーにかけ、もこもこの部屋着に着替えた。
ベッドに寄りかかりスマホを見ていると、ネクコミの通知。
栗宮健剛(1クラス):雪音はクラス変わったか?
下久保雪音(1クラス):変わってないよ
栗宮健剛(1クラス):そっか、俺は明日から3クラス
下久保雪音(1クラス):クラス上がったんだね、おめでとう
栗宮健剛(1クラス):うん、ありがとう。でもな…
下久保雪音(1クラス):でも?
栗宮健剛(1クラス):いや、なんでもない
下久保雪音(1クラス):そうなの?
栗宮健剛(1クラス):来月は選抜本選に向けて調整しなきゃだな
下久保雪音(1クラス):うん、頑張ってね
栗宮健剛(1クラス):おう、またな
雪音は、またねと書かれたひよこのスタンプを送った。
雪音はネクコミを閉じ、スマホをテーブルに置く。
2月最後の夜は、静かに流れていた。
部屋着からブラウスに着替え、髪を整える。
20:00からの配信まで、あと少し。配信開始のボタンを押してネクリアを開始した。

