冷たい月と星天のクロノグラフ

「名前のことなんだけど」

「名前?」

「出版社のパーティで会った作家さんと『昴』というペンネームから星の話になって、俺の本名の『梶葉』は、七夕の時に星に願いを書く短冊として使われてことを聞いたんだ」

願いを――梶葉くんにぴったりな名前。

「そのひと、前に医者として国境なき医師団に所属して扮装地帯で医療活動をしていて、天津という名前のひとについて教えてくれた」

「それ――って……」

「うん。めずらしい名前だから、天津さんの亡くなった叔母さんじゃないかと思って、聞いてもらってたんだ。それで、ここへ来る前にメッセージをもらった」

国境なき医師団という言葉はこれまで何度か梶葉くんから聞いていた。
でもそれがこんなふうに繋がっているなんて思いもしなかった。

「天津さんの父親の妹で間違いなかったよ。今は結婚して名前は変わっていたけど」

「じゃあ、もう天津の名前は無くなっちゃったんだね」

この世界から天津の名前は消えてしまった。

「名前はなくなったけど、叔母さん本人とは連絡が取れるよ」

「えっ?」

「普段は電話もメールも使えないようなところにいるからエアメールで何とか連絡がとれるくらいでしかないらしいんだけど、数日だけ国際電話が通じるホテルに滞在するから話ができるって」

「ありがとう……本当に……ありがとう……いつも……いつも助けてもらってばかりだよね……」

「大袈裟」


梶葉くんには何度も助けられてきた。

過去のわたしも、現在のわたしも、これからやって来る過去からのわたしも、梶葉くんはわたしに希望をくれる。



連絡を取ると叔母は、わたしの近況を聞いて「そばにいられなくてごめんね」と言ってくれた。
その言葉だけでも十分だったのに、優秀な弁護士をつけてくれて、あいつに養子縁組を解消させた。

その後、わたしは叔母の正式な養女となり、月埜胡桃から遠夫胡桃となった。

未来で見た本に書かれた名前も、KTというイニシャルも、わたしだった。





END