冷たい月と星天のクロノグラフ

梶葉くんと今度こそ付き合い始めて数カ月後、栂池自然園へ行った。
高校生の頃の約束を梶葉くんは覚えていて、「サンカヨウの花を見に行こう」と誘ってくれた。

そこであのフォトスタンドの写真の相手が自分だったことを知った。花とふたりの手で形作られたハートだけだったのか、その理由も。


花を見つけて、あまりの嬉しさに足元を全く見ていなかったわたしは、何かに足を滑らせ盛大に尻餅をついた!
雨が降っていたから、泥になっていた土のせいでお尻は泥だらけ、傘は壊れ、頭からも雨を被った。
20歳を超えてこんなことになると思いもせず、一緒にいる梶葉くんも恥ずかしい思いをしたに違いないと謝った。

「ごめんね、一緒にいるの恥ずかしいよね?」

「全然。そんなこと俺が気にすると思う?」

そう言いながら差し出してくれた手に何の不安もなくつかまって立ち上がった。

まつ毛に水滴を感じていたし、前髪が額に張り付いている感触もあったから、鏡を見なくても酷い有様だってわかる。
そんなわたしに梶葉くんは自分のシャツを羽織ってくれた。

「写真撮りたいけど……この花を思いだす時、一緒にこけたことも思い出すのは悲しい……」

「俺は写真にふたりの愛を感じたい」

「それ――真顔でよくそんなこと言えるね?」

「作品の中の登場人物にはいつも言わせてるから、たまには自分で言いたい」

その言葉は前にも聞いたことがある。

結局、ふたりの手でサンカヨウの花をハートで囲った写真になった。

「また来年も来て、今度は花と一緒に写真を撮ろう」

「そんなに写真撮るの好きだった?」

「前は――そうでもなかった。けどLAに行って、天津さんとの写真がジャージ姿のやつしかないことを後悔したから」

「あの、頭が切れてるやつ」

ずっと大切に保存されていたよね。

「そう。形に残っていなくても、記憶の中に閉じ込めておけばいいと思ってたんだけど、それも失うことがあるかと思って」