冷たい月と星天のクロノグラフ

施設にいられるのは通常18歳までだけれど、高校に通っている場合は卒業までいられると決まっている。
高校卒業後は住む場所も働くところも自分でなんとかしなければいけない。
GWが終わる頃、周りが当然のように進学先に悩む中、わたしだけが就職先を探した。


そんなわたしに神様はプレゼントをくれた。


学校が終わった後、いつものようにバイト先のファミレスへ向かい、更衣室へ入ろうとしたところで店長に呼び止められた。

「月埜さんの知り合いだって言うお客さんが来てるよ」

「わたしの、ですか?」

「木嶋さんってひとなんだけど知り合い? もし違ってるなら適当に言って帰ってもらうけど」

その名前を忘れたことはない。

「知り合いです」

どうしてわたしがここで働いていることを知ったのかはわからないけれど、訪ねて来てくれたことが嬉しかった。
バイトの時間までもう少しだけ余裕があったから、店長に言われた席へ急いだ。


ソファ席に座っていた木嶋さんに後ろから「木嶋さん」と声をかけたると、身を乗り出すようにして振り向いたのは、里穂さんだった。

「里穂さん?」

「お久しぶり」

「木嶋って――」

里穂さんは「ふっ」と笑って左手を目の前でひらひらさせた。

「おめでとうございます」

「ありがとう。色々話したいことがあるんだけど、バイトは何時まで?」

「8時までです」

「ん。じゃあそれまで待ってる」

「はい」


木嶋と言われて、てっきり木嶋さんだと思っていたから、まさか里穂さんだとは思ってもみなかった。
わたしとはもう会わないと言われていたから、会いに来てくれただけで嬉しい。

それに里穂さんはセミロングのきれいな黒髪だった。