冷たい月と星天のクロノグラフ


「梶葉くん、わたし……8年前の今日……義父に……襲われかけた……それで……逃げるために……義父を刺した……」

この手で人を傷つけた。
自分のしたことで、他人から赤い血が流れるのを見た。

「……天津さん……」

「……逃げて……逃げて……それで階段から落ちて……」

「もう、いいよ」

「意識が遠のくまで、最後に聞いたGReeeeNの『あの日のオレンジ』が頭の中に流れてたの……」

そして、最後に梶葉くんのことを思った。

梶葉くんに会いたい――って。

だから、あの交差点にいたんだ。
あそこに梶葉くんがいたから。


これまで口には出さなかったけれど、心の中でずっと思っていたことを告げた。

「梶葉くん……わたしはもう……死んでる」

「そんなわけない! 天津さんは生きてる! 生きてもう一度俺に会うんだよ」

わたしの額に、トンっと梶葉くんの額が触れた。
両手で梶葉くんの頬を包み込むように触れると、それを梶葉くんの手がしっかりと握った。

「梶葉くんに会えて良かった」


自分の指が、腕が、からだが、だんだんと透けていく。


ふたりが同じ歳でいる時に、好きだと伝えれば良かった。


「ありがとう。梶葉くんと過ごせて、すっごく楽しかった!」


――消えてしまう――


神様、わたしを赦してください。


自分の輪郭が無くなっていく。


さよならを言う代わりに、梶葉くんの唇に自分の唇を押し当てた。
ヘタクソなキスだった。
でもこれはわたしにとって初めてのことで……最後だから……


「待ってる」


最後にそう聞こえた気がした。



生きたい。

死にたくない。

生きて、もう一度梶葉くんに会いたい……


例え、梶葉くんには他に愛するひとがいても――