冷たい月と星天のクロノグラフ

ガチャと言う音がして、いきなり開いたドアにびくりとした。
これまでこんなことは一度もなかった。

ドアに背を向けていたから。ゆっくりと振り向くと、義父は部屋を見渡していて、最後にねっとりした視線でわたしを捉えた。

「お母さんがいなくなって寂しいだろ? お互いに慰め合おうじゃないか」

その言葉の意味することに、じわりとからだが冷たくなっていく。
義父はドアを塞ぐように立っている。ここは5階で窓からは逃げられない。

「胡桃はもう男を知っているのか?」

ずっとチカチカと点滅していた信号が、赤に変わった瞬間だった。

ベッドから降りようと背を向けたところで足首を掴まれた。
倒れ込んだところを覆い被さろうとしてきたので思いっきり蹴った。義父が怯んだところでベッドから降りて、向かい合うような形になった。

「今のは痛かったな」

そう言いながらも、嫌な笑いを顔に浮かべて近づいて来る。


自分から命を絶った人間は天国へは行けないと子供の頃に祖母から教わった。
お母さんはお父さんが亡くなった後も、ずっと頑張ってわたしを育ててくれたから、絶対に天国にいる。

でも、逃げる場所は一つしかない。
こんなやつに穢されるくらいなら――

親不孝なわたしは二度と、お父さんにもお母さんに会えない選択をしようと、窓枠に足をかけた。


でも、出来なかった。