冷たい月と星天のクロノグラフ

「玉ねぎはわたしがやる」

「んー? じゃあ、任せる」

皮を剥いた玉ねぎに包丁を入れたところで、ツンっと目に刺激を感じた。

「泣くなよ」

柔らかい笑みを浮かべる梶葉くんを見て、あふれかけていた涙が崩壊した。

「玉ねぎ咥えろ。昔、ばぁちゃんが言ってたんだ。玉ねぎ切る時は一切れ加えてたら涙が出ないって」

「もぉ……遅いよぉ……」

それに、この涙は玉ねぎを切ったから出ているわけじゃない。
顔を梶葉くんのシャツに押し当てて、ぐりぐりと涙を拭いていると、頭の上に梶葉くんの顎がのっかった。

「片手に玉ねぎ、片手に包丁で、俺の服で涙を拭く絵面ってシュールじゃね?」

「著作権があるので使用不可でお願いします」

「生憎こっちの両手もきれいじゃないから」

ドラマのワンシーンみたいに、ぎゅっと抱きしめられたわけじゃない。
さっきまで頭の上にあった重みが、わたしの肩へと移動しただけで、梶葉くんの少し長めの髪の毛が、耳や首元に柔らかい感触を与える。
ふたりの両手はお互いを抱きしめていいものじゃない。

「もう泣かなくていい」

泣かなくていいと言われたら、人間泣くんだよ。
わかってないね。

「間違えた。泣きたいだけ泣け」

「梶葉くんのばかっ!」


声を出して泣いた。