冷たい月と星天のクロノグラフ

梶葉くんは美味しいものを食べに行こうと言ってくれたけど、「夜ご飯は家でカレーにしよう」と言ったのはわたしだった。
理由は、彼女が旅行へ行く前から冷蔵庫に入っているにんじんと、段ボールの中から見つけた、小さな芽を出したじゃがいもを消費するため。

梶葉くんとふたりでキッチンの作業スペースに並び、野菜の皮を剥いていく。

「にんじんはピーラーなんだけど、じゃがいもは――」

「包丁だろ?」

「どうしてわかったの? じゃがいもは包丁の方が断然、皮を剥きやすいと思うんだよね。具は? ごろごろ派? それとも小さい派?」

「そんな派閥があるのは知らなかった。ごろごろ派」

「……彼女さんは?」

「同じ」

「うちはお母さんが料理担当で、仕事から帰って来て作り始めるから、少しでも早く野菜が煮えるように具材は小さめだった。カレーもシチューも、肉じゃがも」

「なぁ、カレーもシチューも肉じゃがも、使う野菜は一緒って知ってた?」

「そんなの知ってるよ」

「けど、鍋の中でそれぞれ別の料理に変わるんだ。すごいよな」


お母さんと亡くなったお父さんとわたし。
お母さんと義父とわたし。
同じ家に3人で暮らしていたけれど……その関係は全く異なっていた。

お父さんが亡くなった後、お母さんとふたりで助け合ってやっていくんだとばかり思っていた。
だから、お母さんから「紹介したいひとがいる」と言われた時、お母さんはわたしとの生活だけでは足らなくて、他に望む人生があったんだとショックを受けた。
でも、だからと言ってそんな子供じみた理由でお母さんの再婚に反対したりしない。
すんなりと相手のひとを義父として受け入れた。

でも……それは間違いだった。
あいつはお母さんを愛していたのではなく……家の中にいる赤の他人の男でしかなかった。