冷たい月と星天のクロノグラフ

梶葉くんが頼んでくれて、来週から同じ作家仲間さんの家のお手伝いさんとして住み込みで働かせてもらうことになった。
彼女が明日旅行から帰って来る前に、わたしは跡を残さないようにこのマンションを出ていく。

働かせてもらう日までにはまだ少し日にちがあるから、それまではホテル住まいで、それも梶葉くんが手配してくれた。

高3になる前に未来へ来てしまったからわたしは高校中退になるし、身分を証明するものもない。
それでもわたしが雇ってもらえるのは、梶葉くんという保証人がいてくれるから。


「今日さぁ、大学の卒業論文なんかが入ってる段ボールを整理してたら、何が出て来たと思う? 聞いたらびっくりするよ」

「わかんないよ。何?」

「ちょい芽が出たじゃがいも」

「じゃがいもって、あの食べ物の?」

「そ。あれは男爵だね。しかも急いで食べた方がいい感じのやつ」

芽が出たじゃがいもという、それだけのことに笑った。
わたしが笑うと、梶葉くんも笑った。
あまりにもくだらないことに笑い過ぎて、少しばかり涙が出た。