冷たい月と星天のクロノグラフ

名前も何も知らないひとを探すというのは難しい。
記憶の中の顔しか頼りにできるものはなく、男性と会った場所を何日もうろうろした。

少しでも早く男性に話を聞きたかったから、授業が終わると図書館へは行かず、男性を探した。

もし梶葉くんと図書室で会う約束をしていたのなら、「用が出来てしばらく図書室へは行けない」と言えたのだろうけど、そうではなかったから何も言わなかった。
例え聞かれても、本当のことなんて言えない。
梶葉くんの顔を真っ直ぐに見ることが出来なくて、ホームルームが終わると逃げるよう学校を出た。


家ではあいつが、あの夜のことなんて何もなかったかのように振る舞うから、家へいるのも嫌だった。
特に、お母さんが夜勤の日は怖くて怖くて仕方なかった。
部屋に鍵があれば少しはましだったのに、わたしの部屋には鍵がなかったから、少しの音でびくりとして
夜も眠れない。

相変わらず、お母さんがいる時はお母さんが優先で、そんな姿を見ていると、あの夜のことは悪い夢を見たんじゃなかとさえ思える。でも、そうじゃないことをわたしは知ってしまった。


3週間ほどして、ようやく金髪の男性と会えた時は泣きそうだった。

「すみません、わたしのことを覚えてますか?」

突然声をかけたわたしに男性は一瞬眉を顰めたけれど、すぐに気付いたのか「ああ……」と低い声で返事した。

「お願いします。あの時、わたしに言ったことの意味を教えてもらえませんか?」

「……あんた、あいつとどういう関係?」

「あのひとは……義父……です」

「はっ」

男性は不愉快そうな声をあげたけれど、次には「大丈夫なのか?」と、心配そうな顔をした。

やっぱりこのひとは何か知っている。

「知ってることを教えてください」

「オレは木嶋耀司。あんたは?」

「月埜胡桃」

「義父って、マジなんだな……オレが話すより、直接聞いた方がいいかもな。電話番号教えて。連絡する」

名前も知らないひとなのに、あいつよりもよっぽど信用できる気がして番号を教えた。


木嶋さんから電話があったのはその日の夜で、木嶋さんとその彼女の里穂さんと3人で会うことになった。