冷たい月と星天のクロノグラフ

「マジで? それで顔認証通らなかったの?」

声がしたかと思ったら、隣にドサっと勢いよく黒いスクールバッグが置かれた。
持ち主は茶色いジャケットにチェックのスカートの女の子で、手にアイスのカップを持っている。

「5年も前の写真だと顔違ってるよねー」

「前は一重だったしね。学生証も見せたけど、これも顔違うって。ライブで力入れたのもあってだいぶ盛ってたしね」

その隣の子も同じ服装だったので、きっとどこかの学校の制服。

「それで会場に入れなかったの?」

「念のためにパスポート持って行ってたの。それでマイナンバーカードと学生証とパスポートの3つを合わせてようやくいけた」

「やばっ」

ふたりとも同じくらいの年だと思うのだけれど、わたしの周りでマイナンバーカードを持ってるひとは誰もいない。でもこの子達は持ってるのが当然とばかりに話をしている。


ライブの顔認証って何だろう?


「じゃあさ、病院も暗証番号?」

「顔認証はムリ」

「ウケる」

話している内容がちっともわからなくて、まるで異世界にいるみたい。

「――ってかさ、何で令和とか必要? 全部西暦で良くない?」


レイワ?


「わかる。今何年だった?ってなるよねー」

「お姉ちゃんがさ、国家試験の申込みするのに、令和元年卒業って書いたら、令和は5月からだから、卒業年は平成31年だって書き直されて、ピンポイントでそうくる?って感じ」


平成31年?


「今日なんて学校で日付書くのに、令和何年?ってなって、令和んとこ線で消して2026年って書いたわー」


2026年?


心臓がばくばくと大きくなっていく。

女の子達はその後もアイスを食べ終わるまで学校の話やバイトのをしていたけれど、もう頭には入ってこなかった。