冷たい月と星天のクロノグラフ

マンションにつく頃にはすっかり夜になっていて、梶葉くんの1日をこんなことに使わせたことに申し訳ない思いでいっぱいだった。

「ごめんね」

「何が?」

「いろいろ、全部」

「明日、拭き掃除手伝って。それでチャラ」

どこまでもどこまでも優しい。優しすぎて泣きたくなるよ。

「……向こうへ行ってから、慣れないことばかりでいっぱいいっぱいだった。言葉は何とかなるかと思ってたんだけど、普段話すのと、授業を全部英語で受けるのとは全然違っててかなり凹んだ。同級生の話にもついていけないし、何より考え方が違う。日本だと目上には敬語とかあるけど、向こうは年上にも年下にもyouなんだ。youから始めて自分の意見を伝える」

それは、梶葉くんがLAに行ってからの話で、わたしはそれを黙って聞いていた。

「自分のことに精一杯で天津さんのことを考える余裕がなかった。逆にそれで失恋から立ち直ったのかもしれないけど。とにかく、5年間は自分のことで精一杯だったんだ。ごめん」

梶葉くんが謝ることは何一つないのに。

「だから、今は力になりたい」

「ありがとう……わたし……」

「先にお風呂へどうぞ。さっき沸いたって音楽が聞こえた」

「いいの?」

「どうぞ。俺は今日買った本を少し読みたいから」

「うん、わかった」