冷たい月と星天のクロノグラフ

電車を乗り継いで、3時間かけて高校へたどり着いたのに、そこにはわたしの記憶に残っているものは何一つなかった。

門に閉ざされた校舎は、通っていた頃とは比べ物にならないくらいきれいで、一目で建て替えられたのだとわかる。

制服を着てきたら中に入れるかもしれないと思い持って来ていたのだけれど、こんなの役にたたないこともわかった。
セーラー服姿の生徒がいない。
春休みで元々生徒が少ないのだけれど、みんなブレザーにチェックのスカートを着ている。
制服が変わったことはネットに出ていたけれど、在校生はどちらでも着ていいことになっていたから、セーラー服の子もいるかと思ったのに一人も見当たらない。

あきらめて次の場所へ向かった。


この街は狭くて、遊ぶような場所は一つしかない。
校舎の周りを一周して、何も記憶に残っていないことを確認してから駅へ向かった。


バスに乗ると、同じ年くらいの子達が数人乗っていて、降りる場所が同じだったので、少しだけ後をついて行った。
思った通り、お店の立ち並ぶ中心地へと行くことが出来た。

ここでもどこか知っている場所がないか探したけれど、カプセルトイの専門店や薬局がやけに目立つくらいで何も覚えていない。
せめて金髪の男性と会った場所の名前でも思い出せたら良かったのに、目につく店は新しく出来たものばかりのようで、やっぱり何も思い出せない。

どうしてだか梶葉くんの存在がないと、過去の映像も声も頭に浮かばない。

ビルとビルの間に見つけた公園の石垣に座って途方に暮れた。

ここまで来れば何か思い出すと思ったのに。
せめて自分は援交なんてしていなかったと思いたかった。

真新しいスニーカーを眺めたままどのくらいそこに座っていたのかわからない。

スマホを返さないといけないから、梶葉くんのマンションまで戻らないといけないのだけれど、足が動かない。

その時、目の前にペットボトルが差し出された。

「どうせ何も食べてないんだろ?」

見上げた先にあった顔に、目の奥が熱くなった。

「どうしてここにいるってわかったの?」

「スマホを紛失した時用にセキュリティソフトを入れてるから。GPSで居場所がわかる」

「そっか……」

「天津さんが住んでた場所へ連れてってあげるよ。多分見ても何も思い出せないと思うけど」