冷たい月と星天のクロノグラフ

お店を出たタイミングで、梶葉くんに電話がかかってきたので、半歩ほど距離をとったところを、後ろから歩いて来ていたひとと軽くぶつかった。
ぶつかったのはカップルの女性の方。女性の方は明るい茶髪で、男性の方は金髪だった。

「すみません」

謝りながら視線が男性の金髪に向かう。


――援交とかやってねーで、金が欲しいならマジメに働けよ!――


派手な服を着た金髪の男性が……わたしに向かって怒っている。


援交?

わたしが?

わたしは……援交してた……の?


これまでに思い出したことと梶葉くんから聞いた話を繋ぎ合わせると、梶葉くんを避けるようになったのは、金髪の男性と付き合うようになったから。
怒っているのは、多分そのひとだから、金髪の男性に脅されて援交していたわけじゃない。
わたしが、自分から進んで援交を――
「サイッテー」と女の子がわたしに向かって言ったのも、そんなわたしに怒って……?



「ごめん、今日は電話ばっかで。帰ろうか」

「う……ん……」

「大丈夫? どこか痛いとか?」

「違う。食べすぎたと反省してたとこ」

梶葉くんの顔を見ることが出来ない。

「天津さんにはもっと他に反省することがあるよね?」

その言葉に心臓がどくどくと痛いくらい早くなっていく。


梶葉くんは今のわたしより、わたしのことを知っている。
わたしが援交をしてたことも知っている?


「反省……?」

「胸に手を置いて考えて」

金魚みたいに口をパクパクさせることしか出来なくなった。
心臓の音がさっきよりうるさくなって、梶葉くんに聞かれてしまうんじゃないかと不安になった。

「わたし……」


……どうしよう……


「さりげに俺の皿にオリーブ入れた」

「え? オリーブが入ってた?」

「小さいのが」

「ごめん」

「素直に謝られたら俺がわがままいてるみたいじゃん」

「ごめんねー。ちーっちゃいオリーブもダメだったんだねぇー」

「もういい、黙れっ」


梶葉くんにだけは知られたくない。嫌われたくない。