冷たい月と星天のクロノグラフ

そんなわけない。
わたしは梶葉くんが好きだった。
何かの間違いだと言いたいけれど、否定できるだけの記憶がない。
「どうして?」という疑問ばかりが積もっていく。


「でも……たまたま知り合いと会ってただけとか……」

「うーん……そう思いたかったけど、俺が見たのはバレンタインの日で、天津さんはかわいい袋をそいつに渡してた」

「誰……なんだろう……」

「さすがにそこまでは俺も知らない。もう昔のことだよ」

高2のバレンタインは、わたしにとってたった数ヶ月前のことだけれど、梶葉くんにとっては8年も前のこと。

「今日は天津さんのおかげでストーカー問題が解決したから助かった。ストーカーの対象が俺じゃなくて、俺の書いた作品の中の登場人物だなんて思ってもみなかったよ」



――対象がちげーんだよ!――



「えっ?」

「どうかした?」

「ううん。何でもない」


誰の声? わたしに向かって怒ってたんだよね?
でも、どうして怒ってるんだろう?


「ストーカー問題が解決したお祝いに美味しいイタリアンに連れてってあげよう」

「い、いいよぉ」

「実は俺が食べたい。だから付き合ってよ」

まるで自分がそうしたいみたいに言うけど、相手に気を遣わせないための言い方だと知ってるよ。

「しようがないなー。付き合ってあげるよ」

そして、わたしはそれに可愛げのない返事をする。


梶葉くんといると隙間だらけだった記憶がどんどん埋まっていく。
このまま隙間もないくらいいっぱいになればいいのに。