冷たい月と星天のクロノグラフ

梶葉くんの頭の中は彼女のことでいっぱいになって、もうわたしなんて視界に入っていない。

人は何かを思い出す時、顔や頭を触り無意識に感情の再体験をする、と教えてくれたのは梶葉くんだった。
その通り、首の後ろを触りながら視線を下に向けた梶葉くんは、口元をほころばせている。

「彼女に会った時、この出会いを無駄にはしないって思ったんだ」


それは……一目惚れだったってこと?
初めて会ったひとにそんなに強く惹かれたの?


「とにかく必死だった。ここで終わりにしたら絶対に後悔すると思って。押しまくったって言うか……高校の時と比べて大人になった気がしてたけど、今思えば、全然進歩してなかった。彼女はそんな俺に呆れたんじゃないかと思う。いや……絆されたのかも」

「そんなに必死だったの?」

「もう離したくないと思ったから」

梶葉くんからは彼女への愛情があふれている。

「そこまで大好きな彼女さんの写真見たいなー。見せてよ」

段ボールの中にアルバムのようなものはなかった。
唯一あったのはサンカヨウを撮った写真だけ。

もしかしたらわたしが貸してもらっているスマホの中にあるのかもしれないけれど、それを勝手に見るのはルール違反だと思うから見ていない。そもそもスマホはずっとキッチンのカウンターに置いたままにしている。

「ないんだ」

「見せたくなくてそんなこと言ってるの?」

「天津さんに嘘はつかないって。どうしてだかタイミングが悪くて」

すごく、変な理由。