冷たい月と星天のクロノグラフ

「悪い冗談としか思えない……」

去っていく女性の後ろ姿を見ながら梶葉くんがポツリと呟いた。

「ストーカーって、本当だったんだね」

「天津さんに嘘なんてつかないよ」


その言葉が真実なら、聞きたいことがある。


「シリーズの続きを考えないといけなくなったなぁ……」

「勝手に口出ししたこと怒ってる?」

伺うように顔を覗き込むと、梶葉くんはわたしを見て微笑んだ。

「さっきの子、最初はマンションの周りをうろうろしているだけだったのが、玄関のドアを開けたらすぐ目の前に立ってたりするようになって。危害を被ったわけではなかったけど、彼女に敵意を剥き出しだったから、何かあったらと思うと怖くなったんだ。それで引越しを早めた」

梶葉くんの頭の中は自分のことより彼女の心配ばかり。

「これまでもそうだったから、サイン会には絶対来ると確信してた。だからその間に業者へ頼んで急いで荷物をまとめてもらった。普通はどこに何が入ってたかチェックしながら荷物をまとめるところを、そこはどうでもいいからとにかく急いでくれと頼んだから、段ボールの中身がぐちゃぐちゃだったんだ」

それが段ボールに書かれた言葉と中身が一致していなかった理由。
決して引越し業者が杜撰だったわけではなかったんだ。

「解決して良かったね」

「天津さんのおかげ」


聞くなら今しかない。


「彼女さんとは仲良いの?」

「彼女? うん、仲良い方だと思うよ。それなりに長く付き合ってるし」

「いつから付き合ってるの?」


その顔を見て、自分の過ちに気がついた。


「23の頃からだから、もう2年くらいになる。ずっと俺の方が想いが強くて……ちょっとドン引きされてるかもしれない」


聞くんじゃなかった。