冷たい月と星天のクロノグラフ

クロワッサンを袋から出している横で、コーヒーを淹れていた梶葉くんに聞かれた。

「俺が帰って来たのも気が付かないくらい、また悩んでたんだ?」

「う……ん……」

「話してみてよ」

「もし……このままここで生きていかないといけないんだったら、仕事を探さないといけないと思って。でもわたしに出来ることなんてあるのかなぁ、って……」

「前に、住み込みで働いてくれるお手伝いさんを探してる作家さんがいたんだけど、そういうのは興味ある? そのひと女性だから安心だよ」

「お願いっ! 聞いてみて!」

「いいよ」

梶葉くんはぽんっと、わたしの頭にふれると「食べよ」と言って、ホットミルクとコーヒーをテーブルへ運んだ。

「買い物に行かないと、冷蔵庫が空っぽのままだ」

「飲み物とにんじんしか入ってないよね」

そこで、梶葉くんが「ふふん」と不適な笑いを浮かべた。

「気づいてないんだ」

「何?」

「当ててみて」

楽しい。

「え……何だろ……」

楽しい。

「ヒント。天津さんが好きな物が入ってる」

梶葉くんと一緒に暮らしたら、こんな感じなのかな。
ずっと一緒にいたら、たまにはケンカしたりもするのかな。想像できないけど。

「好きな物いっぱいあるんだけど? もう一つヒントくださーい」

「冷凍庫」

「抹茶のアイス!」

「失敗。ヒントが簡単すぎた」

「いつ買ったの? いつ食べる? 今食べる?」



わたしが未来(ここ)へ来た意味を、この時はまだ考えもしていなかったから笑っていられた――