冷たい月と星天のクロノグラフ

梶葉くんはわたしが話を変えたことを気にすることもなく、普通に返事を返してくれた。

「大学時代に向こうで賞を獲って、それから日本へ帰って来て本格的に書き始めたんだ」

「向こうって?」

「父親が外資系の会社に勤めていて本社へ戻ることになったから、高3になる前に転校したんだ」

「転校って……どこへ?」

わたしの最後の記憶は4月3日で、まだ高3の始業式を迎える前。だから、わたしは梶葉くんのいない高校を知らない。

「LA」

「LAって、もしかしてロサンゼルスのLAのこと? すごいっ。みんな驚いたでしょ」


梶葉くんは数学だけじゃない。英語も得意だった。
理系なのかと思えば国語も得意で、星が好きで、それ以外にもいろんなことを知っていて、わたしに教えてくれた。決して自慢してる感じじゃなくて、嬉しそうに話すから、それを聞くのが好きだった。


「ほとんどのやつは知らなかったと思う。仲いい数人には言ったけど、言いふらすよなやつらじゃなかったし」

「わたしは……教えてもらってた?」

梶葉くんは答える前に俯いた。

「伝えたかったんだけど、俺は避けられてて……電話にすら出てもらえなかった」


避ける?


「ごめんなさい」

「それ、俺が2回もフラれたみたいになってるんだけど?」

「違う! そうじゃない! 何も覚えてなくて!」

焦るわたしを見て梶葉くんは声を出して笑った。

「もう何とも思ってないって。イジワル言ってごめん」


その顔には何のわだかまりも感じられない。
梶葉くんにとってわたしはもう過去でしかないのだと思い知らされる度に、勝手に打ちのめされる。


どうしてわたしは梶葉くんを避けたりしたんだろう……?
どうして電話に出なかったんだろう……?
そんなことをしなかったら、わたしがの未来は違っていたかもしれないのに。

梶葉くんのことは思い出すこと全てが優しい記憶で、嫌なことはひとつもない。
好きなのに、わたしが梶葉くんをフッたなんて、やっぱり信じられない。