冷たい月と星天のクロノグラフ

テーブルの上をきれいに片付けた後、梶葉くんが書いた探偵のシリーズの本の続きを読んでいると、目の前にカフェオレのマグとケーキを置かれた。
梶葉くんは念願のコーヒーを淹れたようで、満足そうに飲んでいる。

「食べていい?」

「どうぞ」

「いただきまーす」

一口食べると、わたしの名前と同じ胡桃の食感が口の中に広がる。

「美味しいっ」

「だろ? これ――」

言いかけてやめたけれど続きは何を言おうとしていたのか、その顔を見てピンときた。
これは彼女の好きなケーキだ。

「それ以上言わなくていいっ! ノロケは聞きたくないです!」

「はは」と笑う顔も、彼女のことを思っているから少し照れたような表情。

「もう一つお土産があるんだ」

「何?」

大きめの手提げ袋を渡されて、中を見ると服が数着入っていた。

「どう考えても俺のじゃ大きすぎるだろ?」

「でも……」

「それ着て明日出かけようよ。ずっと家の中にいてもつまんないでしょ? 仕事は片付いたからしばらく自由だし、行きたいとこへ連れてってあげる」


どうして……そんなに優しくするの……


「……わたしには何も返せるものがないのに……」

「段ボールがだいぶ片付いてる。ケトルも見つけてもらった。それに喜んでもらえると嬉しい。俺は天津さんに会うために生まれて来たようなものだからさ」


わたしは……今、どんな顔してる?
ちゃんと笑えてる?

梶葉くん、わたしは17歳の高校生で、同級生だった頃と違って今は8歳も年下なんだよ?
だからね、梶葉くんにとっては何でもない、大人の言葉遊びみたいなものでも勘違いしそうになるよ。


「いつ作家デビューしたの?」


思いついたあらゆるセリフをスルーして、話をすっぽり変えた。