冷たい月と星天のクロノグラフ

フォトスタンドをもう一度プチプチで包んでキッチンカウンターの上に置くと、その下にあったお皿を流しに置いていった。
お皿のほとんどはペアで、この箱を開けたことを後悔した。


次の箱には本が入っていた。
表紙が料理の写真だったので中を見ると英語のレシピ本だったので、ギリ「台所」表記で正解。

その下は日本語の本で、なぜか同じ物が2冊づつある。
1冊手にとってペラペラとめくると、最後のページにサインがしてあった。
よく見ると本は全部同じ作者が書いたものだったから、推しグッズを保存用にも買うみたいな物なのかもしれない。
帯を見ると書店員も絶賛!ノンストップミステリー」と書かれている。
試しに最初のページだけ読んでみるつもりが、最後が気になってやめられなくなってしまい、一気に読み進めた。
運よく短編集だったので、一話が完結したところで本を閉じたら、目の前に梶葉くんがいた。

「いつからいたの? 気が付かなかった」

「それ、面白い?」

「ちょっとだけ読むつもりだったのに、止まらなくなるくらい面白かったよ」

「キッチンの床に座って読まなくてもいいのに」

梶葉くんはその場にしゃがむと、わたしから本を奪って中をペラペラとめくった。

「どこにあった?」

「台所って書いてある段ボールの中に入ってた。ごめんね、ケトルはまだ見つかってない」

「いいよ。急用が出来たからちょっと出て来る。夕食は何か買って帰るけど、昼は自分で何か買いに行ける?」

「大丈夫だよ。子供じゃないんだから」

「渡したスマホにさっき着信を残しておいたから、困ったことがあったらその番号に電話して。あと、いろんな配信を契約してるから、テレビをつけたら映画でも何でも見放題になってる。暇になったらどうぞ」

「わかった。ありがとう」

「ん。じゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい」

玄関まで見送りに行くべきなのかどうか迷って行かない方を選択した。


25歳の梶葉くんは、わたしの知ってる梶葉くんとは違うということを忘れちゃだめだ。
今、この瞬間は、わたしにとって現在のことだけれど、梶葉くんにとってわたしは過去でしかなくて、もう想い出の一片でしかない。

肝心なことは何も思い出せないのに、思い出さなくてもいい感情を思い出してしまったことは隠し通すしかない。


次の段ボールを開ける前に、ふとキッチンカウンターを見ると、さっき置いたはずのフォトスタンドは片付けられていた。