冷たい月と星天のクロノグラフ

「これはサンカヨウという花で、花弁の細胞の隙間にある空気の泡が光を乱反射することで普段は白く見えるんだけど、雨が空気の泡を追い出すと乱反射がなくなって、透明になるんだ」

「梶葉くんは何でも知ってるね」

「栂池自然園に行けば、サンカヨウがたくさん咲いてるって」

「じゃあ、梅雨の時期にそこへに行ったら、本物を見ることが出来るってこと?」

雨の中を出かけるのは好きじゃないけれど、透明な花弁は実際に見てみたい。

「残念ながらただ濡れさえすれば透明になるわけじゃないんだ。強い雨だと花弁もすぐに散ってしまうし、花が咲くのもたった数日だから、簡単には見ることが出来ない」

「そっか……」

「花弁が透明になったところを見るまで、何回でも行けばいいよ。行く?」

「行きたいっ。いつ行く?」

「長野県だから日帰りは無理だよ」

軽く言われたから、てっきり近くなんだと思ったらそうではなかった。

「長野は遠すぎる……」

「いつか一緒に行こうよ」

誘ってくれたのは社交辞令みたいなもので、その「いつか」だって先の話すぎて、きっとすぐに忘れられてしまう。そう思いながらも、本当にいつかふたりで見に行けたらいいのにと……願った。

「約束したからねーっ! 忘れないでよ!」

冗談みたいに言ったけど、本気だった。

「うん、約束。俺は忘れないよ」

梶葉くんがまじめに答えてくれたから、もしかして期待してもいいのかなと、いつか一緒に見に行くことを夢見た。


わたしは……梶葉くんのことが好きだった。


教室の中ではあまり話さなかったけれど、放課後は違っていて、隣の席に座ってその日あった話をしたり、梶葉くんが読んだ本のことを聞いたり……1日のうちで一番好きな時間だった。


だからわたしが梶葉くんのことをフルなんて信じられない。
それなのにどうして、梶葉くんはわたしにフラれたなんて言うの?
一体何があったの?