冷たい月と星天のクロノグラフ

放課後に図書室へ行くといつも梶葉くんがいて本を読んでいた。
梶葉くんとは2年生で同じクラスになったけれど、最初はあまり話すことはなかった。

あの雨の日の出来事があったからお互いの連絡先は交換していたものの、メッセージのやり取りを頻繁にするわけでもなく、電話をすることもなかった。

話すようになったのは、数学の宿題が難しくてため息ばかりついていたのを梶葉くんに気づかれて笑われたのが始まり。バカにする感じじゃなくて、親が子供に向けるみたいな心地いい感じの笑みだった。

「どこがわかんないの? きっと力になれると思うよ?」

「ここの答えがどうやっても合わなくて」

「これ、一番最初に値を出すところから間違ってる」

プリントをぱっと見ただけなのに、梶葉くんはわたしの間違いをすぐに指摘した。

「うわぁ……最初からかぁ……」


梶葉くんは数学だけでなく英語も出来て、何度か教えてもらううちにすっかり隣の席に座るのが当たり前になった。


季節が梅雨に入ると、じとじとと続く雨にうんざりするようになった。
朝からの雨は、傘をさしていても学校へつく頃には足元を濡らし、せっかく真っ直ぐにした前髪も変なクセが復活している。制服までもが水気を含んでいる気がして気分まで重くなる。
そんな時に、梶葉くんからサンカヨウの花のことを聞いた。

「毎日雨ばっかりで気が滅入るぅ」

その日はお母さんが夜勤の日で、早く家に帰ってもひとりだったから放課後に図書室で宿題をしていた。
その横では早々に宿題を終えた梶葉くんが本を読んでいたのだけれど、わたしのグチに反応する形で会話が始まった。

「梅雨も悪いことばかりじゃないよ」

「それって、雨の恵みがー、って話?」

「まぁ、似たようなものではあるけど」

そこで梶葉くんはカバンの中からタブレットを取り出し何かを見始めたので、話は終わったのだと思い再び宿題のプリントに向かった。

「これ見て」

そう言って、梶葉くんがプリントの上にタブレットを置いた。
そこには大きな葉に対してこぶりな花――透明な花びらの花が表示されていた。

「合成?」

「本物」

「嘘っ! 花びらが透明だよ?」

「この花は雨に濡れると花弁が透明になるんだ。濡れる前はこっち」

今度は真っ白の花びらがかわいい花の写真を見せてくれた。
花びらの数も、葉っぱも、透明な花びらのものと同じ。