冷たい月と星天のクロノグラフ

キッチンの隅にはまだまだ段ボールが重ねられているけれど、さっきはカーテンが出てきたし、どうやら中身が本当にキッチンの物とは限らないらしい。
箱に書いてある名前と中身が一致していないと考えると、「台所」と書かれた段ボールの多さにも納得がいく。
いくら彼女と一緒に住んでいたからといって、やけに箱の量が多いとは思った。
梶葉くんは業者に荷物を詰めるのを頼んだと言ってたけれど、随分杜撰な業者みたい。
思っていたより、ケトルを探し出すのは大変かもしれない。


2つ目の箱を開けると、今度のはちゃんとキッチングッズで、キッチンペーパーやラップなんかが入っていたので、それらを棚に片付け、段ボールをくずしてから次の箱へ移った。

いつ過去に戻るかわからない。その時は突然やってくるかもしれない。だから効率が悪い気もするけれど、自分がここにどのくらいいられるのかわからない以上、中途半端にしないためにはこの方法がいい。

3つ目の箱の一番上にあったのはプチプチに包まれた何かで、その下はお皿だった。
プチプチの中身はフォトスタンドだったので、もしかしたら梶葉くんと彼女の写真かもしれないと、どきどきしながら開けて見ると、それは花の写真だった。
花の写真ではあるのだけれど、男女が片方づつの手を合わせてハートを形作って花を囲っている。

「サンカヨウ」

自然と自分の口からその名前が出てきた。
わたしはこの花を知っている。

サンカヨウは梅雨の時期に咲き、雨に濡れると花びらが透明になる。
写真の花びらも透明だった。

「彼女と行ったんだね……」

サンカヨウの花は、わたしにとって特別な花だった。


この花のことを教えてくれたのは梶葉くん――