冷たい月と星天のクロノグラフ

目の前の「台所」とマジックで走り書きがしてある段ボールのガムテープをペリペリと剥がして中を見るとカーテンが出てきた。
寝室にはカーテンがあったし、リビングにもカーテンはある。箱の中のカーテンの量からして、これは前の部屋の物かもしれない。

このマンションの窓は大きくて既製品では合いそうにない。
オーダーだとしたら、すぐにはできないから家を決めた時点でカーテンを注文したはず。

家を決める→カーテンを注文→引越し→彼女の服は段ボールの中に入ったまま→彼女は旅行へ

どこか変。

急に引越しを決めたならカーテンが間に合わないはずだし、引越し日が決まってたなら、そこへ旅行を被せるのはおかしな気がする。
やっぱり引越しのタイミングで彼女とは別れた説が濃厚。
でも……そうなると、昨日の電話の「愛してる」は誰に?

「はぁ」とため息が出た。
自分のこともわからないのに、梶葉くんや彼女の謎行動について考えてる場合じゃない。
梶葉くんがいたら「悩んだって仕方ないじゃん」って、笑いそう。


昨日梶葉くんから借りた筆記用具の中にマジックがあったのを思い出し、それでさっきのカーテンが入っていた箱に「カーテン」と書いて隅へ寄せた。


あれ……?
わたしはどうして窓の大きさを見て、既製品では合わないと思ったんだろう?
それに、カーテンをオーダーしたらすぐには出来ないことも知っていた。

わたしも引越し経験者?
もしかして両親が離婚して引越しをした?
月埜はお母さんの旧姓なのかもしれない。それなら、わたしの名前が天津から月埜に変わった理由の説明がつく。
オトウサンという言葉に対する嫌な感じは、離婚の原因が父親にあったから――

違う。それなら天津という名前ではなくなることで、お父さんの存在が消えてしまうんじゃないかと心配なんかしない。矛盾してる。

「片付けに集中!」

ぺちぺちと両手で自分の頬を軽く叩いてケトル探しの作業に戻った。
うだうだ考えなくたって、名字が変わった理由は梶葉くんが起きた時に聞けばいい。きっと知っているはず。