冷たい月と星天のクロノグラフ

「おやすみなさい」

「おやすみ」


明るくなってから「おやすみなさい」を言うのは初めてじゃない……?



――行ってらっしゃい――


夜勤から帰って来たお母さんに言われて、学校へ行くわたしはお母さんに「おやすみなさい」を言う。



お母さんは総合病院で働く看護師だった!
月に何回か夜勤があったから、朝帰って来たお母さんとそんなやりとりをしていた。

本当はお母さんを待っていたら遅刻する時間だったけれど、顔が見たくて帰りを待っていたから、そんな日は玄関を出てから猛ダッシュで学校へ向かった。

そこにお父さんの記憶はない。
お父さんは……いなかった?

「オトウサン」という言葉にじわっとからだを何かが這うような感じがした。
それはお母さんのことを思い出した時の温かい感情とは真逆で、梶葉くんとのことを思い出した時のくすぐったいようなものとも違う。あのふわふわした髪の女の子に責められた時だってこんなふうには感じなかった。


思い出そうとしても何も思い出せないくせに、記憶は突然目の前に映像として現れる。
わたしの記憶喪失は、過去から未来へやって来たことと何か関係がある?