冷たい月と星天のクロノグラフ

「まずは、こっち」

呼ばれて案内された部屋には段ボールしかない。

「右の方の封が開いてる箱の中に彼女の服があるから、好きなのを着たらいいよ」

「そんなの彼女さんに悪いから!」

「大丈夫だよ。彼女は絶対に気にしない」


言い切れるのは、それだけお互いのことを信頼し合ってるから?
でも普通に考えたら、知らない女が留守中に家へ上がり込んだ挙句に自分の服を勝手に着たりしたら嫌だと思う。
もし、上手く隠せばいいとか安易に考えてるのだとしたらそれは間違ってる。


「梶葉くんがそう思うだけで、彼女さんは嫌だと思うよ」

「それなら今晩は俺のを貸すよ。それで明日、必要な分は買いに行こう」

買いに……それはそれで梶葉くんに迷惑をかけてしまう……

よく見るとクローゼットの中は空っぽで開け放たれたままになっている。
引越したのが3日前だとしたら、彼女はその間、自分の荷物をクローゼットには入れずに段ボールから出し入れしていたことになる。

もしかして……彼女とはもう別れてて、ここにあるのは「処分して」と言われて置いていかれた荷物?
それならわたしが彼女の服を借りても気にしないと言い切れるのも頷ける。
考えてみれば彼女が引越しと旅行の予定を被せるのもおかしな気がする。
「彼女がいる」と言った方がわたしが安心すると思って、梶葉くんは咄嗟に「旅行中」と嘘をついたのかもしれない。

でも、それだと梶葉くんの指にある指輪の理由は?
抜けなくなっただけ?

「彼女の服」についてぐるぐると思考を巡らせていると、梶葉くんが笑いを堪えている姿が目に入った。

「まーた考え過ぎてる」

そう言われても、彼女とのことがはっきりわかるまで、やっぱり服は借りれない。

「梶葉くんの服を貸してくださいっ!」

お願いするにはちょっと勢い良すぎたせいか、今度は声を出して笑われた。