冷たい月と星天のクロノグラフ

梶葉くんのマンションはエントランスがオートロックになっている綺麗なマンションで、しかも最上階。さっき自分のことを「少しばかりお金持ち」と言っていたけれど、それは謙遜だったということが判明した。とても25歳で住めるようなところじゃない。

「驚かないように」

そう念押しされたのに梶葉くんが玄関を開けた途端、唖然として声を失った。リビングへ続く廊下は両サイドが段ボールで埋まっていて、ひとひとり通るのが精一杯。

「中はマシだから」

そう言われたけれど、リビングダイニングも端の方に段ボールが積み重なっている。

「もしかして引越したばかり?」

「3日間前に。ちょうど仕事が忙しい時で荷物を詰めるのは業者に頼んだんだけど、開封はゆっくりやるつもりで頼まなかったんだ。で、いまだに片付ける余裕がないまま。寝室は片付いてるから使えるよ。俺は仕事部屋で寝るから安心して」

「お仕事って、家でしてるの?」

「そういうこと。夜中に機(はた)を織るけど決して覗かないように」

「それ、鶴の恩返しだよね? 機を織るのは助けてもらった恩返しなんだから、この場合はわたしが布を織る方でしょ?」

「だな。でも寝室には鍵があるから、鍵をかけたら覗かれないで済むよ」


鍵という言葉に、胸の中がざらりとした。
理由はわからない。