冷たい月と星天のクロノグラフ

「コンビニに寄って帰ろう。いる物もあるでしょ? 天津さんはこれで買って。俺の方はカードで払うから。レジが一緒だといろいろ困るでしょ」

お金を返すあてもないのにスマホを受け取った。

「アプリの使い方は……わかる? 遠慮しないで好きな物買っていいよ。俺はこう見えて少しばかりお金持ちだから」

アプリで買い物が出来るということも、連れてきてもらったのが全国チェーンのコンビニだということも、日常生活に関することは覚えている。
でもそんなことを覚えていても、わたしにはお金も行くあても無い。

「ごめんなさい……ありがとう」

「I wish to lessen any burden you might carry.」

「何? いきなり英語とかわかんないんだけど?」

「わかんなくていーよ」

「ねぇ、もう一回ゆっくり言って!」

「一回で聞き取れない天津さんが悪い」

「ずるいよ!」

梶葉くんは笑うばかりで、こっちのお願いなんて聞いてくれない。おまけにわたしをおいて、ひとりですたすたと先に歩いて行くから、走って追いかけた。



「ここが家から一番近い」と教えられたコンビニへ入ると、中では会社帰りっぽいスーツ姿の男性が数人ほどお弁当を見ていた。

「梶葉くんは今日仕事がお休みだったの?」

「うーん……休みというか仕事というか……年中仕事してる気もするしなぁ……休みの境界線が曖昧っていうか……」

そう言った後、口角を少しあげて優しい目でじっとわたしを見つめてくる。

「な、何?」

「天津さんに『梶葉くん』って呼ばれるの懐かしい」

「そうだよね。今は8歳年上なんだから『くん』は間違ってた」

「今のままでいいよ。今のままがいい」

わざわざ言い直した梶葉くんが、ぽんっとわたしの頭に手を置くから、ちょっとどきりとした。