冷たい月と星天のクロノグラフ

いろんな疑問をわたしが口に出すより先に梶葉くんの方から答えをくれた。

「天津さんにとって俺はただの友達でしかなかったのに、それを俺は勘違いしてたんだ。あの頃はごめん」

「謝られても……覚えてない」

「そうだった」

すれ違った人がチラリとこちらを見た。
セーラー服を着た女子高生が成人男性と歩いているのが目を引いたのかもしれない。
わたし達が同級生だなんて誰も思わない。
でも、梶葉くんはわたしの話を信じてくれた。

「家はこの辺なの?」

「今日は用があってこっちの方に来ただけで、近くはないかな」

梶葉くんは左手の薬指に指輪をしている。

「もしかして……結婚してる?」

「まだ結婚はしてないけど一緒に住んでる彼女がいる」

何の躊躇もなくすんなりと返ってきた返事。

「やっぱり……行けない」

自分の彼氏で同棲までしている見ず知らずの女子高生を家へ連れて帰って、しかもそれが過去から来た同級生だなんて言ったらどうなるか、わたしでも想像がつく。
彼女がそんなバカげた話を信じてくれるとは到底思えない。
梶葉くんは女心に疎いのか、上手い嘘で丸め込もうとしているのか……どう考えても前者のような気がする。

急に立ち止まったわたしに梶葉くんは言った。

「彼女は昨日から旅行に行ってていないから気にしなくていいよ」

「でも……」

「大丈夫。何も心配しなくていいから」

彼女に申し訳ないと思いながらも、今のわたしには梶葉くんしか頼る相手がいなくて、その提案を受け入れた。